サラリとしたそれを匙で掬い、口へと運ぶ。ゆっくりとよく噛んで味わう。久しぶりに味わうのであろう隣に座るゴザルニはその瞳から涙を零しそうだ。忙しなく口へと運ぶのを見て、よくもまぁそんな勢いで食べられるものだと思いつつ、味わった其れを呑み込み。レフィーヤは一言、自分の仲間であるハインリヒに向かって口にする。
「まだまだですね」
「作らせて於いて言う事が其れなの?」
どうかと思いはしたが留める事が出来なかったレフィーヤは、もう作らなくても良いんだよと言われて見事な土下座を決めるのであった。
「あぁ、至福でござる」
言いながら満足気に水を飲むゴザルニ。かなりの量を食べていたが大丈夫なのだろうかと思わなくもないレフィーヤだが、そう言えばアスラーガに居た時はもっと食べてたなと思い出す。
「何というか、もう犬扱いされても良い気がするでござる」
「なんか凄い事さらっと言いますよねゴザルニさん」
「それくらい苦痛で、そしてハインリヒ殿の料理に救われたのだと思ていただければ嬉しいでござる。」
そう言われるよ頷くしか無しレフィーヤだった。と、そう言えばとゴザルニが見渡す。
「ローウェン殿とコバック殿は何処に? 拙者、料理に夢中だった故何か言っていても聞いて居なかったかもしれないのでござる」
「ローウェンさんは評議会にミッション達成の報告と序でにそこで情報収集。コバックさんは市場の方に行きましたよ。武具の整備を任せられる人を探しに行くとか言ってましたね」
「成程、何方も重要な事でござるな」
「そうだね、怠れば命にかかわる事だ」
「あ、戻ったんですか。思ってたより早かったですね」
「専用の洗い場が在ったからね。とても役立ったよ」
「へぇ、そんなのもあるんですね」
流石、アルカディア。ハインリヒさんの故郷のある土地。まぁ其の位無いと共存は難しいのかな、なんて思ったり。
「それで、満足してくれたかな?」
「満たされたでござる」
「そうですね」
「まだまだだって言った人の言葉とは思えないね」
「それはあれですよ。本音が漏れたと言うか」
「寧ろそっちの方が駄目だよね其れ」
「ですね」
もう少し我慢を覚えるべきだろうかと悩むレフィーヤを横目に、二人は会話を楽しむ。
「してハインリヒ殿。此れから如何する積りなのでござるか?」
「僕? 僕はそうだね…うん、僕もコバックと同じ様に市場に行こうかな。色々と買っておきたい物もあるし。知り合いと改めて話をしておきたいしね」
「ぬん? 知り合いが居たのでござるか?」
「うん、セリクって言う商人でね。軽く位にしか話せなかったからちゃんと話をしておきたくてね。ロダンやシュバルツがどうしてるのか訊きたいし」
「成程でござるな」
「そういえばゴザルニの口調は何でそんなのなんだっけ?」
「言ってなかったでござるか? あぁ、いや師匠が近くに居たから改めて訊く訳でござるか…しかし確かに今考えると謎でござるな。何故、拙者はこのような口調に」
「え、可愛いでしょうその口調?」
そう、首を傾げていたゴザルニに対して、何時の間にか居たミカエは口にした。
「……其れだけでござるか?」
「それだけ」
「え、それじゃあ」
「切り殺すぞ」
「まだいってないでござる」
一瞬で表情が抜け落ちたミカエに、思わず涙目に成るゴザルニ。
「でも可愛いって思うなら自分で言えば良いじゃないですか」
「駄目よ。わたくしには合わないもの」
「そうなんですか?」
「そうよ。拙者がこの様に言った所で愛らしさの欠片も御座らぬ故に」
「わぁお」
確かに、可愛いとは言い難い感じになっている。凛々しくは在るのだが……うん、合いすぎてて逆に合ってないと言うか。
「ね? 可愛くないでしょう?」
「そう、ですね。可愛いとは言い難いですね」
「だから、その口調でも可愛いゴザルニに言わせてるの」
「と言うか師匠はどうやって拙者をこのような口調にしたのでござるか?」
「どうやってって。寝てる間に只管ゴザルニは拙者でござるって耳元で言い続けただけだけど」
「あの時の悪夢は師匠の所為でござったのか?!」
「あら、悪夢見ちゃってたの? それはごめんなさいね」
「謝るなら」
「切り落とすぞ」
「何処をでござるか?!」
「え、何処って」
ミカエの視線が、スッと上へと向かう。頭の上に在る耳へと。
「耳、耳を切り落とすのでござるか?!」
「いやねぇ、そんな事はしないわよ!! 精々、毛が無くなるまで剃り落とす程度よ」
「十分を恐ろしいでござるよ!!」
涙目になりながら耳を庇う様に抑えるゴザルニ。不覚にも、その様子に少し可愛いと思ってしまった。でもこのまま話を続けるとあれなのでと言う事で。話を変えるように、気になっていた事を口にする。
「そう言えば、あれなんだったんですかね」
「あれ? あれって何?」
「あ、ミカエさんは多分分からないです。今日迷宮行っていた時の事なので」
「そうなの。なら確かに分からないわね」
「迷宮内で…何か在ったっけ?」
「ありましたよ。其れもずっと」
「ずっと?……あぁ、若しかして」
「成程、確かに良く分からない事ではあるでござるな」
「でしょう?」
納得したと言いたげに頷くハインリヒと同意するゴザルニ。
「結局、誰が私達の事見てたんですかね?」
「迷宮に入った直後からだったね、確か」
「言う通り、ずっと見られていたでござるからな」
見続けた割には姿を見せる事の無かった視線の主。気に成ってしまうのは仕方の無い事だろう。しかしまぁ。
「今考えても分からないんですけどね」
「情報が足りないからね」
「迷宮を進めば分かる事、なのかもしれないでござるからな」
「成程、ずっと見られてたと……貴方達ってモテモテなの?」
かも知れないとレフィーヤ達は笑い、ゆっくりと休みを堪能するのであった。
モンスターとは違う敵意の無い視線が何であったのかを考えながら。