世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百十四話

アイオリスの大市。多くの商人の声が響き、多くの人々が行き交うその場所の一角。軽く探した結果、丁度いい布が売っているのを見つけたレフィーヤが見ているのは。

 

「ハインリヒ、出来れば友達のままでいたいんだよねおいらは」

「奇遇だねセリク。僕もそう思っていた処だよ」

「本当かい? それは確かに奇遇だね」

「仲が良いって証明されてしまったね」

「まったくだ!!」

 

「と言う訳でもっと削れるよね?」

「これも買ってくれるなら良いけど?」

 

ハインリヒはブラニーの商人、セリクという男性と笑顔でそんな会話を繰り広げている光景。とてもいい笑顔を浮かべながら。しかしレフィーヤの背に冷や汗が流れる程度には恐ろしい。下手すればそこらのモンスターと戦っている時よりも。

 

「そういえば眼鏡変えたんだね」

「気が付いてたんだ」

「勿論だよ。寧ろそういった細かいところに気が付いていないとでも思ったのかい?」

「無いね」

「だろう? と言う訳でってことでは無いけど。眼鏡を拭くのに便利そうな布があるんだけど要るかい?」

「買わせようってことかな?」

「まさか?! そこまでしないよ。このくらいならただであげるよ。だってほら、友達だし?」

「……そうだね。まぁ、貰えるものは貰っておくよ」

 

そう言いながら、はいと差し出された布を受け取るハインリヒ。変わらず笑顔だがレフィーヤは今にも舌打ちしそうな雰囲気であることが分かった。

 

なんでそんな事になって居るのかは分からないが。

 

「しかし、なんだって布を欲しがってるのさ?」

「それ客である僕に聞くこと?」

「ではないけど、ほら友人としては気になってね」

「まぁ、隠すことでもないけど。僕の仲間の…あぁ、後ろの方で容赦なく買わせようとしてる君に怯えている女性、いや少女かな? どっちが適切かな…どう思う?」

「え、いや聞かれても困ります」

「まぁ、だよね。それでこの子が色々と冒険に役立つものを作っていてね。その材料として布が必要なんだよ」

「ふーん、成程ね。それって消耗品なのかい?」

「消耗品……なのかな。詳しくは僕には分からないけど」

「間違いなく消耗品ですよ。所詮、布ですし。どんなに頑丈でも破れてしまうものですし」

「成程。つまり量があって困ることではないのかな?」

「それは、そうですね」

 

レフィーヤが頷いて見せると、セリクは少しだけ考えるような仕草をしてから、笑顔を浮かべて頷いた。

 

「良し!! そういう事なら少し無理してあげよう。えっと、確かこの布でよかったんだよね?」

「え……そうですね」

「じゃあ、これを……うん、この値段でどうかな?」

「はい?」

 

思わず変な声が出るレフィーヤ。それも仕方の無い事だった。何せ提示された金額が先ほどまで言っていた時のものよりかなり安かったのだから。これは、大丈夫なのだろうとか視線をハインリヒに向ける。その前に彼は動き出していた。

 

「どう言う積りなのか聞いてもいいかな?」

「商人であるおいらにそれを聞くのかい?」

「だからこそ気になってね」

「なら言っておこうかな。さっきのハインリヒと同じで隠すことでもなく、いや寧ろ言ったほうがいい類か。だから言うけど単純に君たちのことを優秀な冒険者だと思ったからこそだよ」

「…成程、しかし必ずと言う訳じゃないよ? ほかの仲間と話をしてからじゃないと」

「其れは勿論。だけど、これだけはちゃんと伝えておいてくれ。おいらは君たちに対して必要なものをできる限り安く提供する事ができると」

「…最初からこれを狙ってたね?」

「いやいや流石にそんな事はないけどね。まぁ、途中からはって感じかな?」

「はぁ、相変わらず抜け目ないね」

「君こそ、相変わらず容赦ないよね。おいらだったから良かったものの、そうでなければ泣くことになってただろうね」

「実際、泣かせたからね」

「…あぁもしかして角の所の?」

「そう」

「うぁ、今度飲み物でも奢ってあげよ」

「良い感じに?」

「良い感じに」

 

言って楽しそうに笑いあいながら、先ほど提示された金額を差し出して布を唖然としているレフィーヤに渡して、それじゃあと別れを告げてから歩き出すハインリヒ。どんどん離れていく彼を慌てて追いかけるレフィーヤ。追いついたと同時に、彼に問いかけた。

 

「で、さっきのどういう事なんですか?」

「セリクの目的の事かな?」

「えぇはい。私にはよく分からなかったんですが」

「難しく考えすぎだね。もっと単純に商人の目的を考えればいい」

「目的? お金を稼ぐことですか?」

 

まぁ間違ってはいないねと言いながら。

 

「さっき彼が言っていたように最初からって訳ではないようだけど。途中から僕たちに店を利用してもらう事を考えてたみたいだね」

「私たちにですか? いやまぁ確かに色々と消耗品を買い込みはしますけど」

「違う違う。そっちじゃないよ。売る方じゃなくて買う方だよ」

「買う?」

 

自分たちではなく商人であるセリクの方が。と言う事なのだろうか。そう考えて、成程と頷いた。

 

「さっきの優秀な冒険者って言うのはそういうことですか」

「だろうね。まぁ商人からすれば迷宮からとれる貴重な素材を手に入れられるならそっちの方が儲けが出るって事なんだろうね。僕には良く分からないけど」

「ブラニー族は商人が多いって聞きましたけど」

「多いってだけでそれだけじゃないってだけのことだよ。僕みたいにね。値切りだって色々と入用に成る事が多いから覚えただけだしね」

「成程」

「まぁ、取り合えず君は目的の物が安く手に入ったことを喜んでいればいいんだよ」

 

その言葉に、そうですねと頷きながら二人は歩く。ジェネッタの宿に向かって。

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