世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百十五話

アルカディアに聳える世界樹。そこにありし迷宮の第二階層。奇岩の山道と名付けられたその場所に乱立する奇妙な岩を背に、ギルド・フロンティアは遥か遠くの果てまで見えているのではと思うほどの景色を、なぜか横一列に並びながら眺めていた。

 

「二階層にしては結構高い場所にあるな」

「そうね。まぁ、アスラーガの世界樹は上ったわけじゃないし。ハイ・ラガードの世界樹の時はこんな風に見えたりはしなかったから分からないけど」

「迷宮、高い、落ちる、割れる、眼鏡…う、頭が!?」

「ハインリヒ殿は如何したのでござるか?」

「ちょっと、嫌な事を思い出しただけですよ」

 

あれは悲劇でしかなかったなと思い出しながら景色を眺めるレフィーヤ。まぁ、あの時のことに関しては本当に運が悪かっただけなので、話しても仕方ない事だ。というか下手するとハインリヒの闇が露になって冒険処ではなくなってしまうかもしれない。

 

狂ったように呟きながらガラスを磨く彼の姿など、もう見たくはないし。

 

「…あれだな」

 

何気なく、呟くローウェン。一体如何したのかと視線を向けると。

 

「やっぱり冒険って良いよなぁ」

「ですね」

 

全くもってその通りだと頷くレフィーヤ。他の三人も同じように頷く。ちなみに否定などするわけもない。基本的にここにいる全員が冒険に嵌まり込んでいるある意味で駄目な存在なのだから。

 

さて、どれほど景色を眺めていたか。ふっと、ローウェンは息を吐き。

 

「それで、さっきから俺達の事を見てるのは誰だ?」

「…気が付いていたのか」

「寧ろ気が付かないとでも思って居たのか?」

「そんなに分かりやすかったか?」

 

そうかと言いながら、岩の陰から歩きながら出てくる人物。恰好や背負っている武器と共われる鎌見るに、リーパーなのであろう少女が、視線をギルド・フロンティアへと向ける。

 

「ふむ……で、誰だ?」

「俺を知らないのか。これでも街では名を知れてると思ていたんだがな」

「名前は知っていても見たことがなければ判断できんだろう。そこまで分かり易い特徴があるわけでもないし」

「む、それもそうか」

 

なら仕方ないかと呟いて。

 

「なら名乗ろう。俺はソロル……死神だ」

「え?」

 

ソロルと名乗った少女に、なぜかコバックが驚いたように声を上げる。一体どうしたというのか、可笑しなことは言っていないはずだ。まぁ、リーパーではなく死神と名乗るは珍しいかもしれないが。と、そこまで考えて不意に嫌な予感がするレフィーヤ。それはローウェンとハインリヒも同じなようで。止めようと動き初めて、その前に彼は言葉にした。

 

「死神なの?」

「そういっただろう」

「人に見えるけど」

「? 当然だ、俺は紛れもなくアースランなのだから」

「でも死神なのよね?」

「何を言っているんだ?」

「え。死神って神様の事よね?」

「そうだな、確かに死神は……まさか」

 

ハッとした様に驚きの表情を浮かべるソロルに、コバックは言葉にする。

 

「貴女…神様なのね」

「俺は、神だったのか?!」

「はいちょっと離れようようかぁ!!」

 

ハインリヒが力強くコバックを引っ張りソロルから引き離す。それを見てからスルリと前に出たレフィーヤ。

 

「あの、ソロルさん。少し落ち着きましょう? 違うでしょう、さっき自分で言ってたじゃないですかアースランだって」

「それは、そうだな」

「ね? 神様じゃないでしょう? 死神っていうのも、リーパーの事でしょう? コバックさん…あ、さっきバカみたいなことを言っていた人の事なんですけど、あの人の言葉に惑わされちゃいけませんよ」

「に、ござるな。あ、名乗ってなかったでござるな。ゴザルニにござる」

「ござ…ござ?」

「ちょっと黙ってましょうね!!」

 

別に悪いと言う訳ではないが錯乱しているのではと言いたくなる状態のソロルにさらにややこしいござる分を投入してはいけないとレフィーヤは思うのだった。これでソロルがござるなどと言い始めたならばミカエくらいしか喜ばないだろう。阻止せねばならない。

 

「まぁ、自己紹介はもう少し落ち着いてからでいいですよね」

「わかったでござる」

「俺もそれでいいでござる」

「それならってうつってる?!」

 

影響を受けすぎではないだろうかと思わずにはいられない。もっとも影響力が、というかキャラが二人の濃すぎるのがいけないのかもしれないが。

 

「落ち着きましょう? とりあえず落ち着きましょう?!」

「レフィーヤ殿、力を入れすぎでござる。ソロル殿の肩がみしみし言ってるでござる。というか拙者のござるはうつるのでござるか。まったくもってござるとは難解でござるな。いやそもそもござるとはなんでござろうか。ござる、ござる、ござる。いっても分からないでござるな」

「ご、ござ? ござざ??」

「ゴザルニさぁーーーん?!」

 

何故、今その言葉を連続で口にするのか。もしかしてござるという口調を広めようとしているのかと、思わず叫ぶレフィーヤ。

 

そして。

 

 

「はい、おふざけ終了」

「あ、はーい」

「そしてギルド・フロンティアメンバーの自己紹介」

「レフィーヤ・ウィリディスです」

「コバックよ」

「ハインリヒだよ」

「ゴザルニにござる」

「ローウェンだ。よろしく」

 

そう、笑顔で言葉にする五人を見て、唖然としたように口を開けっ放しにするソロル。その様子に、満足げにローウェンは頷き。

 

「じゃあ、探索と行こうじゃないか」

「はーい」

「でござるな」

「そういえばまだ視線を感じるから彼女でもなかったみたいだね」

「みたいねぇ。本当に誰が見てるのかしら」

「知らんが、そのうち出てくるだろう。敵としてかは分からんが」

「その時に成ってのお楽しみですねぇ」

 

そんな会話をしながら探索のために歩いていくギルド・フロンティア一行。そんな彼等を見て、ソロルは小さく呟いた。

 

「………どういう事でござる?」

 

なお、ござる口調が抜けるのに数日掛かったそうだ。








奇岩の陰。そこにある人影は。

「フロンティア……か」

風にローブを揺らしながら、確かめるように呟いて。

小さく頷いた。
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