世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百十六話

殺意が嵐の如く吹き荒び、狂笑は響き渡る。ただ、風の吹く音だけが響いていた第二階層に歓喜が満ちていた。あぁ、この時をずっと待っていたのだとレフィーヤは壊れたように笑い声を響かせながら厄災の如く猛威を振るい、眼前の敵へと印術を容赦なく放ち灰に変えていく。

 

他の仲間は如何しているのだろうか。いや、いいやと首を僅かに振る。見るまでもないだろう。そうでなければ自分に向けられているわけでもないのに痛い程の殺意を感じることもないだろう。だから、レフィーヤも変わらず、さらに笑みを深めて、さらに灰に変えようと印術を行使する。

 

「しねぇえ!!」

 

栗鼠に向かって。

 

 

暫くの後、嵐が過ぎ去った第二階層。そこで体を解す様に伸ばしたローウェンが言葉をこぼす。

 

「あぁぁあ……お前らは落ち着いたか?」

「取り合えず」

「あたしもよ」

「すっごい汚れちゃったよ」

「水浴びしたいでござる」

 

そんな会話をしながらレフィーヤは何気なく辺りを見渡す。あるのは大量の栗鼠の、正確には稲妻リスと名付けられていた筈のモンスターの死体。

 

「それにしてもここは凄いわね、こんなに栗鼠が居るなんて」

「まぁ、途中から逃げ出したのを追い回してたからね」

「…張り切りすぎたわね」

「今度は気を付けないといけないね」 

 

まぁ、次があるならその時も同じ様な事になるだろうが。何時もすぐに逃げてしまう栗鼠が敵意を持って襲い掛かってくるのだ、それはもう殲滅するしかないだろう。

 

「じゃあ、少し休憩…の前に移動するか。ここでは流石に休めそうにない」

「そうですね」

 

自分たちがやった事とはいえ、こんな場所では落ち着いて休むことなどできない。匂いにつられてモンスターが何時現れるのかもわからないし。まぁ、あれだけの殺気を撒き散らしていたのだから早々は現れないだろうけど。強いモンスター以外は。

 

其れは流石に避けたいので足早に場所を移動するギルド・フロンティア一行だった。

 

 

 

「なんか思ったよりも少ないね」

「何がですか?」

 

休憩中、ボソリとそんな事を呟いたハインリヒにレフィーヤは問いかける。いや大したことはないんだけどと言い。

 

「落ちそうな場所がだよ」

「……あぁ、そうですね」

 

はいと手渡された水を受け取り、軽く口を注ぎながら思い出し、確かにと頷く。六階に辿り着いた時はそうなのだと思って居たのだが、上に上がってみると壁となる岩で囲まれていた。

 

「悪い事ではないですよね」

「まったくもってその通りだよ。だから、よかったという感情を込めて言ったのさ」

「成程」

 

そういう事かと納得しつつ、コップを返すレフィーヤは、ふと気になり手のひらを眺める。その様子に、ハインリヒは問いかける。

 

「調子でも悪いのかい?」

「あぁ、いえそういう訳じゃないんですけど……いえ、そうですね。何となく違和感があるというか」

「ちょっと診てもいいかい?」

「じゃあお願いします」

 

何かあってからでは困るので、その言葉に素直に従うレフィーヤ。そんな彼女を軽く診るハインリヒは、しかし首を傾げた。

 

「これと言って悪い訳じゃなさそうだね。まぁ、迷宮内だからそこまで詳しく診れた訳じゃないけど」

「まぁ、そうだろうなとは思ってましたよ」

 

調子が悪いのではなく、違和感を感じるだけなのだ。それはかなりの違いがあり、しかし放置すれば致命的なミスを犯しかねないもの。レフィーヤとしても何とかしたいのだが。

 

「疲れてるから、と言う訳でもないんだろう?」

「あ、ローウェン」

「もしかして気が付いてました?」

「時々確かめる等に動いてたからな。割とすぐに気が付けたぞ」

「相変わらずさらっと凄い事言いますね」

 

自分でもは何となく違和感があるといった程度でしか無いのに、さらりと気が付いていたというローウェンに何度目かもわからない戦慄を覚えつつも、どうせだからとレフィーヤは問いかける。

 

「で、ローウェンさんは如何思いますか?」

「一言。そこまで分かるわけないだろう」

「ですよね」

 

全くもってその通りだ。というか分かってたなら問いかけるように言葉にせずに、すぐに言ってくるだろう。冒険に関わってくることだし。

 

「まぁ、取り合えず詳しく分かるまでは何時もよりも余裕をもって進むしかないだろう」

「そう、ですね」

「その割にはさっきはっちゃけたけどね」

「それはほら、相手が栗鼠で。なんの憂いもなく恨みを晴らすことが出来た訳ですから」

 

寧ろ、あの時に戦うなとか言われる方が嫌だ。あんな祭りに参加してはいけないとか拷問でしかない。

 

と、その時だ。

 

「あ?」

「ん?」

「おや?」

 

揺れたのだ。ハイ・ラガードの時と比べると微かにでしかないが。それでも揺れていると認識できる程度に。それに、それだけではない。

 

「何か聞こえるでござるな」

「何かが暴れてるのかしらね?」

 

言いながら近づいてくるゴザルニとコバック。見れば、二人ともいつでも臨戦態勢である。

 

「ふむ……上からだな」

「と言う事は八階か。そこで七階にまで揺れや音を届かせるような何かが暴れていると」

「そうなるな。さてどうするか」

 

少し考えるような仕草をしてから、視線をレフィーヤへと向けるローウェン。大丈夫かと問いかけているようで。それに対してレフィーヤは大丈夫だと頷いて見せた。

 

「…無理はするなよ?」

「分かってます」

「なら良い。と言う事で軽く確認しに行くか」

 

言いながら、彼は歩き出し、それに四人も続く。八階で暴れる何かを確かめるために。

 

 

そして彼らが目にしたのは余りに巨大なモンスターの姿。

 

 

 

「あ、ゴザルニ? ゴザルニじゃないか!! 久しぶり、久しぶり? 久しぶりか? 分からんけど良いよなぁ!!」

「おじさぁぁぁ―――――――ん?!」

 

と、其れに追い掛け回されている……一人のバカだった

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