世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百十七話

「え、何? どういう事なの?! 意味わかんないんだけど?!」

 

そんな風に声を荒げるゴザルニ。口調が変わっていることからどれほど混乱しているのかが分かる。けれどそれも仕方の無い事だろう。

 

なにせ先ほどの言葉が正ならば叔父が、なぜか第二階層に居て、これまた何故か強大なモンスターに追い掛け回されているのだ。なぜ、という部分がなぜなのか理解できたとしても混乱するなというのは難しい事だろう。

 

そんな風に取り乱し、思わずといったように手を頭にやってしまったゴザルニは。

 

 

すでに駆け出していた。

 

 

素早く、音を消し気配を断つ。暴れまわる強大なモンスター。山かと見紛うほどに巨大な象に向かっていた。けれどそれは別に叔父を助ける為にではない。ただ、視線を巨象に向けた瞬間に理解したからだ。

 

あれは倒さなければいけない敵だと。

 

ゆえに混乱しながらもそれを置き去りにして冒険者としてすべき事をする為にゴザルニは。いいやギルド・フロンティア全員が動き出していた。

 

「おぉ?! ゴザげほっ! とてもおほぉ……速い、なぁ!!」

 

ゴザルニはそんなバカみたいなことを苦し気に咽ながら叫ぶ叔父の横をスルリと抜ける。間近迄迫られた巨象はしかし、気が付いていないのか。それとも諸共に踏みつぶせばよいとでも思ったのか振り上げられたその巨体に見合った前足は。

 

レフィーヤの生み出した巨大な氷柱によって阻まれる。突然のことに驚いたようにその体を震わせる巨象は、しかしだからどうしたと咆哮を轟かせながら氷柱を踏み砕く。止めることができていたのは一瞬だけ。

 

けれど、その一瞬があれば氷柱を駆け上がり巨象に到達するなどゴザルニには造作もない事。故に、巨象が目にしたのは自身の瞳に向かって刃を突き立てんとするゴザルニの姿だった。

 

第二階層を揺るがすほどの声、悲鳴が響き渡る。振り下ろさんとしていた足はしかし、瞳を貫かれた故に猛威を振るうことなく、ただ態勢を崩すのみとなった。

 

巨体が崩れ落ちる。倒れただけであるというのに立っていられない程の揺れを引き起こす。が、しかし。たかがその程度で動きを止めることなどありはしない。なぜならばすでに対策済みだからだ。だからと言って何かができると言う訳ではないが。何せ、走る激痛と倒れた事でパニックになっている巨象は激しく暴れ、足掻いている。近づけば無事では済まないだろう。

 

故に、レフィーヤの印術とローウェンの銃弾が殺到する。

 

炎が、氷が、雷が巨象へと降り注ぎ。弾丸は正確に貫かれた瞳をさらに抉る。そして、直後に自身の感覚に従いその場から飛び退き叩きつけられた鼻を避ける。

 

巨大である故に、ただそれだけで生み出された吹き飛ばされそうな突風をやり過ごす。視線を巨象に向ければ今まさに起き上がろうとしているところだ。

 

「…思ったよりも効いてませんね」

「硬い訳ではなく只管にでかい所為で効きにくい、か。面倒だな」

「けど」

「勿論、倒せない存在じゃない、っと。コバック!!」

「何かしら?」

「あれの攻撃流せるか?」

「流石に無理ね」

 

迷うことなくそう答えるコバックに、まぁだろうなと呟きながら視線をさっと巡らせて。

 

「で、お前は大丈夫なのか?」

「そうでなければここにいませんよ」

 

違和感を感じたらなすぐ邪魔にならない場所まで退く積りだしと考えながら言葉にし、それを聞いたローウェンは頷いたのみながら、鞄から手袋を取り出し身に着ける。

 

「じゃあ、いつも通りだ」

「ですね」

 

直後に殺意の波が押し寄せる。それは残された巨象の瞳からあふれ出たもの。彼らの事を敵だと判断したという事だろう。意識の全てが向いている。だからこそやり易いと言えなくもないし。

 

何よりも遅すぎる。すでに行動は終えている。

 

残った瞳に向かって放たれた弾丸は突き進む。巨象からすれば塵のような物でしかないそれを、しかししっかりとその瞳は捉え、別の場所に当たるようにその巨体を僅かに動かす。避けられないと理解しているからか、出来るだけダメージが少なくなる様に動いているのだと見てわかる。そしてその程度の動き、ローウェンが見切れないはずもなし。

 

弾丸は、巨象が自ら当たりに行ったかのように瞳を撃ちぬいた。

 

二度目の悲鳴。不意を突いた故の最初の一撃と違い、ただ技量のみをもって瞳を穿つ。しかし巨象は悲鳴を響かせるのみ。その巨体ゆえの強靭さか撃ち抜かれてなお光を映しこんでいる瞳は確かにローウェンを映す。

 

あれが怨敵なのかと咆哮を轟かせながら踏みつぶさんと突撃する。けれど、それは余りにも鈍重だった。

 

いけないなと思いつつも、しかし過去のそれと比べて脅威と言えないその突進に合わせるようにレフィーヤは印術を行使する。輝ける印が示すは天の雷。三種の術を放った際に一番効いている様に思えた故の選択。

 

尤もその一撃で止めを刺せるとは流石に印術の威力に自信を持っているレフィーヤとて断言することはできない。普通ならば。

 

ガチリと噛み合う音が響く。それはレフィーヤの身に着けた手袋から響く音。それが何を意味しているのか当然レフィーヤは知っている。故に、躊躇いもなく準備が完了した手袋に施した印術を。

 

印術で再現した圧縮錬金術を行使する。

 

走る雷。光が瞬き巨象の体を抉る。今までの比ではない激痛と零れ落ちていく命の感覚。巨象はその体を大きく震わせて崩れ落ちる。それでも勢いは失われず地面を揺るがし削りながら突き進み。彼らの眼前で止まる。そして、驚くことに体を、そして頭部を抉られたというのに未だ生きており立ち上がろうと足掻いている。だが、それだけだ。

 

零れていく命を留める事など出来ずに。微かにその体を震わせた巨象は、第二階層を震わせながら……息絶えた。

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