巨象を打倒したギルド・フロンティア。しかし流石にこのまま進むのはどうなのかと言う事で一度街に帰還していた。そして。
「このバカがぁああぁぁぁあああぁぁあああ――――――――っ!!」
怒声がアイオリスの街に響き渡る。近くにいた人たちは驚いて振り返り、叫んだ存在の表情を見て慌てて離れていく。
そんな風にさっさと離れてしまいたいなと思いながらも、間近で怒声を聞いてしまったゆえに、酷い耳鳴りに苛まれながらレフィーヤは視線を向ける。そこにはちょっと人としてどうなのだろうかと思う表情を浮かべてしまっているセリアンの老婆がゴザルニの叔父を怒鳴り散らしている。
「あんたはまたバカなことをして人様に迷惑を掛けよってからに!!」
「いやミル婆、別に迷惑は掛けてないぞ?」
「黙れ!!」
拳を頭に叩き込み、陥没してしまうのではと思うほど鈍く重い音を響かせる。なんか凄い事になったなと思いながら、視線を横に居るゴザルニに向けて尋ねる。
「で、あの人誰ですか?」
「ぬん? あぁ、ミルンル婆様でござるな。拙者に色々と教えてくれた人でござるよ」
「もしかして泣いた人ですか?」
「にござる」
「成程」
改めてミルンルというセリアンの老婆を見る。元がどんな顔なのか分からない程怒っているので判断に困るレフィーヤだった。
「そもそもあんたはなんだって第二階層に居たんだい全く」
ふぅと少し落ち着くためか、息を深く吐き。疑問に思っていただろう事をそれなりに大きさのある石を抱かされている叔父に問いかける。と、彼は笑顔で答えた。
「木をな! 登ったらあそこに居たんだ!!」
「……木? ちょっとあんたまさか」
「そうだぞ! 初めて世界樹を攀じ登ったが割と昇りやすかったぞ!!」
「あんた。本当にそれをやったのかい」
頭が痛いと言いたげに手で押さえるミルンル。まぁ、流石に迷宮ではなく世界樹そのものを登るとは口にしていたとしてもするとは思わないだろう。幾ら馬鹿でも。
「拙者も流石にと信じていたかったでござる」
「呼んだかゴザルニ?!」
「ないでござる」
「そうか、呼んでないのか……で、何の用なんだゴザルニ?!」
「だから呼んでないでござる」
「そうか……でぼろしゃ?!」
再び響き渡る鈍い音。やっぱり痛そうだなと思いながら。
「そういえば何で反応したんですかね?」
「其れは叔父上の名前がセシャンだからでござる」
「…せっしゃ?」
「否、セシャン」
「うわぁ、言っていい事ではないでしょうけど紛らわしい」
「まぁ、これに関しては拙者が悪いのでござるがな」
「呼んだか?」
「呼んでないっていうか何で名前言った時に反応せずに今反応するのよ?!」
「あ、口調」
「おっと、これは失敬」
危ない危ないと言いながら口元に手をやるゴザルニは。
「あら残念」
何処からともなく現れた抜刀済みのミカエの言葉を聞き、顔から血の気が引く。しばらく、ミカエは彼女の周りを歩き回り。何処かへと歩き去った。
「大丈夫だったかいゴザルニ?」
と、それを見てから近づいてくるミルンル。そんな風に聞くなら絡まれている時点で割って入ってもよかったのではと思うレフィーヤ。まぁ、好き好んでキチガイに関わろうとする人物はそう相違ないだろうが。
「問題ないでござる」
「そうかい? なら良いんだけど…あたしが如何にかできれば良かったんだけどねぇ」
「そこまでは望んでいないでござるし。師匠を如何にかできるのはローウェン殿位でござるよ」
「そうなのかい…え、あの狂人を何とか出来る奴がいるのかい?!」
「まぁ、一人でという意味でならそうでござるな。一応、二人でならば拙者も師匠を何とか出来るでござるが」
「はぁ、世界っていうのはやっぱり広い…え? 出来るの?」
「言ったように二人いればでござるが」
逆に言えば人外でもなければキチガイが二人係でなければ抑えられないという事なのだがと考えつつ。そういえばセシャンは如何したのだろうかと視線を向けると。頭の上に石を乗せられていた。
とても辛そうだと思いつつも、気になっていた事を訊く為に近づく。
「あのセシャンさん。ゴザルニさんの仲間のレフィーヤ……あぁ、と言うものなんでが。一つ訊いていいですか?」
「ん? あ? え? あぁ、ゴザ、レフ……ん? まぁいいなんだ?!」
なんであんな困惑したような声を零したのだろうかと少し疑問を覚えながら。まぁ、多分気にしても無駄な事なのだろうなと思いながら問いかける。
「なんであの巨象に追い回されてたんですか?」
「巨象? まさかあのオリファントの事かい?!」
「え、あぁらしいですね」
確かそのような名前だったなと思い出しながら驚いたように視線を向けるミルンルに頷いて見せる。
「よく無事だったねあんたたち」
「まぁ、確かに強かったといえば強かったんでしょうね。大きくて遅かったからいい的でしたけど」
「でござるな。そこまで硬い訳でもなかったでござるし」
「オーバーロードと比べるとどうしても見劣りするんですよねぇ」
「オーバーロードとはあれでござるか? ローウェン殿に自分たちだけでは勝てなかたったと言わしめたあの?」
「ですね」
いやぁ流石に死ぬかと思ったと口にするレフィーヤ。何故か、ミルンルにドン引きされたが気にしない。
「まぁ、それは置いておくとしてですよ。何でですか?」
「何がだ?」
「……巨象、オリファントに襲われていた理由ですよ」
「おぉそれかぁ! それなぁ、それはなぁ。危なそうだったから岩の上を歩いていたんだがなぁ! 足を滑らせてなぁ! 危なそうだったからなぁ! 掴もうとしたらおり・・・オリファ? とかいうやつの毛を掴んでなぁ!! 抜いてしまったのだ!! いやぁ、背中は痛いし追い掛け回されるしで散々だったぞ!!」
と、大きな声で笑い声を響かせるセシャン。その様子、そして言葉に静かにレフィーヤは首を振り。
「駄目ですね」
「知ってるでござる」
自分に手に負えるものではないなと悟ったレフィーヤは、よろしくお願いしますとまたも恐ろしい表情を浮かべているミルンルに任せてその場を後にした。
暫く歩いていると、アイオリスの街に再び怒声が響き渡った。