世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百二十話

確かめるように手を動かす。問題なし。確かめるように物を動かす。問題なし。確かめるように偶々居たコバックの腹部に拳を叩き込む。悶絶する彼を見て満足げに頷き。

 

「完治です!!」

「なんであたし殴られたのよ」

「気分…ですかね」

「なら仕方ないわね」

 

納得しながらよいしょと何事もなかったかのように立ち上がるコバック。平然としている事が少し悔しいレフィーヤは心の中でもっと捻りを加えて次こそはちゃんと沈めようと誓う。と、そんな事はどうでもいいのだと早足で食堂へと向かう。

 

目的はハインリヒが作ると言っていた料理である。当然、辛い。とても、とても辛い料理をハインリヒは作ってみると言っていたのだ。これで喜ばなければレフィーヤは自分として終わってしまうと思うほどである。実際、誇張抜きで飛んで喜んだものだ。

 

しかし、残酷な事に食べるならちゃんと怪我が治ってからにするようにと言われてしまったレフィーヤは、気合と技術を総動員して数日で治して見せたのだ。これにはハインリヒはとても驚いていたがそう大したことでは無い。精々食欲ってすげぇ、とでも思って居ればいい。

 

なんて下らない事を考えながら食堂に向かうレフィーヤは素晴らしき香りに気が付く。それだけならばいい香り程度なのだがレフィーヤは幾つものスパイスが織りなす重厚さを感じた。

 

なんという事だ。レフィーヤは震えを抑えることができない。香りだけでもわかるというものだ。いつの間に此処までの物を作れるようになったのだとハインリヒの腕前に驚くほかない。

 

あぁ、どのような存在、料理、辛味が待っているのだろうか。レフィーヤは心躍らせながら食堂へと辿り着き。

 

「ふぃー」

「…あ」

 

そこには、ハインリヒと満足げな表情を浮かべるゴザルニが居た。ただそれだけで、嫌な予感が駆け巡る。恐る恐る視線をハインリヒに向けると。静かに首を振った。

 

それを見て、レフィーヤは視線をゴザルニに向けると、彼女はとても良い笑顔を浮かべながらサムズアップ。

 

「美味しかったでござるよ!!」

「…なる、ほど」

 

小さく呟き、深く息を吐くレフィーヤ。丁度コバックと一緒に来たローウェンに視線を向けて。

 

「吊るしていいですか?」

「許す」

「だろうと思ったから簀巻きにしといたわよ」

「相変わらずすごい手ぎわぼぉ?! 出る、逆流してしまうでござる!」

「それはいけない口を塞いでおくよ」

「やっぱり容赦もぉももおももも?!」

 

悪は裁かれたと、レフィーヤは呟いたとか。因みに許可はちゃんと取った。抜かりなしである。

 

 

 

 

「ヒポグリフ?」

 

作り直して貰った料理を完食し、期待を裏切らないその美味しさに頬を緩めていたレフィーヤは、ローウェンに聞き返した。

 

「それは、あれですか? ミッション的な奴ですか?」

「間違ってはいないな。まぁ、本当はオリファントを如何にかするのをミッションとして出すつもりだったみたいだけどな」

「私たちが倒してしまったと」

「其れに関しては気にして無い処か普通に感謝されて金まで迷うことなく出してくれたぞ?」

「金額は?」

「聞くまでもないだろう」

 

これは相当毟ったなと思うレフィーヤ。評議会は泣いてもいいのではないだろうか。まぁ、関係ないことだけど。

 

「で、そのヒポグリフの話はどういう事なんですか?」

「これから先、問題なく進んでいけるか試す為のものらしいぞ。まぁ、意味はないだろうがって言われたが」

「そんなことはないと思いますけどね」

 

お茶を飲みながら言ったその言葉は。意味がないという事に対してもものだ。きっと、オリファントを倒せる程の冒険者だからといった感じで言ったのだろう。評議会は分かっていないと思わざる負えない。

 

強くても賢くても死ぬときは死ぬ。これ冒険者の基本。

 

「色々と試して確認してっていうのは上の人として基本ですからねぇ」

「上とか下とか関わらずだろう。怠った奴が酷い目に合うのは大抵のものに通ずるからな」

「私ですか?」

「怠ってなくても酷い目にあう。それを人は運が悪いというのだ」

「また一つ賢くなってしまいました」

 

知ってたけど。

 

「ならミッションを請ける事にするが…良いよな?」

「良いよ」

「あたしも」

「お金がもらえる機会が増えますね」

「もっもも」

 

其れならば良しと頷いたローウェンは何気なくナイフを手に取り、ほぼ真上に吊るされているゴザルニに対して投げつける。勢いよく向かっていくそれをゴザルニは軽く揺れることによって縛っている縄だけを切り、そのまま綺麗に落ちて着地した。

 

「もぉも……はぁ。あ、申し訳ないでござるが水を頼めるでござるか?」

「はい、次は独り占めなんてしないでよ?」

「難しいでござるな」

「おい」

「ではレフィーヤ殿に訊くでござるが。目の前に沢山の辛い料理が合ったらどうするでござるか?」

「残したらいけないので出来るだけ味わって食べつくします……はっ?!」

 

なんという事だ。そう考えれば先ほどのゴザルニは何も間違ってなどいなかったじゃないかと。

 

「いや、仲間の分も食い尽くすのは駄目だろう」

「ですよね」

「ござるな」

「そういえば謝罪は?」

「これから、つまり今でござる。申し訳ないでござる」

「同じような事してたでしょうし許します!」

「美味しそうに食べてくれたから許す」

「許されたでござる」

「そうか。なら」

「はい、行きましょうか」

 

冒険者は今日も、迷宮に挑むのだ。

 

 

 

「あ、ちょっと待ってほしいでござる。吐きそうでござうぉ」

 

少し休憩してから。

 

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