「なんか街のど真ん中で泣いてるゴザルニが滅茶苦茶感謝されてたんだけどなんか知ってるか?」
「色々あったんでしょう」
「そうか」
部屋でゆっくりと本を読んでいたら現れたローウェンにそう問いかけられたので適当に返すレフィーヤ。勿論、何故そうなったのか大体想像できる。感謝までされているとは思って居なかったが。しかし言う必要がない。はっきり言ってローウェンなのだから大体察しているだろうし。だから訊いただけでそれ以上は口にせず彼はよいしょと椅子に座った。
「で、どうだ?」
「さっぱりですね」
本を置きながら答える。そういった通り全く分からないのだ。違和感の原因が。
「今はこれといって感じないんですけどね」
「ふむ、迷宮内だけって事か?」
「とも限らないですけどね」
街中でもあるし、迷宮内でない時もある。法則性がないというか、一定の時間でという訳でもない。本当に意味が分からない。そして分からない以上に困るのが、微妙というところだ。
要するに問題ないようなそうでない様なはっきりしないという事。端的に言って非常にイラつく。どっちかにしろと。
「俺も割と困ってるんだよな。進むかどうか」
「すみません」
「謝ってもしょうがない事を謝られても困る」
それはそうだと下げた頭を戻し、ローウェンを見る。彼はさてと呟きながら腕を組み考えていた。
「問題ないと言えば問題ない。しかし良しと気楽に思うのは危険。けれど休んだところで無くなるわけでもなく、休まなかったからといって起こるわけでもない理由の分からない違和感……なんだこれは。お前はどれだけ謎を増やせば気が済むんだ?」
「いや知りませんよそんな事」
だよなと頷く彼を見ながら。そういえばそうだなと思い出す。未だにアスラーガの不思議な迷宮に居た理由も分かっていなかったなと。もう世界樹を二つほど踏破しているにも拘らずだ。
まぁ、結構前に考えても仕方がないことだと思う事にしたことだけれど。これといった情報も未だに無いのだからそこに変わりはないのだし。
そんな事よりも重要なのは、下手すれば冒険に出られないかもしれないという事だ。
「で、そこのところどうなんですか?」
「それを悩んでるんだろうが…まぁ、お前的には問題ないと言いたいんだろう?」
「出来れば、ですけどね」
そう、出来ればだ。はっきりと大丈夫などと断言はしない。それがどれほど危険な事なのかをしっかり理解しているから。
「確かに今の所は索敵にしろ戦闘にしろ問題はなさそうなんだよな。今の所はだが」
「これからどうなるかなんですよねぇ」
違和感が無くなるのか、それとも悪化するのか。何度も言うが理由が分からないからこそ、判断できない。
「世界樹が原因とかありえますかね?」
「今まで違和感なんてなかったのに? まぁ、此処の世界樹が他と違うかもしれないから違うとは言わんけど。世界樹というよりは世界樹の内。迷宮に居る何かが原因と考える方が自然だろう」
「あぁ、成程。そうですね」
その何か。恐らくモンスターが原因ならばそれなりに納得できる。それが近づくと違和感が生じ、離れると無くなる。それならば休む休まない関係ない理由となるだろう。まぁ、それが正しいのだとすれば街中で違和感を感じる時もあるので入り込まれていることになるのだが。というかそもそも。
「だったらローウェンさんが気付きますよね」
「良く分からん信頼の仕方をするなよ」
「でも分かるでしょう?」
「それは分からん」
「そうなんですか?」
「そうだろう。俺はただ単に音と気配とで判断してるだけだからな? 音も気配も無ければ流石に見つける事は出来ないからな」
「あぁ、まぁそうですね」
寧ろそれで判断してなかったらなにで判断しているんだと。あれか、勘というやつなのか。いやそれが侮れないのは知っているが、そうだったとしたら彼の人外っぷりに磨きがかかるなと、どうでもいい事が浮かぶ。
と、ローウェンがそうだなと呟きながら頷いた。結論が出たのだろうか。
「分からんことを考えても仕方ないな!!」
「それ言っちゃいますか?」
これまでの事全部意味のないものにする発言だと言われても否定できないものだとレフィーヤは思いながら視線を向ける。と、なぜか彼は胸を張りながら言葉にする。
「分からないことは取り合えずおいておく。これは冒険の基本だろう。気にしすぎて足元を掬われたらたまったものじゃない」
「それはそうですけど」
「それに不測の事態に対応できないようじゃ冒険者なんてやってられないしな」
不測の事態、それはつまりレフィーヤ自身に何かが起こると言う事なのだが。出来れば避けたいのだが。理由が分からないから無理だけど。
「それに街に居ても迷宮に居ても変わらないなら、進んだ方が良いだろう」
「…そうですね」
あぁ、その通りだと頷く。
「あと、原因が迷宮の先に在るかも知れないしな」
「迷宮の先?」
「オーバーロードが言ってただろ? 回廊に至れ、その先にこそ求めるものはあるって」
「…あぁ」
言っていた。確かに、あの超越者はそう言っていた。思い出してみれば、ありえない事ではない。求めるものが何であるのかは、分からないが。それが関係していると言えなくもない。世界樹を超えた先に在るだろうそれに迷宮も街中も関係ないだろうし。勿論、多分でしかないが。
「其れなら確かに。進むしかないですね」
「だろう。まぁ、要するにやることは変わらんと言う事だ」
そう、その通りだ。何も変わらない。謎を解き明かすために迷宮に挑む。つまり。
「冒険者として冒険する…それだけですね」
「その通りだ」
頷くローウェンはひどく嬉し気に笑みを浮かべていた。