彷徨えるものが居る。首切りの断罪者と呼ばれるものは己と同じ様にするためか、それともただ恨む故か。手の中の刃を振るい斬首する相手を求めて彷徨い歩く。瞳を失ってなお一人たりとも見逃しはしないと殺意を滾らせる。
そんな断罪者の手足が吹き飛ぶ。
一瞬の事、僅かに生じていた鎧の罅に寸分の狂いも無く炎の弾丸が撃ち込まれたのだ。しかしそんなことなど断罪者には理解など出来ず、ただ気が付いたら手足を失い、酷くゆっくりと体が地面に向かって落ちていくのを知覚するのみ。或いは瞳が残っていたならば、向かってくる劫火が映りこんでいた事だろう。
劫火に呑まれ僅かしか残さず消えた断罪者が居た場所を、地面が焼けている事など気にすることなく疾走するのギルド・フロンティアとコバックに担がれているソロル。
現れるモンスター達を蹂躙しながら進む彼らに、ソロルは思わずといった様子で言葉を零す。
「なんだこれは」
「なんだって、探索してるんだよ」
「探索、探索? これがか?」
「寧ろそれ以外に何だっていうんだよ」
「いやそれは……なんだ?」
「訊き返すなよ」
困惑するソロルに少し呆れを滲ませながら、一瞥もくれる事無く現れたモンスターの手足を撃ち抜いていくローウェン。相変わらず何で見ずに当てられるのか不思議でならないレフィーヤはハインリヒと一緒に動けなくなっているモンスター達に止めを刺していく。勿論、走りながら。
「可笑しい。いや強いとは思って居たが。ここのやつらはこんな片手間の様に如何にかできる様な強さではない筈だぞ」
「まぁ、面倒なのはその通りですね」
「面倒?!」
止めが自分かハインリヒでないと刺せないなんて面倒と言う他ないだろう。やることが増えて負担になる。もっともその程度ならまだ余裕をもって熟せるのだが。違和感を感じるとか抜きにしても自重なしのローウェンが容赦なく動きを封じてくれるし。
なんて考えているうちに次の階へと続く階段が見つかる。確認するように描いた地図を流し見て。
「十四階には居ませんでしたね」
「と言う事は必然的にこの上に居ると言う事になるか。一応聞くが、あいつはこの上でも戦える位の術は持ってるんだよな?」
「え、あ、あぁ。勿論だ、そこら辺のモンスターなら囲まれでもしない限りは倒せる」
「囲まれたら?」
「ちゃんと逃げられる」
「なら、何かがあるとすれば。目的の奴と出くわした場合位…と考えていいか?」
「あぁ」
頷くソロルにそうかとローウェンは階段を駆け上がりながら言葉にする。
「まぁ、流石にここまで来たらもうまだ無事である事を祈るしかないな。十五階に目的の奴が居るし」
「本当か?」
「隠れてないみたいだからな、ここからでもはっきり分かるぞ。十三階のとどっちだか分からなかったから言わなかったけど」
「十三階? おい、其れって」
何かを言いかけるソロル。だがそれは閉ざされる。十五階到達した瞬間にそれを感じたからだ。余りに濃い死の気配というものを。
「なんだ、これは」
「間違いないねこれは」
「ここに居るぞって主張してますね」
「もうちょっと隠す気とか無いのかしらね?」
「無いからこうなってるのでござろう」
「まぁ、自分最強とか思って隠してないんだろ。それならそうで都合がいいが」
「なんでそんな平然としてられるんだ?!」
いやなんでも何もオーバーロードとかフォレストセルとか、あとムスペルとかと比べると大したことないし。なんて言った処で伝わるわけもなし。なんて考えながらコバックがソロルの事を降ろすのを見る。
「ここで降ろすのか」
「流石にここからは何時襲われるのか分からないのよ。流石に担いだままじゃ無理が在るしね」
「まぁ、当然だな」
頷くソロルが良かったと声を零すのを聞き逃さない。まさか出くわすまで担いだままとでも思って居たのだろうか。
「さて、軽く休憩した処で行くぞ」
「わかったでござる」
「休憩? 少し立ち止まっただけな様な」
「急いでんだから息を整える程度で済ませてんだよ。それともがっつり休んでも良いのか?」
「いや……その、助かる」
「ならよし、走るぞ」
言葉にするのとほぼ同時に再び駆け出すローウェン。勿論、四人も同じくだ。ソロルが少し遅れたが、ちゃんと付いてきている。少し音は目立つが、気にするほどではない。レフィーヤとて完全に音を消して走れる訳では無いのだから。
剣屍を穿ち、幻炎を落とし、断罪者を沈める。変わらず走り続けながら視線を巡らせ、見逃しがないようにしっかりと地図に描き込んでいく。しかし、肝心のリリが居ない。
走っても、走っても、走っても。
進んでも、進んでも、進んでも。
居ない、居ないのだ。ドンドンそれに近づいていると理解できるのに、姿かたちが見えない。いや、いいやもう分かっている。彼女が今どこにいるのか。だから彼らはさらに早くと足を動かしているのだ。間に合うように、出来る限り速く。
それでも、酷く時は流れたように思える。死の気配の間近までたどり着くまでに。ローウェンが視線を巡らせる。大丈夫かと問いかけるために。レフィーヤは頷く、自分は大丈夫だと示す様に。しかしと、横目で彼女を見る。
酷く青ざめたソロルを。きっと、最悪の事態を考えてしまったのだろう。もう手遅れでは無いのだろうかと。
けれど、それでもと彼女は顔を上げて、小さな声で大丈夫だと口にした。
「行くぞ」
言葉とともに、そこに足を入れた。
そして、目に映りこんだのは巨大な死者の王と倒れ伏すリリの姿だった。