世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百三十一話

「あぁー」

 

晴天と呼ぶにふさわしい空をベンチに座りながら眺め、声を零すレフィーヤ。しかしその心の内は空とはまるで逆の曇天。或いは今、彼女の心を占める感情を言葉にするならば一言。

 

気持ちが悪い、だろう。何がと言えば三つ程。

 

その一、自分の体なのに感覚のズレている事。とても動きにくい。

その二、時折感じる良く分からない視線。覗きだとしたら趣味が悪い。

 

そしてその三、オラリオの真下。ダンジョンのある場所に存在する酷く淀んだ邪悪と言う他ない気配を漂わせる悍ましい何か。吐き気がする程だ。

 

その一とニは別に言い。ズレは調整すればいいだけだし視線は無視すればいい。が、気配が駄目だ。生活を脅かすものだ、吐き気的な意味で。道を行き来している多くの人たちはよく平然としていられるものだと感心してしまう程だ。

 

「……どうしよう」

 

いやどうしようもない。如何にかすることなど出来ない。何かを取り除けばそれで済む話だが、それがとても難しい。

 

まず、気配がダンジョンからするというだけで具体的な位置が分からない。見つけ出すだけでも一苦労どころか数代にわたっての事に成りかねない。

 

そして見つけられた処で倒せないという致命的な事実が存在する。恐らくオラリオに存在する全ファミリアが総出で挑んでも駄目だろう。感じ的に、フォレストセルと同等かそれ以上の厄災だろうし。

 

因みに、駄目だと判断したのは立地的な意味でだ。ダンジョン内の何かが這い出てくるだけでオラリオが壊滅しかねない。なんでダンジョンの真上に街なんて造ったのか。それとも或いは、何かを封じるために造ったのか。とても在り得そうで困る。

 

現状、終わっているのではないだろうか? 助けて上帝。

 

 

 

息を、吐く。

 

「駄目だ。気が滅入りそう。別の事を考えよう」

 

さて何を考えようかと手の中の小さな氷を転がしながら考えて、何気なく視線を氷に向ける。当然、それは転がっていた物ではなく。レフィーヤが作り出したものだ、印術で。

 

「やっぱり、夢……では無い、か」

 

何から何まで夢だったなら印術なんて使えるわけもないだろうし。まぁ、なら全部現実だったのかと言えば、自信がない。ティオナやアイズの反応を見るに、寝て起きて。その程度の時間しかこちらでは経過していないように思えた。向こうで過ごした一年と少し。其れほどの時間が経過していればもっと違った反応をしていただろうし。

 

しかし、一年と少しと考えると半年に一回は世界規模の厄災と相対していたのかと、驚くレフィーヤ。波乱万丈なんてレベルじゃないぞ。

 

と、思考が横にズレたのを修正。夢かどうかを考える。まぁ、個人的には夢ではなく現実であってほしいレフィーヤ。あんなに楽しかった冒険が、全部嘘だったなんて思いたくないから。

 

「……はぁ」

「おっとそこの君! どうかしたのかい?」

 

ため息を吐くレフィーヤに、声がかけられる。突然なんだと視線を向けるとそこには一人の少女が経っていた。小さいけど大きい、ツインテールが特徴的な少女が。しかしティオナや主神であるロキが見たなら怒り狂いそうだなと思う。というかなんだあの紐は。

 

「どうかしたって言われましても。と言うか貴女は?」

「おっとそうだった名乗ってなかったね。僕はヘス、ヘス…ティア、ヘスティアだ!!……あ、これでも神様だよ!!」

「そうですか」

 

言われなくても神であるというのは分かっていた、明らかに他の生物とは違っていたし。まぁ前ほど超越存在とは思えないレフィーヤだった。ぶっちゃけ超越具合ではオーバーロードの方が上な気がする。というかなんで自己紹介であんなに間ができたのか、まるで慣れていないかの様じゃないか。

 

「私はレフィーヤ・ウィリディスです。よろしくお願いします神ヘスティア」

「うん、よろしく!!」

「で、なんで私に話しかけたんですか?」

「其れは君が悩んでるように見えたからさ!」

「そうですか…で、本当は?」

「いやだから」

「言わないと毟りますよ?」

「何を?!」

「なにって……髪を、ですかね」

「髪を毟るって神をも恐れぬ事を!?」

 

慄きながら頭、正確には髪を守る様に手をやるヘスティア。その際凄い揺れてたがそれはどうでもいい事だ。

 

「まぁそれは冗談として」

「じょ、冗談? そうか冗談か。は、はははは……なんで今、嘘ついたのかな?」

「さぁ?」

 

レフィーヤは、どこぞの人外がしたのと同じように満面の笑みを浮かべた。周りから一気に人が離れていくが気にしない。ヘスティアがとても青ざめているが気にしない。

 

「で、本当はどんな目的で話しかけてきたのか…教えてくれますか?」

「イエス、マム!!」

 

見事な敬礼をしながら、彼女は語り始めた。

 

「実は僕、つい最近来たばかりでね。今は知り合いの、へ、あぁー、そうヘパイストス、じゃなくて」

「ヘファイストス様の事ですか?」

「そうヘファイストス!!」

「名前を間違えるのって。え、知り合いで? まさか本当にお互い知ってるだけとか?」

「何を言ってるんだい、ヘパ、じゃなくてヘファイストスと僕は間違いなく神友だとも……そう、僕は思ってるけど」

「悲しくなる言い方ですね。そんな事言っても私が喜ぶだけですよ?」

「そうかって喜ぶのかい?!」

「それはもう」

 

爆笑するところだろう。とは流石に言わずに手で続きを求める。一瞬、何か怯えが見えたが気の所為だろう。

 

「え、あぁ。それで、そういえばまだオラリオの街を探索して無い事に気が付いてね。それで街を歩き回ってたら。何やら悩んでる様子の君が居てね。これは、チャンスなのではって思って」

「何がですか?」

「その、悩み事を聞いて、何とかしてあげればえっと…ファミリア? に入ってもらえるんじゃないかなぁ、って思って話しかけました、はい」

「成程、因みに現在のファミリアの団員数は?」

「居ません」

「…そうですか。まぁ、欲望まみれだったのは良いとしてですね」

「君はさっきから抉る様に言ってくるね? 楽しいのかい?」

「凄く」

「お、おう。あれ、話しかける相手を間違えたかな?」

 

なんて呟きが聞こえた。まぁ、その通りだと言う他ないだろう。

 

「言っておきますけど。私、もうファミリアに所属してますよ」

「え、あぁ、そうなのかい?」

「はい、因みにロキファミリアですよ」

「ロキファミリア、ってオラリオ最強の一角じゃないか?! 君、若しかして凄い?」

「さぁ、何とも言い難いですね」

 

今の自分がどの程度なのか分からないのだからそうとしか言いようがない。

 

「そっかぁ、其れじゃあ確かに無理だね。うん、なら仕方ない」

「えぇ」

「じゃあ何を悩んでいたのか教えてくれるかい?」

「はい?」

 

何を言っているのかと、思いながら見ると。彼女は首を傾げながら言葉にする。

 

「はいって、別に可笑しな事じゃないだろう? それとも、僕がそう言った目的でなく悩みを訊いちゃいけないのかい?」

「そういう、訳じゃないですけど」

「なら吐き出しちゃいなよ。ファミリアに居るからって、なんでも話せる訳じゃないんだろう? だからこんな処で悩んで…あれ、若しかして悩んでなかったとか?」

「あぁ、それは」

 

違う、とは断言できない。悩んでいたと断言も出来ないが。しかし何故、と疑問に思いながら見て。あぁ、成程と理解した。他人でしかないレフィーヤの事を本気で心配しているのだ、目の前の神は。

 

こんな善性の人物は初めてだと、思わず笑みが零れる。まぁ人じゃないけど、それはどうでもいい事だ。何故か浮かべた笑みに反応して震えたが。それはそれ。

 

「まぁ、そういうなら話を聞いて貰ってもいいでしょうか?」

「お? おぉ、良いとも! どんとこいだよ」

「はい。っと、流石にこんな場所ではあれですね。何処か良い場所は」

「其れならあそこだ。あそこが良いよ。教会が良い! やっぱり相談事と言ったら教会だ! さぁ行こう!!」

「なんですかその拘りは?」

 

まぁ、別に嫌と言う訳では無いが。神が教会で人の悩みを聞くとは、いつも通りだった。なんて事を考えながら、スキップしているヘスティアの後を追う様に、レフィーヤは歩く。

 

 

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