世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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「はぁ、あぁ、辛い。もっと体動かして慣れておくべきだった。思ったよりも近くて助かったよ……ふぅ、っと。あぁ……そこの君、ちょっと良いかい?」
「なんだあんた?……いや、貴女は」
「お、気が付いたのか。なら話が早い」

「ちょっと、ロキに会わせててくれないかな?」







第百三十三話

星空が広がっていた。

 

何気なく下を見ると、地面と言えるものは存在せず。宙に浮いているような状態だった。辺りは夜の様に暗く。だからこそ星々の光が美しい。

 

まぁ、つまりどういう事かと言うと。

 

「どういう事なの?」

 

まるで意味が分からないと言う事だ。何故、どうしてこんな事に成ったのか。いや、これまでと違って分かることが一つある。

 

ヘスティアが何かをしたからここに居ると言う事だ。具体的に何をしたのかは分からないが。それだけでも分かると随分と違うものだ。これで三回目と言う事もあってとても落ち着いてられる。

 

落ち着いて居られたからこそ気が付けることもある。例えば、今ここに居るのはレフィーヤだけでは無いと言う事だ。

 

「でしょう?」

『気が付いていましたか』

 

何処からともなく声が響き、ゆっくりと光が集まり始める。それは、確かな意思を感じさせるその光はゆっくりと形を変えて、そして。その姿を見たレフィーヤは目を見開き。

 

「死ねぇええええ!!」

『ほぉああぁあああ?!』

 

反射的に拳を叩き込んでいた。でも仕方ない事なのだ。光が形作った姿が。

 

 

栗鼠、だったのだから。冒険者なら反射的に殺しに行っても仕方の無い事だ。

 

 

「と言う訳で許してください」

『反射的にって……おかしいでしょう』

「冒険者なんてそんなものですよ」

『冒険者怖い』

 

言いながら震える栗鼠。一般人なら可愛いと思うところだが、残念な事にレフィーヤは立派な冒険者、その姿に疑いを持つことしかできない。まぁ、それは良いとして。

 

「それで貴方は…あぁ、何ですか?」

 

かなり失礼な質問ではあるが、間違ってはいないだろう。光から栗鼠になるなんて生物と言っていいのか分からないのだから。

 

『何、わたしが何なのか。そう、ですね。ただ力が意思を持ったもの、としか言いようがありません』

「力が…栗鼠なのに?」

『あぁ、それは長く存在する為の処置です。ただ力の塊のままで居ると徐々に失われて行ってしまい、最後には霧散してしまうので。こうやって何かしらの形を取っているのです。この状態ですと、失われるものよりも得る方が多いので。自爆まがいの事でもしない限りはずっとそこにある事が出来るのです』

「要するに、水が零れないようにコップに入れているのと同じ、なんですかね?」

『大体は、そのような感じです。まぁ、この技術自体はある方の保有していたものを元にしているのですが』

 

成程と頷きながら、改めて見る。どう見ても栗鼠にしか見えないそれを、しかし少し見方を変えれば分かる。ぞっとする程の力が渦巻いている事に。そして、それはとても覚えのあるものだった。まだ、断言ではできないが。

 

ある方というのは気になるが、それは置いておくとして。

 

「それで、此処は何処なんですか?」

『ここですか? ここは宇宙、と言っても伝わらないでしょうし。そうですね、空の上、と言った処でしょうか』

「空の、上」

『えぇはい。生物が存在する事の出来ない場所』

「それ、栗鼠になって大丈夫なんですか?」

『見た目がそうなだけで根本的に力の塊でしかない事に変わり在りませんので』

「私は?」

『肉体の無い、魂だけの貴女には関係の無い話ですよ』

「そうですか……は?」

 

聞き捨てならないというか、聞き間違いであってほしい言葉が聞こえたレフィーヤは言葉にする。

 

「え、魂だけ…なんですか?」

『えぇはい。一応、今は保護されていますが、そこには肉体はありません』

「在り得るんですかそれ」

『割と、魂と肉体とに齟齬があると』

「齟齬…?」

 

まさかやけに動きにくかったのは其れの所為なのかと思い考えていると。

 

『ごめんなさい』

「え、なんで突然謝るんですか」

『わたしの所為だから』

「それって。その、齟齬の事ですか」

『それだけではありません』

 

そして少しの間、言葉にするのか考えている様に見える。が、覚悟を決めたのか、言葉にする。

 

『貴女が、別の星に居たのは…わたしの所為』

「別の星って…いえ、それってまさか」

 

理解出来た訳では無い、だが察した。どういう意味なのかを。

 

「気が付いたらアスラーガの迷宮に居たのって」

『えぇ、はい。わたしの所為です』

「貴方が、私を? なんで?」

『意図した事ではありません。事故のようなものですが、けれど原因は紛れもなくわたしです。わたしが、あなたと繋がりを持ってしまっていたから。あなたは巻き込まれてしまったのです』

「成程」

 

予想外の事が連続しているというのに、レフィーヤは自分でも驚くほど冷静に頷き。

 

「つまりムスペルが悪いって事ですね!!」

 

訂正、全く冷静では無かった。ただアスラーガ近くに居たからと言うだけで完全に八つ当たり気味に名前を上げられたムスペルは。

 

『よく、分かりましたね』

「ぇ?」

 

まさかの正解だった。驚き固まるレフィーヤに、しかし止まらずに語り続ける。

 

『ずっと昔、技術や知識を求めて、わたしがあの星に初めて訪れた際に彼女に、ムスペルに捕まり多くの力を奪われました。その時はあるお方のお陰で助かりましたが、それ以来、星の行き来にある道具が必要に成ってしまいました』

「……うん。それで、その道具と言うのは?」

『アリアドネの糸。使用者の、帰るべき場所への導となる不思議な道具』

「あぁ、あれですか」

 

何となく納得した。しかし、帰るべき場所にという割には試したときにオラリオへと帰れなかったのはどういう事なのかと。

 

『それ以来、戻る為にわたしは場所や、人や物と繋がりを作りより確実に帰れるようにしてきました』

「場所……場所は分かりますけど、人?」

『普通に使うのは必要ないのですが、余り距離が離れすぎると目印も必要に成るのです』

「あぁ…それで私が? でも何故、私なんですか?」

『単純に、相性の問題です』

 

それを言われたらもうどうしようもない。偶々相性が良かったのがレフィーヤだったと。そういう事なのだから。

 

『話を戻します。そうして助かったわたしはこの姿で休養を取った後、星と星とを行き来しながら時折、手にした技術と知識を帰還して報告していました。けれど、ある時何かに引っ張られる感覚を覚えたのです。その時は大したことは無いと思って居たのですが、急に凄まじい勢いであの星に引き寄せられたのです』

「あぁそういえばムスペルはそういった事してきましたね」

 

そこまで強力では無かったけれど、目の前の存在を引き寄せるのにかなりの力を消耗したのだろうか。

 

『えぇはい、そしてなんとか捕まらずに済んだのですが。そこである事に気が付いたのです』

「それって、もしかして」

『貴女が居たのです。それも魂だけの状態で』

「……それ、大丈夫じゃないですよね?」

『えぇはい。放置すれば消滅しかねません。印である貴女がそこ居る事に気が付いたわたしは、このままではいけないとわたし自信の内にある力を元に魂を入れる器、つまり肉体を形作り、納めました。服に関しては流石に無理だったので、少し無理をして元々の体が纏っていた物を取り寄せましたが』

 

全裸だった理由はそれか。というか。

 

「服を出来るなら普通に体を持ってくれば良かっただけなのでは?」

『いえ、先ほども言ったように魂は肉体と齟齬が在れば抜け出てしまう可能性がありますが。そもそも齟齬が起こることなど滅多にありません。なので、体を取り寄せて入れたとしても、齟齬の原因が分からない限りは何らかの拍子に抜け落ちるか分からないのです』

「成程」

 

そう言う割には、自作の体からも抜け落ちていたが。いや、不死者の指輪というとても魂に影響がありそうな物の放つ光を浴びたなと。それが原因か。

 

「オラリオに返したのは貴方なんですか?」

『違います。それに関しましては、いつの間にかそういう風になる様に手が加えられていたとしか』

 

誰がだと思った。一体誰がそんな事を出来るのかと思った。一人出来そうな存在が居るけど。

 

『と、そろそろ大丈夫ですね』

「何がですか?」

『場所の割り出しです。幾ら保護されているといっても何時までもここに居るわけには行きませんので。戻る為に先ほどから行っていたのです』

「あぁ、成程」

『えぇはい。幸いな事に、貴女はアリアドネの糸をお持ちな様で。それを使えば問題なく戻れるでしょう』

「そういえばそうでしたね」

 

魂だけなのに何で持っているのだろうと思って居たが、まぁそれは戻ってからヘスティアに直接聞けばいいだろう。そう、戻ってから。

 

ふと、気になったことを問いかける。

 

「ここって、どこ等辺なんですか?」

『はい?……あぁ、そうですね。丁度、貴女が居た二つの星の中間辺りですね。戻るのには問題ない筈ですよ』

「そうですか……そう、ですか」

 

何気なく手の中のリボンを、アリアドネの糸を見る。そして考える。

 

 

 

帰るべき場所ではなく、自分が帰りたいのは……何処なのだろうかと。

 





「いきなり女神が訪ねてきたちゅうから何事かと思ったら。ドちびかい、なんの用や」
「う、うん。まぁちょっとね。そうか、君かぁ」
「あ?」
「いや、こっちの事だから気にしないで良いよ。何が用かといえば、ちょっとやってほしい事が在ってね」
「やってほしいことぉ? なんでうちがドちびの言う事聞かなあかんねん」
「そう言わずに、君のファミリアの子に関わる事だから」
「あん? うちの子に」
「そうだ。それに、そう難しい事じゃない」


「ただ夢を見るだけだから」
「は?」
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