世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百三十五話

蹴り上げられ宙を舞う毛布。ベットの傍らでその様子を唖然としながら眺めるのはハインリヒ。そんな彼が居ることを確認し、だからこそ意味のない何となくでホロンと一緒に考えたポーズを決めながら少女は、目覚めたレフィーヤは響かせるのだ。

 

「私のめぶぁああああぁあぁ?!」

 

苦痛からくる悲鳴を。

 

 

「おっす。体痛めてるのに目が覚めると同時に飛び起きてポーズ決めながら悲鳴を上げた馬鹿は居るかぁ?」

「はーい。体痛めてると知らずに目覚めと同時に飛び起きてポーズ決めた所為で悲鳴を上げた馬鹿はここに居ますよぉー」

「否定しないのか」

「否定できない事ですからね」

 

全く意味も無く飛び起き、これまた意味も無くポーズを取ったのだから。完全に自業自得というやつだ。これで否定ないし反論など出来る筈もない。と、そう告げると入ってくるなり喧嘩を売っているのかと思うような事を言ったローウェンは、そうかと言いながら椅子に座った。

 

「あぁそうそう。はいこれ」

「なんですか?」

「菓子」

「辛いですか?」

「お前菓子にまでそれを求めるのかよ」

「当然でしょう?」

 

袋を受け取り、中身を取り出してみる。焼き菓子だった、どう見ても辛そうではない。まぁだからと言って甘いものが嫌いなどと言う事は無いのだが。なんて思いながら口にして。

 

「…これすっごい口の中の潤いを奪っていくんですけど」

「知ってる。ゴザルニでさえお茶なしでは完食できなかった位だからな」

「そしてその重要な飲み物は?」

「勿論あるぞ」

「やったぁー……あの、これなんかとろみが凄いんですけど」

「ヨーグルトだからな。だが大丈夫だ。ハインリヒが飲める様に手を加えたものだから」

「非常に興味深いですが何故今なのか」

 

飲んでみるとこれが菓子とよく合うのだ、味的な意味では。そしてやはりというかそんなに潤いを齎してはくれなかった。それでも飲まないよりはましだと口にする。当然の様に得られる潤いよりも奪われる方が多い。

 

味は良いのに食べて飲んでが苦痛になるとは思っても見なかったレフィーヤは潤いと一緒に瞳から光が失われていく気がした。と、これでは駄目だと気を紛らわせるために話しかける。

 

「そういえばどうなったんですか?」

「なにがだ?」

「リリさんの事ですよ」

「あぁー……それかぁ。ちょっとなぁ」

「何かしたんですか?」

 

言い淀むローウェンはそう言いながら思い出してみると。そういえばとあちらに戻る前に見た最後の光景を思い出す。不死者の指輪が撃ち抜かれる瞬間を。

 

「…あの、まさか」

「綺麗にぶっ壊したぞ」

「何やってるんですか」

「いやなんか見るからにやばそうだったし。ならぶっ壊した方がいいかと思ってな」

「因みにそれに関してリリさんは?」

「暫く唖然とした後近づいて、綺麗に壊れてることを確認したら爆笑したぞ」

「頭可笑しくなったって事ですか?」

「頭ではないが可笑しくはなったんだろうな。余りにあっさり壊れた事に」

 

本来ならそこまで簡単に壊れるものでは無かったらしい、と彼は言う。なんでもアンデッドキングが殆ど力を消費してしまっていた処に爆弾の様に使おうとしていたから酷く脆く成っていたそうだ。

 

「そう、ですか」

「まぁすぐにお前がやばい位痙攣してるのを見て其れ処ではなくなったけどな」

「どうしてそんな事に?!」

「知らんが、あれの所為だろう」

「なんですか?」

「お前が仕込んでた気絶した時用の術」

「……あぁ」

 

確かに、それな。痙攣しても、可笑しくはない。まさか意識が戻らなかったからずっと発動してたとか、そういう事なのだろうか。それならば幾ら調整したとはいえ痙攣しても可笑しくはない。というか意識が戻らないと発動し続けるとは思って居なかったレフィーヤ。後でちゃんと調べようと決めたのだった。

 

「あぁ、でも。成程、やけに体が痛いのはその所為ですか」

「まぁそれで済んだだけ良かったと思え。リリ曰く、死んでなくちゃ可笑しい状態だったらしいからな」

 

でしょうねと思う。なにせ魂が抜け落ちていたのだから。そりゃあ、死んでなければ可笑しいだろう。そう考えると栗鼠特性の体凄いな。

 

改めて感謝しながら、菓子の最後の一口を呑みこんだ。それを見てかローウェンは何かを取り出して差し出す。

 

今度は何だと手に取り確かめると、お茶だった。最初から出せと思ったのは仕方の無い事だろう。まぁ、潤いを欲している故に飲むけれど。

 

渇きを癒す様にお茶を口に含む、そして口の中が潤いで満ちていくのを感じながらレフィーヤは飲み込んだ。と、そんな彼女の事を見ながらローウェンは小さく呟いた。

 

「……なんかあったかお前?」

「んぇ?!」

 

驚きからお茶を噴き出しそうになるのをなんとか堪えたレフィーヤはローウェンを見る。実際、その何かが在ったからこそ、それを言葉にしたローウェンに戦慄を覚える。

 

「そ、それはなんでそんな風に思ったんですか?」

「なんでと言われてもな。そうだな」

 

言いながら改めてレフィーヤの事を見るローウェン。

 

「落ち着いたというか、地に足が付いたというか。悩みなんて在りませんって顔してるぞお前。ちょっと前まで焦りが在ったのに」

「本当ですか?」

「まぁ、無意識だったろうから分からないのは仕方ないかもしれんがな」

 

肩を竦めるローウェンにそうですかと言って。

 

「そうですね。あぁそうそう、貴方の言う何かですが、在りましたよ」

「ほう? 意識が無かったのにか?」

「意識がなくても意識が在りましたから」

「ふむ……お前の謎関係か」

「そう思いますか?」

「良く分からない事ばかりなんだからその位は可笑しくないだろう」

「ですかね。あぁでも、私の謎関係ですが色々と分かりましたよ? その何かのお陰で」

「そうか…なら、良ければだが後で聞かせてくれ。取り合えず今は休んで調子を取り戻す事だ」

 

じゃあな、と立ち上がり部屋から出ていくローウェン。奴めるようにと気を遣ったのだろうか。その気遣いを菓子の時にしてほしかったなと思いながら、何気なく外を見る。

 

目に映るのは、天高く聳える世界樹。それを見て、レフィーヤは小さく頷いて。

 

「今度はちゃんと、自分で」

 

そう、言葉にするのだった。

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