クルリと回す。手の中の杖を軽やかに。一回二回三回と、流れる様に回す、回す。その行為に何の意味があるのか。ここが街中でなければそれなり以上に意味を持たせられるが、そうでなければ精々確認と練習の二つくらいか。
そして今回杖を振り回しているのは確認、自身の状態を見るためのものだ。
「んー?」
首を捻りながらさらに加速する。回る杖に鋭さが加わる。其れこそ、モンスターを殴り倒すことだ出来る程の勢いを付ける。見事といえる杖裁きだが術者であるレフィーヤがそれを出来る必要があるのか。接近された際に対処法を身に着けるのは術者の嗜みだ。
なんて思った処でピタリと止まる。しばらくそのまま動かずにいて、何気なく手を開いては閉じてと繰り返す。さて、調子はというと。
絶好調と言った処だろう。
ある意味、ローウェンの言っていた地に足が付いたというのは正しかったのだろう。これまでと比べて若干重いように感じるが、しかしだからこそしっくりくるというか。これが元祖レフィーヤボディーと調整された特別製ボディーとの合体ボディー。何をしても違和感が一切なく、動きの一つ一つにキレが在る。
生まれて初めての感覚に、何気なくレフィーヤは呟いた。
「…今ならローウェンさんに勝てるのでは?」
そんな事が頭を過る。いや流石に無理だろうと、あの人外には流石にと思いながらも。しかし。
「いや、案外いけるかも」
油断とは縁遠い人ではあるが、今のレフィーヤは絶好調。其れこそ生まれてから今の今まで無かったほどにだ。詰まり今こそが最上と言う事。そしてそんな状態のレフィーヤがどこまで出来るのかをローウェンは知らない、レフィーヤ自身もだが。それでも、いけるかもしれないという言葉が浮かぶ。
仲間である彼に対してそんな事を考えるのはどうかとは思うが、しかしそれはそれとしても一度は勝ってみたい。と言う事で。良しと呟いて喧嘩を売りに行くことにしたレフィーヤ。クルクルと杖を回しながらローウェンの事を探しに歩き出す。
そして暫くの後。這いつくばるレフィーヤはコバックに見下ろされていた。
「道のど真ん中で何やってるのよ?」
「……あぁ、コバックさんですか。ローウェンさんに襲い掛かったらカウンター貰っちゃいました」
何時もの様に近づき、何時もの様にふざけて、そして襲い掛かったはずなのに平然と拳をぶち込んだローウェン。去り際に如何して反応できたのか悶絶しながら絞り出す様に問いかけると。
見えたから、と言ったそうな。やはり人外には勝てなかったレフィーヤ。無謀な事をした反省も込めて道のど真ん中で這い蹲っていたのだ。
「何でそうなるのよ」
「こう、恥ずかし姿を見せて自分への罰的な意味で?」
「恥ずかしいの?」
「え、全然」
「そこは恥ずかしがりなさいよ」
全く恥ずかしいとは思って居ないのだから仕方ないだろう。しいて言えば勝てると思ったことが恥ずかしい。けれど今の状態に関しては敗者には似合いの姿なのでは無いだろうかと。
「恥ずかしくないなら罰にならないでしょう」
「それもそうですね」
言いながらよいしょと勢いよく立ち上がる。軽く汚れを払いながらコバックに問いかける。
「で、コバックさんは如何したんですか?」
「如何したって帰る途中だっただけよ」
「じゃあ質問を変えます。今日何してたんですか?」
朝、コバックが宿から出ていくのを見てから今は凡そ三時。その間何をしていたのかと気になったレフィーヤ。
「あぁ、そうね。リリちゃんの所に言ってたのよ」
「リリさんの? 何しにですか」
「これを見てもらいに行ったのよ」
これねと言いながら見せるのは、盾。何故、盾をそれもネクロマンサーであるリリに見せに行ったのかと疑問に思い、気が付く。新しくなっている事に。
「…変えました?」
「というよりは改良かしらね? アンデッドキングの攻撃を逸らせたは良いものの随分痛んじゃってね。どうせだからと思ってそう言ったものも防げるように出来ないかと思って訪ねたのよ」
「へぇ……それでどうなりました?」
なんて訊くまでも無いだろう。盾が新しくなったように見えたのがその証拠だ。
「性能はどんなもんですか?」
「リリちゃんの術は問題なく捌けたわよ」
「おぉ……私の術も試していいですか?」
「言いながら大印術用の布を取り出すのはやめてちょうだい」
「えぇ…氷でも?」
「物理的質量はもっと駄目よ。街が壊れるじゃないのよ」
確かにそうだと、周りへの被害を考えて布をしますレフィーヤ。彼女は配慮が出来るキチガイなのだ。しかし、何気に街への被害云々とは言ったが防げないとは言わないコバック。流石と思うと同時に、少し悔しくなる。
「こうなると二つの圧縮術の完成を急がなければ」
「なんでさっきの話からそうなるの? まさかとは思うけど打ち込んだりはしないわよね?」
「するわけないでしょう」
そんなことしたらキチガイでは無く、唯の人でなしではないか。目指すところが人外であってもそう言った方向には行きたくはない。
「まぁ、実際そこら辺を確認しておかないといけないのは確かだものね。手伝ってもらえるかしら?」
「言われるまでもないですよ」
「ありがとうね……あ、でもちゃんと加減はしてよね?」
其れは勿論だと頷きながら、二人そろって歩き出す。他の仲間たちが居るだろう宿屋に向かって。
そしてジェネッタの宿にて。
「で、何か言う事は?」
「魔が差しました。反省していますが後悔はしていません!!」
「じゃあ吊るすわ」
「来いやぁ!!」
盾の性能を確かめるのは翌日になったとだけ言っておこう。