世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百三十七話

第四階層、虹霓ノ晶洞。美しき結晶が煌めくそこではある問題が発生しており、先を目指して足を踏み入れたギルド・フロンティア一行の歩みを鈍らせていた。さて、その問題というのは。

 

「あ、ありがとうございます」

「いやそういうの良いから、さっさと帰れ」

「はい。その、お気を付けて」

 

言いながら急いで、逃げる様に去っていくのは冒険者、では無く衛兵だった。アリアドネの糸をちゃんと使っているのだろうかと思いながら、ローウェンの深いため息と一緒に零れた声を聴いた。

 

「…これで何人目だ?」

「八人目だね」

「思って居た以上に多いな。バカしかいないのか?」

「それだけ魅力的ってことなんでしょ」

 

これ、と言いながらハインリヒが取り出したのは鉱石。第四階層のそこら中に存在するそれは、しかし貴重なもので在ったらしく。大変高値で取引されるそうだ。

 

そしてそれを求めているのが冒険者だけではない、と言う事だ。

 

「だとしても休みだからって衛兵が採掘に来るのはどうかと思いますけどね」

「ちゃんと休まないと響くものねぇ」

「そこまでお金に困っているのでござろうか?」

「さてな、あいつらの懐具合なんて知らん」

 

全くもってその通りだが少なかったと考えてもこんな所に一人で採掘しに来るとは正気なのかと訊きたくなる。

 

「というか評議会はどうしてるんですか? こんな状況に成っちゃってますけど」

「あぁ、其れに関してはあれだ。対処に困ってるって感じだな」

「と言いますと?」

「誰でも世界樹に挑んでいいとお触れを出したからな。第四階層に行くことを禁止できないんだろう。そんなことすれば非難が凄いだろうしな」

「お金になるものがここで取れると広まってしまってるでござるからな。独占する気なのかと言われるかもしれないでござるなぁ」

「なんというか、面倒ですね」

 

もっと単純に出来ないのかと、アイオリス以上に面倒な所に居たレフィーヤは、いやだからこそ思うのだろう。気分良く冒険させてくれと。

 

「結局の処は、評議会の都合でしか無いって事だな」

「人が死んでからじゃ遅いと思いますけどね」

「その通りだ。そしてそれが成るべくない様に助けたんだろうが。今の評議会に何かあったら冒険に支障が出るし」

「あと、助けないで居ると色々と面倒ですしね」

 

そのまま生きて街に帰り、襲われてたのに助けなかったと言いふらされたらたまったものでは無い。万が一にも、商人にそっぽを向かれたらそれこそ冒険処ではないし。それに、なんだかんだ言って周りに助けられて冒険しているのだ。助けることに何の抵抗もありはしない。

 

「と、そういえばローウェンさんは良いんですか?」

「何が」

「鉱石ですよ。お金になるなら取って損は無いでしょう?」

「まぁ、確かにそうだな。だがなぁ」

「如何したんですか?」

「冒険してる時に採掘しても邪魔にしかならないだろう。荷物を圧迫するし、重くなるし。というかそもそも冒険しに此処に来たのであって、金稼ぎの為に此処に着た訳じゃないしな」

 

冒険する為の金稼ぎであって、金稼ぎの為の冒険では無いと。ローウェンははっきりと言葉にした。と言っても彼は別に金稼ぎ目的が駄目とは思って居ないだろう。ただ単純に、自分はそうではないというだけで。

 

「という訳で第四階層に籠るのはここを攻略した後だ」

「あ、やっぱりですか」

 

まぁ、それはそれとしても冒険する為の金稼ぎはするローウェン。しかし後でなんてしたら価値が下がってしまうのではないだろうか。人が沢山来ているし、かなりの数が出回ってしまっているのではないかと。

 

「そこの所どう思いますかハインリヒさん?」

「大丈夫じゃないかな」

「何故?」

「掘り出されたものが必ずしも良いものとは限らないからだよ。というか大半が質がよろしいものでは無いだろうね。大半の人は十六階で掘ってるし。幾らそこら中に在るといっても、全部質が良いなんてことは無いし」

「あぁ、成程」

 

確かにと頷く。どれだけ量が出回っていようと、質が良ければ売れる。宜しくないものが大半ならば尚の事だろう。其れならば問題なく金策として利用できる筈だ。

 

「なんにせよ、此処を攻略してからの話だ。今は今の事に集中しろ」

「分かりました」

「勿論だ」

 

言いながらも、歩みを止めない彼らは進み。悲鳴を聞いた。

 

「…またですか」

「だな、しかし今回は随分と聞き覚えのある声だな」

「そうだね。なんだか僕の知り合いによく似た声が聞こえたよ」

「そうですね。とてもハインリヒさんの知り合いである商人の声に似ていましたね」

「成程、商人でござるか。確かにそれなら居ても可笑しくないでござるな」

「お金稼ぎに命掛けるものね」

 

ふっと息を吐くローウェンは、ハインリヒへと問い掛ける

 

「因みにハインリヒ。その知り合いは戦えるのか?」

「第二階層ならば問題なく逃げられるね」

「戦えるとは言わないんだな」

「商人としての腕はいいと言っておくよ」

「成程、つまり第四階層では」

「ただの餌」

 

言って、互いを見て。

 

「助けに行くぞ」

「はーい」

「ローウェン、今度買い物するときは容赦しなくていいから」

「言われなくても貸し借りは残さんよ」

 

言いながらも駆けるギルド・フロンティア。助けを求める腕のいい商人の知り合いの元へ向かって。尚、無事に助かった後の彼が違う意味で酷い目にあったのは言うまでもない事だろう。

 

 

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