「あぁぁあああぁあああああああああああ――――――――ッ!!」
絶叫が響き渡る。怒りに満ちた叫びを、狂った様に発するのはレフィーヤ。只管に、許せぬと手の中の地図を引き裂きかねない程に吼え。やがて崩れ落ちる様に膝をついた。
「一体、どうすればッ!」
「えっと、大丈夫レフィーヤ?」
「大、丈夫?」
コバックの言葉を聞き、陽炎の様に揺らめきながら立ち上がるレフィーヤ。そして彼へと向けられた視線は正気とは思えないものだった。
「な訳ないでしょう?! どうするんですかこれ! どうやればいいんですかこれ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
「落ち着いたら地図が描けるんですかぁ? どうなんですかぁッ?!」
「少なくとも今の状態よりは描けるだろうね」
「ですよね」
差し込まれたハインリヒの言葉にすっと冷静さを取り戻すレフィーヤ。全くもってその通りな事を言われてそうならざるおえないというものだ。
「まぁでも落ち着いても如何にかできるものでは無いですよねこれ」
「気が付いたらだったからね」
と、ため息一つ。さて何がどうしてこんな事に成ったかと言えばハインリヒの言った通りだ。気が付いたら別の場所に居た。と言ってもレフィーヤの時の様にまるで違う場所、と言う事ではないようだ。辺りに水晶が存在することと現れるモンスターを見るに、今いるのはアルカディアの世界樹、その迷宮の第四階層である事に変わりないようだ。
問題は地図をどう描いたらいいか分からないと言う事だ。
階を上がったのか下がったの、それとも同じ階なのか。同じ階だったとしてどこ等へんなのか分からないのだ。分からないから描けない。
「おっと、あぁ居た居た。ちゃんと同じ場所か」
「あ、お帰りなさい」
さてと考えていると突然姿を現したローウェンに、しかし当然の様に言葉にする。それを受けてローウェンは頷いて。
「で、どうだった?」
「取り合えず、ルールの様なものはあるみたいだな。適当に同じこれのある場所に飛ばされるとかでなくて良かったよ全く」
言いながら触れるのは巨大な水晶の柱。それが如何いうものなのかを確認していた最中、突然光を発したかと思えば今いる場所に飛ばされていたのだ。明らかにその巨大な水晶の柱が関係しているのだろうと、ローウェンが確認していたのだ。
結果、ローウェンの姿が消えてこうしてまた現れたのだ。
「それでそのルールというのは?」
「そうだな、取り合えず。水晶は水晶にある場所に飛ばすといった処か。近づいても反応しない箇所もあるから、単純に飛ばせる方向が決まってるのか。それともその方向に飛ばせる場所、詰まり水晶が無いのか」
「今の所は判断しようがないですね」
「だからと言って流石に考えずって訳にはいかないだろう。この仕掛けがここだけのもの、なんて楽観してたらどれ程足止めを食らうか分かったもんじゃない」
「そうですね」
レフィーヤ自身の時と違って分かる事もあるのだから、それで推測もしないのは馬鹿のすることだろう。まぁ、そんな当然の事としてだ。
「地図どうしますか?」
「んー…新しいのに描くしかないだろうな。っで、ある程度出来たら重ねてって感じか」
「正確に描くのは無理そうですね」
「無理だろうなぁ」
ですよねぇ、と肩を落とすレフィーヤ。これまで綺麗に描けていただけに落胆せずにはいられなかった。しかし、だからと言って引きずる訳にもいかないと切り替えて、今まで描いていた地図を取り合えずしまい新しいものを取りだして描く。水晶の柱についても丁寧に。
「と、こんなもんですね」
「良し、なら行くぞ」
「あ、行くでござるか」
「おぉ。でお前は大丈夫かゴザルニ?」
「立ってただけでござるからなぁ」
「そこは警戒してたって言いましょうよ」
何もしていないみたいな言い方はどうかと思うレフィーヤ。まぁ、本人からしたら本当にその程度でしかないのかもしれないが。
「まぁ、無理してないなら良いんだが」
「にござる。それはそれとして後で菓子が食べたいでござる」
「菓子…菓子? それってあのもの凄い潤いを持っていくあれですか?」
「にござる。あれと飲めるヨーグルトの組み合わせが凄まじく良いのでござる」
「す、すごいですね」
あのある意味で拷問の域に達するものを欲するとは、食への意気込みが違うなと思わずにはいられない。まぁ、辛いものに関しては負けるわけには行かないが。
何て、考えながら歩く。
「ふむ」
眼前に、一人の何かが立っていた。
視界に収める前、突如として発生した気配に反射的に武器を構える。そしてそのまま術を放とうとするのをローウェンが手で制す。
「…成程」
目の前の何か、フードで隠されながらも僅かに見える顔から思うに少女と思われる彼女を見て、ローウェンは頷きながら言葉にする。
「ずっと俺たちの事を見てたのはあんたか」
彼の言葉に肯定する様に頷く少女。そこで漸くレフィーヤも気が付く。今まで感じていた視線を同じもので在ると。しかし、だとしたら何の為に。
そう思考するレフィーヤを、いやギルド・フロンティア全員を見ながら少女は言葉にする。
「世界樹深くまで足を踏み入れし者よ。汝らは迷い人か? それとも世界樹の伝説を追いここまで来た冒険者か?」
問いかける少女。伝説とは何なのか。其れらしい事をレフィーヤは知らない。視線を巡らせて他の仲間を見ても、困惑している様子から同じなようだ。一人を除いて。
「そんなもの、言葉にするまでも無いと思うがね」
何でもないかのように、ローウェンは答えた。
「世界樹という伝説に挑む冒険者だ」
言葉を聞いて、少し恥ずかしく思えた。あぁ、全くもってその通りだと。だというのに冒険者であるか否かと問われてはっきりと断言できないとは。幾ら困惑してたにしても恥ずべきことだ。もっと精進せねばと気合を入れなおす。
そして、彼の言葉を聞いた少女は、少し驚いたような表情を浮かべた後に、嬉し気に微笑んだ。
「そうか…ならば気を付ける事だな。この水晶の樹海の上には恐ろしき竜が生息しているのだから」
言って少女はもっとも、と呟く。
「汝らには不要な言葉で在ろうがな」
まるで、確信ているかのようなその言葉を口にし、姿を消す少女。現れた時もそうだが、気が付いたら消えていた。まるで空気に避けて消えてしまったかのようだ。
「…竜か」
「竜って言ってましたね」
「竜、また竜かぁ。ドラゴンゾンビよりも弱いとかないかねぇ」
「さぁ? 相対すれば分かるでしょう。それに」
「そうだな、強いとか弱い関係なく。それでも先へと進むだけだ」
脅威がある。そんな事は何時もの事で、其れを乗り越えて今此処に居るのだから。