振るわれる刃を躱し、印術を叩き込む。守りを固める様な動きを見せるが予定通りだと、真上から頭に氷塊を叩き込む。鈍い骨の砕ける音を響かせ体を震わせて崩れ落ちるモンスター、リザードソードが確かに事切れていることを確認してからふっと息を吐き、見渡して確認する。
倒れ伏しているモンスターの姿を見るに、どうやら他の仲間も襲い掛かってきたリザード達を問題なく倒したようだ。まぁ、流石に奇襲された訳でもないならばこんなものかと思い。
「で、ハインリヒさんは何時までそうやって眼鏡を押さえいるんですか?」
「安全を保障できるまでだよ」
どうやってだと思いながら眼鏡を気にし続けるハインリヒを見る。
「あそこまで揺れたら気になりはするよな。前の事を考えると」
「いきなりだったものねぇ。今回も」
そう、世界樹が揺れたのだ。ハイ・ラガードの時と同じく、唐突に。もっとも今回は原因がすぐに分かったのだが。ハインリヒが過敏と言っていい程反応してしまい、今の状況だ。其れこそ戦闘時と治療の時以外はずっと眼鏡を手で押さえている。何が何でも落とさないという意思の表れだろう。
「まぁ、やる事はしっかりやってるし。これと言って悪い方向にいってる訳でもない。問題ないだろう」
「因みに悪い方向にいったらどうするんですか?」
「冒険処じゃなくなるから気絶させて一回帰る」
「ですよね」
思い起こすのはハインリヒの暗黒面。仲間である事を抜きにしても成ってほしくない。そしてローウェンの言う通り、冒険など出来る状態では無いのだ。そういう意味でも、良かったと言いたい。
「処で、眼鏡ってそんな簡単に割れるんですか?」
確かにハイ・ラガードの時の様に遥か下へと落ちたら割れるし、何かとぶつかり合っても割れるだろう。しかし、此処は別に床が抜けている訳では無いし、ぶつかるのは地面だろう。それで割れるかどうかと訊いてみたら。
「時と場合による」
「と言いますと?」
「地面が硬ければ割れやすいのは当然としても、運が悪ければ普通に割れる」
「それは詰まり」
そこら中に水晶が存在する第四階層は落としたらとても割れやすい場所と言う事に、成るのだろうか。レフィーヤには分からないけれど。というか結局運任せかと思ったのは、普通の事だろう。仕方ない事だけれども。
「まぁ、あれだ。気にしてもしょうがない事でもどうしても気になる、なんて事はよくある事だしな」
「あぁ、そういう」
なら仕方ないとレフィーヤは頷く。彼女自身、何となく気になる、なんて事はよくある事だからだ。主に辛味関係的な意味で。
「と、またか」
そんな事を言いながら立ち止まるローウェンの視線の先に在るのは巨大な水晶の柱。それを見て露骨に顔を顰めるレフィーヤ。
「またですか。多すぎませんか?」
「そんなこと知らん」
確かにその通り。尤もである。しかしそれ処とは話が別なのだ。先ほどローウェンが言って居たように気になってしょうがないのだ。これで最後であれば気持ちよく地図が描けるのだから。
「いい加減、枚数が心もとなくなってきたんですけど」
「だからと言って同じのに描いたらそれはそれで面倒なんだけどな。分かりにくいから」
そう、だから地図の数が減っても同じものに描けないのだ。若しかしたら別の階に飛ばされている可能性が在るから。そうだとすれば分かりにくい処の話ではなくなってしまうし。
それでも、気分的にはよろしくないのだがと、ため息を吐きながら鞄を探り次のものを探すレフィーヤ。
「来たか」
その眼前に、前と同じように唐突に現れたのは少女。そしてまたも反射的に攻撃しそうになるのを押さえるレフィーヤ。出来ればもう少し分かり易い登場の仕方をしてほしいと思う。
少女はゆるりと手を動かし水晶の柱を指差す。
「世界樹の伝説を追う覚悟ありし冒険者よ。この先に、この階層を支配する恐ろしき水晶竜が居る」
だが、と少女は言葉を区切り。微かに微笑みを浮かべた。
「恐れを抱きながらも、だからこそ勇気をもって歩みだす事の出来る冒険者よ。汝らが脅威を超え、世界樹の頂へと辿り着く事を信じているぞ」
その言葉と共に、少女の姿は消え失せる。
少女の言葉が嘘か真か。あぁ、いや考えるまでも無いだろう。なぜならばずっと感じていたのだから。二十階に辿り着いた時から、その存在を。
視線を仲間へと巡らせる。それぞれが思い思いの表情を浮かべており。全く問題など無かった。ならば、そうやる事は一つ。
「行くぞ」
ローウェンの言葉に、力強く頷いて。水晶の柱へと近づいた。直後に光に包まれて別の場所へと移される。
さて敵は、脅威は、水晶の竜は何処だと視線を巡らせて。
凄まじい勢いで飛来する水晶の塊が移り込んだ。
「―――――――――ッ?!」
悲鳴をあげる余裕など在る訳も無く、全力でその場から飛び退く。直後の轟音と爆風。何かが崩れる音を聞きながら素早く態勢を整えて状況確認。仲間は、無傷。問題なく避けれたようだ。そして、そのまま視線を動かして、其れを見た。
巨大な水晶で出来た歪な翼を持つ竜を。
「あぁ、これ水晶壊れてるな」
何気なくローウェンが言葉にした通り、水晶の柱が完全に壊れている。そしてさっと見た処、道らしいものは、水晶竜の先にしか無い。それが意味することと言えば。
「逃げられないって事だね」
「そうなるな」
面倒に成ったと言いながら彼は、彼らは笑う。厳しい状況だからこそ笑うのだ。
そして、竜の咆哮が轟いた。