世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百四十話

降り注ぐ水晶が迷宮を揺るがす。

 

その速度と質量はレフィーヤの生み出した氷塊を貫くほど。当然、防ぐ事が出来るようなものでは無い。故に躱す、躱し続けて接近しようと駆ける。

 

しかし、それを阻む様に水晶を放っていた竜は大きく息を吸い、薙ぐ様にブレスを放つ。

 

 

水晶に比べれば遅く、また質量も比べるまでも無いだろうが。しかし範囲が広い。どのようなものなのか分からない状態で受ければ即死しかねず、或いは運が良かったとしても戦闘は不可能になるだろう。故に後退して範囲から脱する。

 

が、距離を取らされたことに思わず舌打ちをするレフィーヤ。再び降り注ぎ始めた水晶を躱しつつ、さっと視線を巡らせる。

 

他の四人も今の所は問題なく躱している、がそれでも何時までも続けられる訳では無い。このままではじり貧だと思って居ると、ゴザルニと視線が重なる。それだけで彼女が何を求めているのかを察して、行動する。

 

生み出すのは氷塊。貫かれ砕かれるだろう壁にはならないそれはしかし、逸らす事は出来る。飛来する水晶の真横に氷塊を叩き込む。巨大な物質同士の衝突は凄まじい轟音を撒き散らしながら目的を達成する。

 

作られた道を疾走するのはゴザルニ。しかし水晶竜が何もせずにただ接近させるなどと言う事はしないと先ほど行動をもって証明している。

 

再び深く息を吸いブレスを吐こうとする水晶竜。しかし、その眼前にレフィーヤが氷の柱が作り出す。驚愕する様の目を見開く竜に向かって、柱は折れそのまま倒れて。

 

ブレスによって破壊される。

 

こんなものは脅威にはなり得ないと笑う様にのどを震わせる竜。しかし元よりそれは攻撃だとは思って居ない。ただ少しブレスを逸らせればよかったのだ、ただ少し時間を稼げればよかったのだ。

 

ゴザルニが辿り着く為に。

 

「シャッ!!」

 

鋭い一閃。それは確かに竜の足を切り裂く。響くのは竜の悲鳴。苦痛であると証明するそれに、竜は乱雑に足や尻尾を動かし、下に入り込んだゴザルニを叩き潰そうとする。

 

流石のゴザルニもその様な状況で張り付くことなど出来ずに距離を取る。それを好機と見たのか先ほどまでよりも多く息を吸い込む水晶竜。

 

その眼球を撃ち抜く銃弾。

 

たまらず吸い込んだ息を悲鳴へと変え、僅かに後退する。しかし流石は竜と言うべきかすぐににらむ返す。が、時間にして数秒だとしても接近するには十分だった。

 

幾つもの火球を叩き込む。弾丸と違い狙った場所に当たっている訳では無いが、竜は痛みに耐える様にその身を震わせている。

 

見てわかる程に動きが鈍い竜、ならば更なる斬撃をと踏み込むゴザルニ。

 

「避けろ!」

 

声が響く。反射的にその場から飛び退くゴザルニ。

 

「ゴォ?!」

 

しかし僅かに間に合わず。先ほどまでの遅さが嘘で在ったかの様な動きで前足で振るい吹き飛ばす竜。一回、二回と地面を跳ねる様にして転がった彼女は、しっかりと自分の足で立ち勢いを殺している。風圧で吹き飛ばされただけで直撃はしなかったようだ。

 

それでもすぐにまた前にという訳には行かないようだ。ならばと思考を巡らせ。

 

「レフィーヤちゃん!」

 

見たのは振るわれる鋭き爪。咄嗟に氷を生み出し叩きつけることによって時間を稼ぎ逃れる。

 

だからと言って安堵は出来ない。先ほどと違って速すぎる。目で追えないという訳では無いが、相手が巨大である為に避けるのは一苦労だ。

 

どうしてここまで変わるのかと何か変化はないかと見て、翼や体にあった水晶が小さくなっている事に気が付く。まさかそれで体が軽くなったから動きが速くなったのかと。

 

変化はそれだけではない。明らかに銃弾が効き難くなっている。先ほどまで貫いていたのに、甲高い音を立てて突き刺さるだけ。明らかに硬くなって居る事から小さくなったというよりは体の中にしまい込んだのかもしれない。

 

それが正しいかどうかは分からない。が、しかしもう一つ分かったことが在る。

 

印術がとても効くようになっていると言う事だ。先ほどの爪もただの苦し紛れでしかなかったのに、躱しきれるほどの時間が稼げたのだ。

 

ならば、と印を輝かせる。作りだすは爆炎。放たれた一撃に竜は大げさなほど大きく飛び退いて避ける。それが危険であると判断した動きだ。やはり、先程よりも効くようになっていると考えて間違いは無いのだろう。

 

そのだからこそ自身にとって危険であると判断したのか、竜はレフィーヤの事を睨みつけ。恐ろしい速度で接近し足で薙ぐ。

 

それは先ほどゴザルニが躱しきれなかった一撃。速さで彼女に劣っているレフィーヤでは躱せないのは必然で。

 

「しょ!!」

 

だからこそ、コバックという守りに優れたものが居るのだ。重い音、いくらコバックが凄まじい技量を誇ろうとも防げても防ぎ続けられるわけではない。故にレフィーヤがすぐさま真下から氷の柱を作り出し腕を跳ね上げる。

 

態勢を崩す水晶竜。その視界に飛び込んできたのは、ゴザルニ。両断せんと刃を構える彼女に。竜はその歪な翼を開く。そして瞬くのは七色の光。危険だと見るまでも無く分かる。だがゴザルニは止まらず、さらに加速する。もはや速いか遅いかの勝負。ゴザルニが両断するが速いか、竜がそれを放つが速いか。

 

そして。

 

 

ガチリと噛み合う音が響く。

 

 

直後、青い線が走り片翼を切り落とす。突然の事に一瞬だけ硬直し、そして絶叫を響かせながら何が起こったのかと視線を巡らせる。しかしそれに意味は無い。

 

「それでは」

 

もはや竜の命はその一刀にて。

 

「斬り捨て御免」

 

両断されるのみ。

 

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