世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百四十一話

崩れ落ち迷宮を揺るがす水晶竜。揺れが収まり、事切れていることを確認して。

 

「あぁ、疲れたでござるぅー!」

 

そう言いながらゴザルニは床に寝転がった。水晶の欠片でもあったのか、呟くように痛いと言葉にするが起き上がろうとはしない。だがそんな事は良いとしても言った事に関してはレフィーヤも同じだ。

 

「割と拙い状況になりましたしたね今回は」

「がっつり奇襲されたしな。ヒポグリフの時と違って」

「しかも逃げられない様にするという二段構え。ちょっと死を覚悟したわね」

「レフィーヤの氷を迎撃してくれてなかったら負けてたかもしれないね」

 

それぞれが思ったことを口にしながら休憩の為のその場に座る。一人、他の四人に比べて攻勢に加わらなかったため、疲労がそこまでではないハインリヒが警戒の為に立ったまま周囲を見渡している。

 

「今までで一番ですかね? あ、ムスペルとかオーバーロードにフォレストセルは除きますけど」

「そうだな。階層を主って意味ではそうなるか。というかお前、世界滅ぼせるような奴となんて言われなくても比べるわけないだろう。オーバーロードに限っては其の内の一体を瀕死の状態で倒してるし」

 

会話をする二人。そして彼らに向かって少し離れた場所で寝転がっていたゴザルニが転がる様に近づいてくる。

 

「そのオーバーロードがとんでもないというのは良いとしてでござるが、これからどうするでござるか? 帰る為の水晶は完全に壊れてるでござるが」

「それなぁ。アリアドネの糸で何とかするしかないだろ」

「いけるでござるか?」

「知らん、流石に俺も帰り道がない状況で使ったことないし」

「で、ござろうなぁ」

 

駄目だったらどうするかと呟きながら鞄を探るローウェン。ふいに、その動きを止める。如何したのかと問い掛けようとして。

 

声を聴いた。

 

「広間の奥へ。その先に巨大な水晶の柱に在る門を開くのだ。それが、汝らを世界樹の頂きへと導くだろう」

 

何処からともなく響く声は少女のもの。何処からなのかと見渡すが、姿は無い。オーバーロードの時も同じような感じだったなと思い出しながら。声と共に気配が薄れて消えたのを確認する。

 

「…どうします?」

「帰れるかどうか分からないんだから行くしかないだろう」

「樹海磁軸が在るといいなぁ」

「それ以前にいきなり襲い掛かられないことを願うばかりね」

「流石に竜の後にまた戦いたくはないでござるかなぁ」

 

全くだと頷きながら立ち上がる。そして視線を広間の奥へと向ける。そこに少女の言葉にした門が在るのだろう。

 

「さて、世界樹の頂きまで間近ですね…二度目ですよね?」

「ハイ・ラガードのが一回目だしな。アスラーガのは頂きというか底だったしな」

「ですね」

 

もっとも、ハイ・ラガードに関しては其の上まで行ってしまったし、此処だってその先を目指している。ならば中間地点でしかないが。

 

水晶の柱が視界に入る。それは巨大と言った少女の言葉の通り、高く天井まで伸びていた。そして、金属製の扉を見つける。何処かで、いや思い出すまでも無い、それは天空にありし彼の居城に在ったものとよく似ていた。

 

視線を交らわせローウェンが無言で扉に振れる。直後、鈍く重い音が響きゆっくりと開いていく。

 

柱の内側に在ったのは道と塔だった。彼等が道を歩み進むごとに光が灯っていく。そして、中央に辿り着こうとしたその瞬間だった。塔から光が瞬く。思わず目を細め、慣れた頃に改めてみると塔に在る扉の様なものがゆっくりと動き開いていくのが見えた。

 

入れと言う事なのだろう。何も言わず、視線を向けてくるローウェンに頷いて見せ。彼等はそこに足を踏み入れ。

 

光が空高く昇っていく。

 

奇妙な浮遊感を感じていた彼らがそれから解き放たれると同時に、眼前の扉が開かれる。到着したと言う事なのだろう。さて、どのようなものが待ち受けているのか。何が在っても反応できる様に杖を構え、ほんの少し感じた手の痛みに顔を顰めつつ外へと歩み出る。

 

 

そこには明るい夜と原初の樹海が広がっていた。

 

 

「これは……凄いですね」

「何時もの事だが、見たことない光景だな」

「本当に何時もの事ですね」

 

無駄口だ。けれど警戒は一切怠っていない。そこに何かが、誰かが歩む音と、語りの言葉が響く。

 

「かつて、赤く荒れ果てた大地に私が訪れた時、この森は生まれた」

 

ゆっくりと近づいてくる言葉と歩む音。

 

「ただ一つの例外を除く、大地を構成する全ての緑は、この小さな原生林から生まれたと言ったら、大地に住まう者たちは信じるだろうか?」

 

間近から言葉が響き歩む音が止む。視線の先には、少女が佇む。

 

「多くの者は笑うだろうが、どこかに信じる者がいると私は思って居る。あぁ、思って居たのだ」

 

少女もまた視線を彼等へと向ける。

 

「幾多の困難を乗り越え、数多の想いをここまで来た君達は信じる……否か」

 

問いかける様に、少女は言葉を投げかける。その返答は、分かり切っている事だ。

 

「其れを信じて挑むのが、いや挑むからこそ冒険者だ」

 

その言葉、答えに。少女は嬉し気に言葉を紡ぐ。

 

「君たちが世界樹に挑み、ここまで来た事に感謝している」

 

あぁ、そして願わくばと、少女は祈る様に口にする。

 

「世界樹の頂きまで到達し、私の願いを叶えて欲しい」

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