祈る様に言葉にした少女は、しかし願いを口にすることなくスッと背後を指差した。視線を向けてみるとそこに在ったのは樹海磁軸。
「今は疲れているだろう。今は街に戻り、準備を整えてからにすると良い」
そう言って、姿を消す少女。ならばお言葉に甘えてとモンスターを警戒しながら近づき。彼等は無事街へと帰還した。
そして、現在レフィーヤが居るのはジェネッタの宿の自室。少し破けた手袋を弄っていた。それに、手には軽く包帯が巻かれていた。しかしそんな事など気にしていないのか、手袋を弄り続けて。ボソリと呟いた。
「……やっぱりこれ以下には出来そうにないなぁ」
と、零す。そう手袋に刻み込んだ圧縮錬金術を印術で再現したその術は、しかし威力が強すぎて仲間を巻き込みかねない上に一回放つ度に手がボロボロになるという欠点を抱えていた。それを何とか出来なかと試行錯誤。結果、手袋が弾ける事無く、手も少し痛む程度まで抑えることができた。
のだが威力は相変わらず馬鹿かと罵りたくなる程、高い。水晶竜の翼を切り落とせるってどんな威力なのかと。
「なら、こうして…あぁ、でもそうなると」
ブツブツと呟きながら弄るレフィーヤ。如何にか出来ないだろうかと思考を重ね。
「おっす、悩んでるかぁ」
「あ、ローウェンさん」
いらっしゃいと良いながら部屋に入ってくるローウェンに視線を向ける。扉を叩いたのかどうかは知らないが、別に拒否するようなことも無いので快く迎える。
それにしても来ること多すぎないかと頭の隅を過っていったが、まぁ別にいいかとレフィーヤは思う。
「で、なんの用ですか?」
「渡してくれって言われたものを持ってきただけだぞ」
これ、と言いながらローウェンが差し出したのは一冊の本。それはずっとレフィーヤが求めていた物だった。
「其れってウォーロックのですか?!」
「基本的なものでしかないらしいがな」
「其れでも十分ですよ。おぉ、これが。前から頼んでたものですがやっとですか」
「別に門外不出って訳じゃない筈なんだけどな」
「手続きとかあるんでしょう。面倒な事この上ないですよね」
「まぁ、必要な事だがな」
そう言って、用は済んだと部屋から出ていくローウェン。その背中に適当に言葉を投げかけながらレフィーヤは本を開く。
「これがウォーロックの……あ、圧縮系の術が在る。こっちの方が相性がいいかな。でも今からとなると流石に時間的に…高速詠唱。これは、応用出来るだろうけど態々印術で再現する必要はないかな。でも、在って困るものでは無いし」
ううむと唸りながら素早く目を通していくレフィーヤ。不意に手が止まり在る術に目を奪われる。
「レビテーション……これいい、凄く良い! ぜひ使えるようになりたい!!」
独り言が零れていることなど気にせず、手早く印術で軽く再現して行使してみると。
「ごふぅぁ?!」
体が跳ね上がり天井に叩きつけられた。そのまま勢いよくベットの上へと落ちるレフィーヤ。微かに呻き声をあげて。
「え……レビテーションって、そういう?」
予想以上の勢いで叩きつけられた為に痛みよりも驚きが勝っている。軽くとは言え手を抜いたわけではないので、まさか天井まで跳ね上がるとは思って居なかったというか、そもそも飛ぶとは思って居なかった。出力が高すぎたのかと思い今度は丁寧に術を組んでいき印とする。今度は大丈夫だろうと思い、けれど恐る恐るといった様子で行使する。
と、何も起こらなかった。
「…これ、は?」
いや、僅かに違和感がある。まるで薄く目に見えない膜で覆われているような、そんな奇妙な感覚。成功しているのだろう、が。なんというか思って居たのと違うと言う事と、これが正解だとするならなんでさっき跳ね上がったのかという疑問とで、顔を僅かに顰めるレフィーヤ。
しかし正解だとしてもちゃんと効果を発揮できるのかは試していないから当然分からない。それにレフィーヤの個人的なものだが、先程の跳ね上がる方が何かと便利なように思えて。
「あぁいや。そっちの方を工夫すればいいのか」
正しいレビテーションでは無く、間違ったレビテーションを違った形に組み替えて別の術として成立させる。それは難しい事だが。とても楽しい事であるのは間違いない。
「さて、なら何が必要に成るか」
場所もそうだが、道具も必要だろうと思いつく限りの物を紙に書き込んでいく。その際中、先に本を読み終えて理解を深めてからの方が良いのではと思い、少し手を止めたが。いいや、今は勢いに任せてある程度やってしまうのも悪くは無いかと判断する。
丁度、圧縮関係の術で詰まっていたのだ。ウォーロックの本を読むだけでも随分違うが、実際にそれを行ってみた方が気分転換的にも良いだろうと判断したのだ。
さてと、あらかた書き終えたレフィーヤは、早速と鞄を手に取り扉へと向かう。うまく良くだろうか、いや上手くやるのだと決意し、扉を開く。
「四階層突破おめでとうゴザルニ!! お祝いとしてわたくしを斬ってもいいのよ、というか斬りなさい! 或いはわたくしに斬られなさい!!」
「どっちも嫌でござるぅー!!」
悲鳴と叫びを聞いて、そっと扉を閉じた。やはり、ちゃんと読んで理解してからの方が良いだろうと思いなおしたからだ。決して、今出たら面倒なことに巻き込まれるなと思ったからではない。
断じて、無い。