世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百四十三話

街の一角に笑い声が響く。近くを通りがかった人たちは何事かと視線を向け、すぐに視線を逸らした。逸らした人々の半数は関わってはいけないと言った表情を浮かべ、残りの半数は何時もの事かと興味を失った様に歩いていく。随分と鍛えられたものだなとレフィーヤは思う。

 

水の上に立ちながら。

 

そう、レフィーヤ・ウィリディスは遂に水の上に立った、立ってしまったのだ。正確に言えば浮いているという方が正しいのだが、それでも結果的には変わりない。

 

本当に気分が良いと笑いながら滑る様に水面をくるくると回りながら進み。落ち着く為に深呼吸を、一回二回。そして、無意識の内に手を頭にやり。

 

「これホロンさんがやってたやつだ」

 

すでに同じようなものが在る事に気が付いた、いや思い出したと言うべきだろう。レフィーヤの師匠というか先生とも言うべき人物が謎の移動方法をしていた事を思い出したのだ。丁度、今のレフィーヤが行ったような滑るような移動を。もっとも、だからと言って水の上を移動できるかは分からないが、出来るだろうなとレフィーヤは思う。だってキチガイだし。

 

しかし、もう在るからと言って無駄だったとは思わない。何事も挑戦というらしいし。行動し、結果となっているのだから無駄ではない。そう、床と天井に何度も叩きつけられたもの、滑る様に横に向かって落ちて扉に叩きつけられたのも、全て無駄ではなかったのだ。

 

何故か瞳から汗が流れ落ちそうになりながら、さてと切り替える様に考える。これをどう戦闘に役立てるかと。

 

「……うん」

 

直ぐには利用できそうにはないというのが結論だ。今だってそれなりに集中しているのだ、戦闘中では上手く使えないだろうから。それでも其の内はという思いもあるので時間が在れば慣れる為に色々と修練を積むかと決めて。

 

「何を頷いているので?」

「うぉ?!」

 

突然の背後からの声に、驚きの余り乙女としてどうなのかと思う声を出してしまったレフィーヤは滑る様にその場から動いてから振り返る。そこに居たのはとても花咲くような笑みを浮かべたミカエが立っていた。

 

やっぱり水の上に立てるのかとか、なにも言わなければ普通の綺麗な人なんだけどなぁ。なんて思いながらすぐに抜ける様に手が刀に触れているミカエに、問いかける。

 

「で、私に何の用ですか?」

「いえ、別に何という訳でもないの。ただちょっとわたくしを斬ってくれる、もしくは斬らせてくれる人探して居たら笑う貴女が居るのが見えてね。何をしているのか気に成って来たの」

「そうですね」

 

過去に戻れるならば笑っている自分を叩きのめして口を縫い塞ぎたいと思うレフィーヤ。しかしもはや遅い。やばいと一言で言い表せるキチガイが目の前に居るのは自業自得なのだ。だから自分の持てる全てで最悪を回避するのだ。

 

と、思って居た。目の前でシャラリと刃を抜き放つミカエを見るまでは。

 

「では斬り合いましょう」

「待って」

「待つ、何故?」

 

分からないと言ったように首を傾げるミカエ。しかし、そんな彼女以上に何故斬り合わなければいけないのかがレフィーヤには分からなかった。というか剣も刀も持っていないのにどうやって斬り合えというのかと。

 

「あ、そっか。貴女は刀を持っていないのでした。これは失敬仕るってやつね。ごめんなさい。じゃあ改めて……殺し合いましょう!!」

「だから何故そのような事をしなければいけないのかと!!」

「だって鍛錬したいでしょう?」

「いや確かにそう…え、なんで?」

 

なんで、そんな事が分かるのかと、驚きながらミカエの事を見る。と、彼女は可笑しそうに口元を隠しながら笑う。

 

「分かり易かったもの。それに、わたくしこれでもゴザルニの師匠なのよ? 悩み事の在るなし位は見抜けるわ」

 

そう言えばそうだったとレフィーヤは思い出す。普段の姿が在れ過ぎて忘れていたが、彼女はゴザルニという冒険者を育てた人物なのだ。しかも、滅茶苦茶強くなった弟子よりも未だに強い。

 

ローウェン程でないにしても十分、とんでもない人だったなと思いながら視線を向ける。何故か恍惚とした笑みを浮かべられた。そんな顔を無視して。

 

「で、だとしても何でですか? 私、貴女とそんなに関わりないですよね?」

「あら。単純にわたくしが関わりたかったから。育ててみたかったからとは思わないの?」

「それならもっと前に行動を起こしてないと可笑しいですよね」

 

正直、そんなに我慢の出来る性格では無かった筈だ、と心の中で呟きながらそう言葉にする。そしてそういわれた彼女はと言えば。

 

「単純に、教える事が無かったのだもの」

「あ、あぁー…まぁ、そうですね」

 

術者と剣士ではあまりに違いすぎる。それでも教え合える事もあるだろうが、そう言った事の大半は仲間に頼んである程度済ませてしまっている。

 

「でも今の貴女はそうじゃないでしょう? 今、必要なのは試す事。その相手にわたくしが成る、いえなりたいから貴女に話しかけた。ではいけませんか?」

「成程」

 

そう言う事だったのかと、頷いて。

 

「因みに本音は?」

「わたくしの事を容赦なく痛めつけてくれないかと思って」

「だろうと思いましたよ!」

 

なんでこう、凄い人って変な処からブレないのだろうか。隠す事では無いからとか思ってはっきりと言葉にするし。けどまぁ、なんだかんだ言いながらも助かる事に変わりない。ので、非常にあれだが手伝ってもらう事にしたレフィーヤ。

 

「…あぁ、じゃあよろしくお願いします」

「はい、お願いされました。ではまずはどのような物なのかをわたくしに教えてくださいな」

「何故?」

「習うよりも慣れろというけれど、習って知ってから試して慣れる方が良いでしょう?」

「そ、その通りですね」

 

思って居たよりも何倍もまともな事を口にしたことに驚きつつも、言われた通りどのような術でどういう風に使う積りなのかを説明する。時々、こうすれば良いのではないかと提案されたりと。当初の予定よりも有意義で、一人でするよりも実りの多い一日となったそうだ。

 

まぁ、その分悲鳴も多かったのだがそれはそれ、必要経費というものだとレフィーヤは思うのだった。

 

 

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