世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

145 / 241
第百四十五話

「よく、ここまで来てくれた」

 

二十五階へと続く階段、その前に立つ少女は柔らかく微笑みながら彼らを見渡した。

 

「語らねばならない事が在る。しかしその前に、君たちの名を教えてもらえないだろうか?」

 

その言葉に、あぁそういえば名乗っていなかったなと思い出し、レフィーヤは何となくローウェンへと視線を向ける。彼は、肩を竦めてみせ隠すことでも渋る事でもないと呟く。そうれもそうだと頷き、彼らは名を口にする。

 

「レフィーヤ。レフィーヤ・ウィリディスです」

「コバックよ」

「ハインリヒだ」

「ゴザルニにござる」

「ローウェンだ」

「人外の間違いでは?」

「おい」

 

ローウェンが睨む。スッと視線を逸らし何となく口笛を吹いて誤魔化す。そんな二人を見ながら少女は成程と呟き、ゆっくりと彼らの名を確認するように口にする。

 

「レフィーヤ。コバック。ハインリヒ。ゴザルニ。そして……人外か」

「違うからな」

「あぁ、知っているともローウェン」

 

ただの冗談だと、少女は笑いながら言って。改めて、一人一人に視線を向ける。

 

「私は、アルコン。古きよりこの地を見守り、そしてここに来る者を待ち続けた者だ」

 

良いながら少女は、アルコンは彼らから視線を外し、階段を。いや、階段の先を見る。

 

「アースラン、ルナリア、セリアン、ブラニー……それぞれに伝わる伝説の全ては、この地に導く為のもの。そして挑みし者が、導かれし者が世界樹の頂へと辿り着いた時…私の役目は、終わる」

 

だからこそ、彼女は言葉を零しながら再び彼らを見る。

 

「改めて言おう。よく、ここまで来てくれた」

 

 

 

歩く、彼らは歩く。

 

進む、ギルド・フロンティアは進む。

 

一人の少女、アルコンに導かれる様に。

 

「二十五階にある一室。世界樹の頂きに作られたそこに伝説の意味が存在する」

 

小さく零れたその呟きは、それでもしっかりと彼らに届く。

 

「かつて、星を覆いつくしていた赤熱の地獄が過ぎ去りし後。多くの命が育まれようとしていた時、それは現れた」

 

彼女は歩みを止める。その先には一つの扉。今までのと同じように見えて、しかし全く違う。その先からは深く暗い何かが存在している事を理解する。

 

「古きこの星に終わりを振りまいた…死を纏う原初の闇」

 

聞き覚えのある言葉。原初の闇、それはあのオーバーロードの言っていた存在。

 

「水を涸らし、空気を腐らせ、命を散らし滅びの星へと変えた暗黒の化身。人が人として生まれ育つ為に。命が命として生まれ育つ為に、乗り越えなければいけない災厄」

 

アルコンはゆっくりと扉を、世界樹の頂きを。そこに在りし原初の闇を見る。

 

「今この時。多くの生命が生まれアルカディアに、この星に満ちているのは世界樹が豊かな実りを捧げ、その身に闇を封じているからこその事」

 

けれど、それで解決したという訳では無い事を理解している。

 

「闇は未だにそこに在り続けている」

 

指差すのは世界樹の頂き。

 

「大地に住まう者達よ。伝説へと挑みし冒険者よ。原始より生きる闇を乗り越えてほしい。それが汝らへの……君たちへの、私からの願いだ」

 

そう言うと、彼女は道を譲る様に動く。ことは無かった。

 

「けれど、否というならば私は…それでも構わない」

 

その逆。まるで立ちふさがる様に彼等へと向き直り、言葉を彼らに向ける。

 

「恐れているから、などとは言わない。それが君たちへの侮辱に他ならないのだから。けれど、しかし。私の願いは強いるべき事では、無い」

 

乗り越えなければいけない。幾ら世界樹で在ろうとも、永遠では無いのだと彼の地の琥珀色の世界樹が証明してしまって居る。故に、百か千か、それとも逆に明日にも闇が解き放たれてしまうかもしれない。だというのに、だというのにだ。

 

目の前の少女は、アルコンはそれでも示す。

 

「選んでほしい。冒険者よ。己の意志で歩む者達を。誰かの言葉に因ってではなく。何かに因ってでもなく。君達自身で、古き時代に星を滅ぼしかけた存在に挑むか、否かを」

 

視線を唯一人。レフィーヤから逸らす事なく。

 

「この星に生まれ落ちた訳では無い、ただそこに在る君が。この星の未来を左右する戦いに挑むかどうかを。選んでくれレフィーヤ・ウィリディス。迷いの無いように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、いやそんなどうでもいい事言われても困りますし。分かり切ってることを真面目に訊かれても」

「は?」

「―――――――ッ!!」

 

レフィーヤの言葉に、思わずといったように声を零しローウェンは堪え切れず笑う。

 

「どうでも…いい事?」

「そうでしょう?」

「分かり切っていると言うのは」

「其れこそ其のままだぞ、アルコン」

 

困惑しながら問いかける様に言葉にする彼女に、ローウェンは肩を震わせながら言葉にする。

 

「俺たちが何なのかを考えれば、それで分かる事だ」

「君たちが……君、達は」

 

何なのかとアルコンは考えて、そして思い出し。

 

笑った。

 

これまでの微笑みとは違う。大きく声を響かせる。堪え切れないと言わんばかりに腹を抱えて、今にも転げまわりそうな程に。あぁそうだったと彼女は思う。原初の闇が余りに強大で在るが故に余りに馬鹿げた事を口にしてしまったと。彼女は自分が愚かに思えて、一層笑いが止まらない。

 

「あぁ、そうだったな。君たちは……冒険者だったな」

 

そう、そうなのだ。だからこそアルコンの言ったことは見当外れだったのだ。

 

別の星で生まれた命で関係などない。だからどうした。関係あるなしでにここまで来たわけでは無い。相手は星を滅ぼしかけた事のある程強大だ。だからどうした。そんな事で迷うとでも思って居るのか。そして今更だが、彼らがそこまで来たのは。

 

 

ただ、冒険者で在るが故に迷宮を踏破する為だ。

 

 

それを思い出したアルコンは静かに、そして今度こそ道をゆずる様に横に動く。もはや言葉は不要だと彼女は口を閉ざし彼らを見る。

 

そして彼らは、足を踏み出す。原初の闇、星を滅ぼしかけた存在へと挑むために彼らは扉へと近づき。

 

「あ、そうだ」

 

唐突にローウェンが立ち止まった。いきなりの事に思わず態勢を崩しそうになるのを堪えて如何したのかとレフィーヤは見ると。彼の視線は、アルコンに向かって居た。彼女に何か言い忘れたのだろうか。

 

「さっき言った願いだが」

 

視線が彼女からレフィーヤに、仲間に向かう。それだけで、どういう意図なのかを察し。迷うことなく頷いた。だからこそ、彼らは笑みを深めてアルコンにこう告げるのだ。

 

「依頼としてしっかり果たさせてもらうから、報酬はしっかり用意しておく様に」

 

その言葉、彼女は驚いたように目を見開き、優しく微笑んだ。

 

 

「あぁ、必ず」

 

 

さぁ、彼らが行くぞ。

 

原初の闇を超え世界樹の先へと至る為に。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。