世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百四十六話

闇が在った、竜の如き姿をした滅びを齎す闇が。

 

頂きのその上、天より落ちる様に姿を現したのは原初の闇。今まで相対した災いと勝るとも劣らないその闇そのものは、ゆっくりとその身を包む翼を広げ。

 

光の線が走り胸部を貫いた。

 

大きく揺らぐ闇に、さらに叩き込まれる無数の弾丸と術。其れほど硬い訳では無いのか。それらは闇の体を削り、穿ち、吹き飛ばす。それでも二人は、レフィーヤとローウェンは一切止まることなく叩き込み続け。

 

放ち。

放ち。

放ち。

 

ふっと息を吐いて僅かに後退。息を整えながら地に降り立った原初の闇を見る。

 

「……全然気にしてる様子が在りませんね」

 

何かを確認するようにその両手を動かす闇。レフィーヤの言葉通り、叩き込んだ攻撃の数を考えると、其れほど効いているようには見えない。明確に変化が見られたのは最初の一撃だけだ。

 

「はぁ、いやに成るな本当に。これだから明確な急所が無い奴は嫌いだよ」

「そうでも無ければ星を滅ぼしかける事なんて出来ないんでしょうけどね」

「逆にそうだったとしても滅ぼしかけたならそれは其れで嫌だよね」

「いや、そう言うの関係ない嫌でござろうよ普通」

「まぁ、相当その狂人か馬鹿でもない限りは挑まないわよね世界規模の厄災には」

 

そして冒険者である彼らは…最上級の馬鹿である。

 

原初の闇が、視線を彼等へと向け、敵意を漲らせる。ただそれだけで、心が死に絶えかねない圧の暴風となって荒れ狂い。しかし、彼らは闇を見据える。

 

「行くぞ」

 

その一言を合図に、死闘は始まった。

 

 

 

 

吐き出された凍てつく息によって氷に覆われた部屋を疾走する。一瞬たりとも止まってはいけないと彼らは駆けまわる。

 

敵意と共に闇の視線が走る。その先に居るのは、レフィーヤ。闇は明確に彼女を、いや彼女だけを脅威としている。故に、撃ち込まれている弾丸を無視して大きく足を踏み出し、その巨大な手を叩きつける様に振るう。

 

それは水晶竜に比べれば余りに遅い。けれどしかし、その巨体からなる一撃の破壊力は見るまでも無く。避けようともただ余波だけで塵の様に吹き飛ばされてしまうだろう。

 

何もしなければの話だが。

 

撫でる様に纏う衣服に振れ、そこに縫い印した術を行使する。地面より聳える様に生まれ出るには氷槍。其れは闇の一撃とぶつかり合い、しかし闇の振り下ろされた手の勢いは僅かに衰えるのみで止まる事は無く砕きながらレフィーヤに迫る。しかし、そんな事は想定の内。焦ることなくレフィーヤは地を蹴り、改良版レビテーションをもって滑る様に速やかに逃れる。

 

直後の衝撃。地を砕き世界樹を揺るがす。すべてを薙ぎ払うのではと思う程のその余波がレフィーヤだけでなく、全員に襲い掛かる。

 

それでも、レフィーヤ以外は距離が在ったこともあり問題なくやり過ごす。けれど、レフィーヤはそうはいかない。故に、自らにかけていたレビテーションを解き地に足を付け。

 

爆炎を叩き込むことによって衝撃を吹き飛ばす。

 

しかしそれでもすべてをという訳では無く、体を叩く風を堪える様にした耐える・・・事無く、逆に再びレビテーションを使い、衝撃を利用するように一気に距離を取る。

 

そんな彼女の眼前を音を響かせて通り過ぎるのは闇の持つ強靭な尾。

 

受ければ弾け飛ぶこと間違いなしなそれを躱せたのは若しかしたらと思い、利用して距離を取ったからこそだ。いってしまえば運が良かったと言う事。それをちゃんと理解しているレフィーヤに、冷や汗が伝う。

 

「何止まってるんだお前は」

 

大声ではないがはっきりと声が届く。それを聞いたレフィーヤは言われるまでも無いと再び駆け乍ら術を放つ。しかし、やはりと言うべきかその一切を意に介することなく原初の闇はレフィーヤに向かって突き進む。

 

レフィーヤを、正確にはレフィーヤだけを脅威と見なしているのだから当然だろう。そしてこれもまた当然だが、そんな分かり易い隙を見逃す様な者は、此処には居ない。

 

 

剣閃は煌めき、銃弾が穿つ。

 

 

ゴザルニの振るった刃は足に在る最も小さな指を切り落とす。それには溜まらず足を止め、欠損の無い足に力を籠める原初の闇。そこに叩きかける様に撃ち込まれた銃弾が炎となって爆ぜる。

 

今までとは違う、その衝撃に力を込めていた故に崩れ落ちる様に態勢を崩す闇。地に手を突きそれを倒れる事を防ごうとする。しかしそれもまた想定内で在るからこそ、レフィーヤはすでに行動を終えていた。

 

突き出された手を頑丈に作られた巨大な氷が貫く。

 

それは二度目の揺らぎ。さらに頭部も貫かんと新たに作り出された柱を手を貫いている氷をへし折りながら避ける原初の闇。そして轟音と振動。その巨体が頂きに崩れ落ちる。

 

僅かに足を取られながらもすぐに立て直し。さらに術を巻きあがる土煙の内に在るだろう原初の闇に叩き込む。あの程度で終わったなどと楽観視するわけには行かないからだ。気を抜いていいのは、確実な勝利を手にした時だけなのだから。どんな事でも対処できるようにと止まる事無く構え、晴れていく土煙を見据える。

 

 

 

 

 

そして、命を蝕む瘴気が解き放たれた。

 

 

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