世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百四十七話

零れ落ちていく。

零れ落ちていく。

 

命が零れ落ちていく。

 

息をする度に体が内から腐り果てていくのような苦痛が襲う。声を零す事すらできぬ程のその痛みは、間違いなく死へと向かっていくものだった。

 

死、そう死ぬのだ。先ほどまでの攻撃と違い、頂きを満たし犯すその瘴気は防ぎようがない。精々、息を止めれば蝕まれる勢いが少しはましになる程度。けれど、生き物が、呼吸をしないのは其れこそ死に至るだろう。

 

覆しようのない死、けれど何もせずに受け入れるなんて事は・・・在りはしない。

 

鞄から取り出した瓶を蓋を開けるのも面倒だと叩き割って頭から入っていた薬を被る。破片に因って出来た傷から流れ出る血が瘴気に因って泡立ち不快感を生むが気にしない。薬のお陰か先程よりは幾分楽になったのだから。もっとも所詮は焼け石に水。僅かに生の時間を伸ばしただけだろう。

 

ならばどうするか、決まっている。終わる前に勝利するまでの事。

 

故にかレフィーヤは、いや彼ら全員は一気に前へと踏み出し距離を詰める。様子見をしながら隙を見つけて攻撃する、なんて事をしていたのでは間に合わない。だから一気に決める。

 

原初の闇の放つ雷を纏う絶叫が轟く。瘴気を伝う様に広がるその雷を、レフィーヤは氷の盾を砕かれながらもやり過ごし、コバックは自らの後ろに居るハインリヒは守る様に流し、ゴザルニは斬り落とし、それらによって生まれた乱れにローウェンはその身をねじ込む様にしてさらに突き進む。

 

あぁ、あの二人はいつも通りだなと思いながらレビテーションを駆使して近づき、術を放つ。それを大げさに動き躱す闇。先ほどまでと違い、受けようとはしない。思って居たよりも消耗しているのかもしれない。

 

しかしだとしてもその動きに衰えは無い。振るわれるのは両腕と両翼。これまでの攻撃よりも速い其れを避けるには近すぎる。であるなら行うのは当然、防御。作り出される巨大な氷塊、けれどそれで止められるとは思って居ない。所詮、時間稼ぎだ。彼が辿り着く為のだ。

 

「――――――ふッ」

 

駆けこんできたコバックが短く息を吐き、振るわれた腕、その先に在る鋭き爪を受け、上に向かって流す。それでも、余りの威力に完全ではない。そこにさらに飛ぶように現れたのはハインリヒ。軽やかに、それでいて重い一撃を真下から叩きつける。僅かに軌道が変わり躱せるだけの隙間が生まれる。そこに向かって、レフィーヤは二人を掴みレビテーションをかけて文字通り滑り込む様に体を捩じり込んで躱す。

 

原初の闇の視線が走る。そこに宿る敵意は、殺意は彼ら全員に平等に向けられている。

 

放たれた銃弾が瞳を抉る。血潮の代わりに噴き出すの瘴気。さらに濃く、そして強く瘴気は彼らを蝕む。

 

ブチリと何かが千切れる音をレフィーヤは聞く。それが何のなのかは分からない、けれど瞳から何かが流れて、瘴気に因って泡立つのを感じる。

 

死が近い、死が近い。移る色が変わる。まるで死神が手招いている様に見えて。

 

「邪魔ッ!!」

 

その幻を砕き吹き飛ばす術を放ち現実を瞳に移す。迫る剛腕を歯を食いしばり血を流しながら術を行使し叩きつけて逸らす。あぁ、また闇から瘴気が噴き出した。

 

けれど、だからどうした。

 

氷の柱を作り出す。原初の闇を真下から押し上げる。それは僅かに闇の巨体を浮かせ、しかし耐えきれずへし折れる。その柱を駆け上がるのは、ゴザルニ。

 

その姿を視界に映した瞬間、闇は其の翼を羽ばたかせ天へと逃れる様に動く。けれど、それは隙だった。翼に殺到する弾丸と印術。関節は穿たれ、走る線は翼膜を吹き飛ばす。

 

片翼が機能を失う。故に悲鳴の如き音を響かせながら墜落してくる原初の闇。其のままでは押しつぶされてしまう。けれど、ゴザルニは止まることなく疾走し、力強く柱を蹴り跳躍。

 

「―――――――ハァッ」

 

走る剣閃。それは原初の闇の頭部を切り裂く。傷から瘴気を噴き出しながらその身を大きく震わせて地に落ちる原初の闇。力無く落ちてくるゴザルニを、レフィーヤは滑る様に近づき彼女にレビテーションを掛けてから受け止める。それでも、速度を殺しきることができずに少し足を痛めたが、それは其れ。動く事に支障はない。

 

視線を原初の闇から逸らす事無くゴザルニを降ろすレフィーヤは、それでもちゃんと受け止められた事にふっと息を吐き。そして気が付く。今まで在った命を蝕まれる感覚が無い事に。

 

瘴気が消えたのか、それとも効果を失ったのか。或いはと、考えて。最悪と言っていい予想が当たった。

 

瘴気が、原初の闇の元へと集っている。その体から噴き出るものでさえも集め、取り込みその口から黒い炎を零れ落としている。

 

何であるのかを考えるまでも無く、其れは必殺のもの。避ける事はおろか防ぐ事も出来ないだろう。放たれた瞬間、彼らは終わる。

 

けれど、それでもレフィーヤは笑う。終わりが目前で在ろうとも笑う。なぜならばそう、すでに勝利という終わりが目の前に在るのだから。

 

「原初の闇。語られた通り世界を、星を滅ぼしかけたのも頷ける強大さだ」

 

声が響く。ローウェンの声が。彼は、見たことも無い程ボロボロでありながら、何時もの調子で何時もと違う銃に弾を込めた。

 

「はっきり言って想像以上だったよ」

 

込められた弾は、かつて放たれた至高の魔弾……ではない。

 

「だが、それでも」

 

それは気まぐれから作り出されたもの。なんでもない、印石というものと同じ原理で銃弾にも出来るのではないかと実験ついでに、始原の印術を刻んだもの。しかし、それは余りに威力が高すぎて銃が吹き飛ぶという結果を残した。故に、そうそう使われる事は無いだろうと口にされた魔弾。

 

 

それが今。印を輝かせ、銃を吹き飛ばしながら放たれた。

 

「勝つのは俺達だ」

 

放たれたその一撃は、零れる黒炎を貫き頭部へ叩き込まれ。

 

 

消し飛ばした。

 

 

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