光が見えた。遠く、遠く、遥か彼方に。
手を伸ばす。届きはしない。手を伸ばす。 届きはしない。
多くのモノが、光に向かって行く。けれど、届かない。
唯一人、此処には唯一人しかない。
あぁ、待って。待って下さい。置いてかないで、置いてかないで。
光は更に彼方を目指す。遠ざかる、遠ざかっていく。
待って、待って。あぁ、置いてかないで。
私、私は貴女と。いえ、いいえ違う。わたし、わたしはあなたを。
あなたを許しはしないッ!!
『さぁ、目覚めの時間ですよレフィーヤ』
「――――――――――なにあの夢」
最悪の目覚めだった。
どんな夢だったのかレフィーヤは憶えていない。いないが、其れは正しく悪夢であった。なにか、そう何か大切な物を貶める様な、そんな悪夢だった気がして。あぁ、それ処では無いと思い知る。
「…おぁあああっっ」
頭痛に吐き気。其れ即ち、二日酔いの地獄である。
「昨日言いに行くの忘れてたからマガンの所に行って報告しに行こうと思う。ギルド設立したぜってな。と言う訳で行くぞぉ!!」
「おぉ!!」
「お弁当必要かしら?」
「逆に訊くが如何して必要だと思ったし」
「え?」
「え?」
「……あ、ダーナさんが走ってる」
コントの様な会話を、しかしレフィーヤは一切聞いていなかった。考え事をしているからだ。それは、あの悪夢の事で。
「ん? 如何したのかなそんな顔を顰めて?」
「いえ、この薬何でできてるんだろうなと思っただけです」
では無かった。手に持つのは今まさに話しかけてきたハインリヒから譲られたモノ。二日酔いに聞く薬だと。余りにも辛かったレフィーヤは手渡された物を迷う事無く飲み干す…前にスッと不快感が失われた。余りに唐突で声も出ず、確認する様に薬を薬を見れば四分の一も減っていない薬が目に入った。
効きすぎて如何いうものなのか気に成ってしまうやつである。
「あぁ、其れに関しては深く考えない方が良いよ」
「え、なんでですか?」
何か、こう。とても人に言えない様な何かが入っているとか?と、そう思ってしまったレフィーヤに、ハインリヒは苦笑いしながら。
「いや、単純に。ブラニー族秘伝の製法で創った物だから。教えても分からないって言うのが教えない理由だよ。まぁ、君がメディックだったならそれなりに分かるだろうけどね」
詰り、どの様なものなのかを理解するには専門的な知識が必要になるという事だろう。それならば確かに、考えるだけ無駄だろう。
「そう言う事なら」
「うん。あ、でももしだけどメディック……とは言わずに薬関係に興味が出て深く知りたいと言うなら何時でも聞きに来ると言いよ。歓迎するから」
優し気に微笑んでハインリヒは言う。とても、いい人だとレフィーヤは思う。
「何をしているか二人とも、そんなにゆっくり歩いていると日が暮れてしまうぞよ?!」
「何ですかその喋り方?」
「あら日が暮れちゃうの? やっぱりお弁当必要かしら」
「いやいや、本気でそうなるとはローウェンも思ってないから。だから宿に戻ろうとしないでくれるかな?」
またコントを始める三人。かと思えば直ぐにローウェンが手を鳴らす。
「此の侭続けると本当に日が暮れそうだからさっさと行くぞ」
「はい」
「了解」
「分かったわ」
皆が頷くと、彼も満足げに頷いて歩きだす。
「あ、結局。アイズさんを見つめ隊と黄昏の時に天より堕ちる熾天使の嘲笑と、どっちをギルド名にする積りなんだ?」
「ゴベェッ!?」
「ぐあぁあああああああああああああああああああああああ?!」
「ちょっと二人とも如何したのよ?!」
心配する様な言葉が聞えたがそれ処では無い。痛いとかそういう領域を飛び越えて致命傷を心に叩きこむ一撃が二人を襲う。だからお願い。座天使の方が良かったかとか言わないで下さいと、レフィーヤは今にも吐血しそうなハインリヒと楽し気に笑うローウェンを見ながら思った。あと性格悪いとも。
ギルド名を普通の物にしてくれと頼み込みながら、歩き。程無くして目的の場所に到着する。其処を見て、はてとレフィーヤは首を傾げた。
「此処って、確かマガンさんの家ですよね。あの…街の代表者の。なんでここに?」
「そう言う時点で話聞いて無かったって分かるなぁ。ちゃんと、報告、って言うのは流石に硬いか? まぁ、そんな感じの事をしに行くってちゃんと言ったんだけどなぁ」
「うッ……すみません」
「良いよ気にしてないから」
「しかしここは相変わらず景色が良いよね」
確かにと、レフィーヤは頷いた。ハインリヒの呟きの通りだと。此処、マガンの家はとても景色が良い。特に、世界樹が良く見えるのが良い。気球艇乗り場よりもよく見えるのでは無いだろうか? と、ローウェンが何かに気が付いた。
「あれ、ダーナ社長が居る」
「ん? あ、本当だ。如何したのだろうか?」
「マガンと話してる……と言うには一方的な気がするが。取りあえずマガンに言う序でに如何したのか聞くか」
ちょっと待っててくれと言い、ローウェンは話し合う二人に近づいて行く。
「ダーナ社長……若しかしてダーナ直売店の?」
「そうだよ。因みに、エリザベスさんの父親だからね」
「へぇー……へぇ?!」
思わずダーナと言う男性を二度見する。そうなるよねとハインリヒも頷いた。しかしそれ処ではない。彼の言ったエリザベスとは、ダーナ直売店を紹介された際に知り合った女性、いや少女と言うべき人だ。容姿や恰好、立ち振る舞いなど見るからにお嬢様と言う人なのだが。もう一度、ダーナを見る。
はっきり言って。
「相変わらず似てないわよねダーナ社長とエリザベスちゃんって」
「いっ?!」
言っちゃったよこの人と、コバックを見る。けれどその言った本人は何故驚いているのかと首を傾げている。
「何で驚いてるのよ?」
「いや、似てないって言っちゃったので」
「母親に似てるなら父親の面影が薄いのも仕方が無いじゃないの?」
「あ、そういう」
なら最初からそう言えばよかったのではと、そう思っていると。では頼むんだなと口にして横をすり抜ける様に去って行くダーナと、三人に向かってローウェンが歩いて来るのが見えた。
「如何したんですか?」
「ん? あぁ、何でも第二迷宮ある採掘場に怪物が出たそうでな。其れの討伐ミッションに関して話し合いしてたんだよ」
「あら……其処にローウェンが混ざって話をしてたって事は」
コバックの言葉に、ローウェンは楽し気に笑みを浮かべて言った。
「ミッションを受けてきた。と言う訳で早急に準備をして出るぞ。ギルド・フロンティアの初めての冒険は怪物退治だ」
「ギルド名は普通だ…良かったッ!!」
「ありがとう…使わないでくれて本当にありがとう!!」
「まぁ、其れに関してはネタとして忘れた頃にこねくり回すけどな」
二人は膝から崩れ落ちた。