世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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それはずっと昔の話。
世界にその穴が生まれた直後の事だ。
その災厄は現れた。

多くの命が失われた。
余りに傷つき過ぎていた僕達には抗う事が出来なかった。

けれど、それでも僕たちは諦めなかった。
だからそれを封じることができた。

その事実を、皆は忘れてしまったけれど。

だって彼らは……神様に成ってしまったのだから。



星海の来訪者と神々の願い
第百五十一話


天高く聳えし塔、名をバベルとするそれを象徴とする街、オラリオ。

 

世界で唯一、ダンジョンと呼ばれるものが存在するそこに、ギルド・フロンティア一行は居た。目的は当然、ダンジョン。もっとも細かいところまで行くと色々と在るのだが、やはり大きな目的は其れだろう。

 

遥か昔から、多くの者たちが挑み。それでも未だ踏破したものは存在しないそこへと至らんとする彼らは今。

 

「……あぁ」

 

ぐったりしていた。それもう、見るからに体調不良だと分かるほどに、ベンチにうなだれていた。

 

「レフィーヤぁー」

「なんですかぁ」

「君、よくこんな場所で暮らせてたね」

「自分でもびっくりですよ」

 

空気が淀んでいる。悍ましい気配が精神を蝕む。前に、事故の様な形で戻ってきた時も感じたが、今はもっと酷い。そう言ったものをちゃんと感じ取れるほどに成長したと喜べばいいのか、感じ取ってしまう事を嘆けば良いのか。まぁ、どちらでもいい事だ。気分が悪すぎて、其れ処ではないし。思う事と言えばやっぱりオラリオの住人って凄いな程度のものだ。勿論、いい意味では無いが。

 

「そういえば良いのでござるかぁ?」

「何がですか?」

 

ぐったりしながらそう言葉にすると、同じくぐったりとしたゴザルニは言う。

 

「えっと、えっと、ろ、ロキ? ファミリアでござったか。そこに向かわなくていいのでござるか?」

「あ、あぁー…そうですねぇ。行きたいは行きたいですけどぉ」

「けど何でござるか?」

「今の状態で行きたくないですねぇー」

 

弱り切っている状態では行きたくない。そんな姿をロキに、二人目の母に見せたくはない。出来るだけ早くという気持ちはあるが、そちらの方が強いのだ。心配させたくないと。

 

「複雑でござるなぁ」

「ゴザルニさんだって分かるでしょう?」

「拙者の親の事を考えるでござる」

「……あぁ、そうでしたね」

「因みに同じ状況だと味付けのされていない焼きすぎな肉を突っ込まれるだけでござる」

「どうしてそうなる」

 

余りの発言に口調が可笑しくなるレフィーヤ。そして通りすがりの神が見事な二度見を炸裂させていた。嘘であるかどうかが分かるからこその衝撃と言った処か。

 

「肉を食べれば治るとでも思ってるんですか?」

「知らないでござる。ただ言える事は腹痛の時に詰め込まれると死ぬほど辛いと言う事でござるな」

「その、よく食べる事が嫌いになりませんでしたね」

「だからこそと言った感じでござるな」

 

そんなものかと思いながら、脱力。やはり不快感がやばい。このまま死んでしまうのではと思う程だ。気分転換に何かしたいが、これと言ってやる事がない。今の状態で辛い物を食べても戻してしまいそうだし。

 

「……ローウェンさんはまだ戻ってこないんですかぁ?」

「来ないねぇ」

「まぁ、鍛冶屋に行くだけなら兎も角、色々と話をしなければいけないのでござるから拙者達よりも時間が掛かるのは当然でござる」

「そうなんですけど……あぁ、駄目だこの街から去ってしまいたい。けど」

「けど」

「ダンジョンにも行きたいです!!」

「正直でござるなぁ」

「隠す事じゃないですからね」

 

挑みたいと思うのは冒険者として普通の事なのだから。

 

「そういえばさっきからコバックさんなにも喋ってませんけど?」

「寝てるぞ」

「うわぁ、すごぉい」

 

よく寝られるなと、立ったままで。コバックだからと言えばそれまでなのだが。

 

「あ」

 

と、遠目に歩きながら近づいてくる人物を見る。それは勿論、ローウェンだ。彼はいつもと変わらない様子で、けれどよく見れば落ち込んでいるようだ。また駄目だったようだ。

 

「お帰りなさい。駄目でしたか」

「駄目だったなぁ」

「そろそろ数的に拙いんじゃないの?」

「そうなんだが、だからと言って質を捨てるわけにもいかんだろう。下手な物を使うくらいなら弓矢の方が何倍もましだ」

「…弓矢使えるんでしたっけ?」

「ガンナー嗜みだ」

 

ガンナーとは一体。ちょっと良く分からなくなったレフィーヤは軽く頭を振ってから、重要な事を問いかける。

 

「ダンジョンの方はどうしますか?」

「そうだな。少しどころでなく空気が悪すぎるし、本格的と言うのは止めといた方が良いだろうな」

「後回しですか。まぁ妥当と言えますかね。休みが休みになりそうにないですし」

「あぁ」

「けど、だからと言ってダンジョンに向かわないなんて事は無いですよね?」

「おいおい。お前は何を言ってるんだ? そんなの当然、行くに決まってるだろう。まぁ軽く確認程度だけどな」

「そうですか。其れで何時?」

「そうだな……問題が無ければこれからなんだが」

 

さてとローウェンは笑い、見る。そして、これからという一言を聞いてカチリと切り替わり、顔色も変わる。先ほどまで死にそうだった人物と同じとは思えない笑みが浮かぶ。だらけていたゴザルニも、ハインリヒもそうで。眠っていたコバックも何時の間にか起きていた。

 

さてと、軽く腕を動かしながら確認する。

 

「じゃあこれからですね」

「あぁ。それと、そうだな色々と知っているだろう…あぁ、サポーターだっけ? も、雇った方が良いか」

「おや、私でも案内できたかもしれませんよ?」

「数年前の情報を頼りにか?」

「おっとこれは失礼。余り意味がなさそうですね」

 

情報の鮮度はとても大事だ。そういう意味ではサポーターというのはとても良い。知って居る事は多いだろう。勿論、上層と言われる場所に関してはだろうが。流石に、下層や深層の情報を求めるのは酷というものだから。

 

「で、どこで探しますか?」

「バベルの前」

「あそこですか、確かにあそこが良いでしょうね」

「だろう? さて、という訳で行くが…大丈夫か?」

 

確認するように言葉にするローウェンに向かって皆、頷いて見せる。不快感がある事に変わりないが、その程度如何にかするのが冒険者だ。休むと言う事が阻害されても、冒険そのものに支障など全くない。

 

時折感じる視線を掻い潜りながら彼の言うサポーターを探しに彼らはバベルに向かって歩き出す。

 

 

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