世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百五十二話

バベルの前。其処はバベルの内にある店舗に用が在る者や、ダンジョンへと挑む冒険者たち。或いはただの通行人など、多くの人々が行き交っていた。

 

その様子を横目で見てからレフィーヤがローウェンが見つけた、というか捕獲したサポーターを見る。

 

犬の様な耳の生えたとても小さな少女。特徴というか目を奪われるのは巨大な鞄だろう。よく背負えるなと思いながら、もしもそれに荷物を積めてなお動けるならこれ以上は無い、と取り合えず話を聞こうと無駄の一切を廃した音の無い疾走に因って一瞬にして連れてきたのだ。

 

まぁ、其の所為でとても怯えているのだが。

 

「あ、あの?」

「取り合えず、名前を聞いても良いか?」

「ひッ!? あ、え、リ、リリルカ…アーデです」

「そこまで怯える必要は無いぞ。これと言って何か害するような事をする積りは無いから…今は」

「今?! い、今はって言いませんでしたか?!」

「おっと口が滑った。なに、気にすることは無い」

「気にしますよ!!」

 

この世の終わりの様に顔を青くする少女、リリルカ。まぁあんな言い方されたら大抵の人はそうなるだろうなとは思う。因みに、レフィーヤはその大抵から外れる。

 

「まぁ、さっきのは冗談としてだ。単純に君を雇いたいだけだ」

「や、雇いたい? リリをですか?」

「そう、いやぁ見た瞬間これだって思ったね。因みに報酬はちゃんと用意するから大丈夫だぞ」

「え、あの、え?」

「まぁ困惑するのは当然ですけど、言ってることは本当ですよ」

「は、はぁ」

「だから気にせず思う様にすればいいんですよパルゥムのリリルカさん」

 

そう言葉にした瞬間、リリルカの表情が酷く引きつった。何を言って居るのかと言おうとしたのか口を開き、レフィーヤ達に囲まれている事に気が付いた表情が死んだ。

 

「あぁ、そうですか。リリはここで終わるのですね」

「勝手に諦めるのは良いが取り合えず雇われるかどうかを決めてほしいんだが?」

「煮るなり焼くなり好きにしてください」

「ちょっとあれな状態だが……まぁ、良いだろう。今回はただの確認だし」

 

そう言いながら、バベルに向かって。その下に在るダンジョンに向かって歩き出す。それに付いていくレフィーヤ達。リリルカの表情は変わらず死んでいるがまぁ気にすることでもない。油断や慢心という訳では無いが、さっき言ったように確認だ。今の状態なら嘘など言わないだろうし寧ろ好都合かもしれない。

 

「あぁ、そうだ名乗り忘れてたな。俺はローウェンだ。人外呼ばわりされているかわいそうな男だよ」

「レフィーヤ・ウィリディスです。ローウェンさんの事を人外呼ばわりしてる女です」

「ゴザルニでござる。そしてレフィーヤ殿と同じくでござる」

「コバックよ。レフィーヤと同じく人外呼びしてる男だよ」

「ハインリヒだよ。さらに同じく」

「あれ、俺いじめられてない?」

 

なんて、ふざけながら強まる不快感を踏みつぶす。この程度で止められると思うなよと宣言するように、変わらず五つの笑みと無表情一つは、ダンジョンへと足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後、彼らは全力でダンジョンから逃走した。

 

「ちょ、ちょちょ、ちょぉぉおおおおお?!」

 

コバックに担がれたリリルカが叫び声をあげている。けれどそれを気にしている余裕がなかった。

 

「やばいやばいやばいやばいッ!!」

「あれは無いでござる。流石に無謀でござる」

「想像以上では在ったな。まじで」

「洒落に成らないのは確かね」

「私に、あれの中に入ってたんですか?! うわぁ、うわぁぁあ――――――ッ!!」

 

阿鼻叫喚。皆が皆、冷や汗を流しながらオラリオを駆け抜ける。理解してしまったから止まらず走る。

 

ダンジョンが何であるのか。

オラリオが何の為に在るのか。

 

そして、それが前にレフィーヤが思った事以上で在った。万全だったならばいい、其れならばまだ対処できるだろう。伊達に滅びそのものを乗り越えていない。けれど今は駄目だ。万全とは言ってはいけない。そんな状況で在れと相対する可能性など在ってはならない。

 

だからこそ彼らはオラリオから出来る限り離れるために走っていた。

 

人たちの意識から逃れる様に走りながら、顔色が優れない、処でなく死相が浮かびそうな程のレフィーヤは思う。それは今まで自分が、自分たちがどれだけ馬鹿げた事をしていたのかと。出来る事ならファミリアの人たちにも伝えたい。

 

けれど駄目だ。主神であるロキならば良いだろう。嘘で在るかどうかを分かる彼女ならば問題ない。だが、冒険者たちは駄目だ、無理だ。ロキが言っても、如何こうなるとは思えない。

 

神がなんと言おうと、団長がどれだけ優秀でも、団員がどれだけ素晴らしくても、ファミリアが組織で在るからこそオラリオからそう簡単には動けない。オラリオ最強とまで言われるロキファミリアであるからこそ、事実だとしても逃げられない。

 

なんと言う事かと歯を食いしばりながら、それでも走る。ここに居ては駄目だという冒険者としての経験に従って。

 

遠く、遠くへと逃げていく。

 

オラリオから。

ダンジョンから。

 

人々に、神々に、命ある者たちに。

 

 

 

 

ダンジョンと呼ばれている……モンスターから逃れる為に。

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