「様? まぁ良いけど何かな?」
「少し、教えてほしい事が在りまして」
「教えて?……あぁ、いやそうか。うん、構わないよ」
「なんでござる? 何かを教えるなら拙者も手伝った方が良いでござるか? こう、モツ抜きの仕方など有用でござるよ?」
「モッ?!」
「ゴザルニ、黙っててくれないと食事抜くよ?」
「なんと、では黙ってるでござる」
「全く……っと、じゃあ取り合えず基本的な部分から行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
彼等が歩き進むのは森の中。ふっと息を吐き、何気なく見渡しながらレフィーヤは呟く。
「やっぱり森っていいですよね」
「如何したいきなり」
「いえふと思ったんですよね。こう、すっきりするというか。気持ちが落ち着くというか」
「モンスターを吊るし上げながら言う事じゃないよなそれ」
確かにと言う他ない。森がいくら良くてもモンスターから流れる血の匂いの所為で台無しだ。
「まぁ、それは其れとして前から思ってたんですけど」
「何をだ?」
「ややこしくないですか?」
と、モンスターから素材に成るものを剥ぎ取りつつ言葉にする。
「ほら、モンスターと言っても種類が在るじゃないですか」
「そうだな」
「そういえばそうね。魔石だとかいうのが在るのもモンスターならそれもモンスターだものね」
「正確にはただの動物なんだけどな」
「動物である事は認めますけどただのと言うのは抵抗が在りますね」
言いながら見るのは吊るし上げた巨大なサソリ。少しどころでなく、見るからにただの動物ではない。というかサソリって動物だっけかと疑問に思いながらまぁ、良いかと首を振る。
「そもそも、モンスターをぶちのめして魔石を貪るような生き物をただの動物と言っていいのか分からないんですけど。それになんとも言いますか、初めて見た時にこう言葉にしにくい感情がですね」
オラリオのダンジョン以外のモンスターは脆弱である。その理由とは何か。モンスターがモンスターみたいな生き物たちの餌にされていたからさ。なんて、知ったときは愕然としたものだ。主に、凄い存在感を放つ生き物たちに今まで気が付かなかった事に。
「でも考えれば普通の事ですよね。モンスターはほぼ際限なく湧いて出ますし」
「その魔石とかいうのが餌代わりに成るならそうだろうな。まぁ、そうだったから襲ってるんだろうが」
「弱肉強食ね……でも魔石の方のモンスターは倒すと灰みたいなのになっちゃうし。この場合、弱石強食なのかしら?」
「それはとてつもなくどうでもいい事だな」
「そしてとても間違ってる気がしますね」
「そうかしら?」
可笑しいわねと首を傾げるコバックを横目にもう素材に成るような部位は無いかと確認してからモンスターじみた生き物の死骸を降ろす。
「はぁ……っと、目的のものが群生してる場所まであとどれ位ですか」
「もうすぐだな」
「なら行きましょうか」
そう言ってから、匂いに誘われて他のモンスターなどが近寄ってくる前に先に進む。と、匂いと言えばと先ほど、森に入ってから暫くして思った事を口にする。
「それにしても随分血の匂いが濃いですね」
「確かにな。動物同士、モンスター同士がっていう割には少し濃すぎる気もするな」
「誰か居るって事かしらね。でもここまで匂いがばら撒かれる様な事をする人っているのかしら?」
「まぁ、そんな事してもモンスターが集まってくるだけですしね」
度を越えれば逆に寄って来なくなるが、魔石の方のモンスターはそんな事お構いなしで突っ込んでくるから威嚇としての意味は無い。外で無ければ間違いなく自殺の様なものだとだと言われる行為だ。
さて、それを行っている人物が居るとしたら一体何の目的が在ってなのか。そうでなくモンスターだった場合は、そこまで出来る程協力出ると言う事なのだろう。何方にせよ、いつも通り油断なく進む三人。
「しかし、濃い血の匂いか」
「どうかしましたか?」
「いや、少しな。若しかしたら知り合いかも知れないと思っただけだ」
「こんな事する人知ってるんですか?」
「戦闘方法的にどうしてもこうなる奴は知ってる」
「そうなんですか」
「まぁ、教えたらそうなったっていうのが正しいんだが」
「ローウェンさんが元凶ですか」
「違う、俺が教えたのは弱点の見抜き方だ。そこにゴザルニが効率よく攻撃する方法を教えたからな。だから俺だけでなくゴザルニも原因だ」
「自分の所為では無いとは言わないんですね」
「まぁ、偽るような事でもないしな」
そうですかと言いながら、何かをローウェンとゴザルニが技術を教える様な相手がいただろうかと考えて、あっと声を零す。そういえば居たと、そして自分も自分の足で冒険をしたいと分かれたあの少年が。
「え、ちょっと待ってください。確かに色々と教えてるなぁとは思ってましたけど。え? そんなあれな感じに成っちゃったんですか彼?」
「さっき言ったように極々基本的な事しか教えてないからな? 俺は」
「いやまぁ、そうですけど」
見抜き方にしろ、攻撃の仕方にしろ彼の言った通り基本だ。レフィーヤだって出来る。だが、こんな血の匂いをぶちまける様な事にはならない。ならない筈なのだが。
「どうしてそんな事に成ったのか」
「俺にも分からん」
でも、仮にそうなってたとしてもここに居るとは限らないし。なんて考えながら進み。
「あら?」
「ん?」
「これは」
そう遠くない場所から響き届く音。それはよく聞く音。言って知ませんば戦闘音と呼ばれるものだ。詰まり、誰かが戦っていると言う事。
「……どうしますか?」
「如何するも何も行くしかないぞ。音のする方が生えてる場所の方向だし」
「そうですか」
「じゃあいくぞー」
まぁ、仕方ないと自分に言い聞かせながら進む。徐々に大きくなる音と、より濃くなる血の香り。そして、開けた場所に彼らが辿り着くと同時に瞳に映り込んだのは。
笑顔を浮かべ、狒々の背に腕を突き刺し、噴き出る血を全身に浴びながら骨を引き抜く。
ベル・クラネルの姿だった。