崩れ落ちる狒々と笑い声を響かせるベル。それを見て、ローウェンはふむと呟きながら頷き。
「改めて見ると、あれだな」
「なんです?」
「凄いやらかした気がする」
「でしょうね」
なんと言う事か、あんなに純粋だったベル・クラネル少年は今や立派なキチガイへと進化してしまった。いや、ここはあえて変態と言うべきか。あの時の冒険の話に瞳を輝かせていた白い兎さんはもういないのだ。居るのは血に濡れた冒険者だけだ。
「はぁ………あれ? ローウェンさん?! レフィーヤさんにコバックさんまで?! こんな所で奇遇ですね!」
と、嬉し気に手を振りながら駆け寄ってくるベル。満面の笑みを浮かべとても嬉しそうなのは見れば分かる事。なのだが、手にした抜きたての骨と全身から滴り落ちる返り血の所為でなんか色々と台無しである。
まぁ、その程度で怯む様なら冒険者などやっていないが。
「あぁ、久しぶりだなベル。数か月ぶりか?」
「ハインリヒさんだったら正確な時間を憶えてそうですよね」
「ハインリヒちゃんならそうね。まぁそれは良いとしても、そのあれね。随分と立派になったわね」
冒険者的な意味で、とコバックは言う。本当に立派に成ったものだ。見るに、事切れている狒々はF.O.Eと言えるほどの強さを保有しているだろう。それを一人で倒すとは、祖父が見たら間違いなく泣く事だろう。いい意味でとは言わないが。
もっともベルは言葉をそのまま受け取ったのか恥ずかしそうに頬を掻く。血濡れな所為で少々あれな音がするが気にしてはいけない。
「それにしても本当に奇遇ですよね。ベル君は何でここに?」
「あ、其れはですね。少し護衛を頼まれたので、それで」
「護衛ですか。それでその護衛対象は?」
「少し隠れてもらってます」
「成程、今出てきたあいつがそうと言う事か」
そう言葉にするローウェン。釣られるようにレフィーヤもまた音のする方を見て、そこに居た人物を。いや、正しくは神物をみて顔を顰めた。
「そうですか。貴方でしたか」
「そう露骨に嫌そうな顔をされると俺でも傷つくんだけどなぁ?」
「そりゃあもう、嫌ですからね」
「嘘でない事がとても傷つくな! ベル君、慰めておくれ」
「分かりました! 血濡れでよければ!!」
「あ、ごめんやっぱなしで」
なんて茶番を挟みつつ、レフィーヤは深く、そして重くため息を吐いてから。
「まぁ、嫌は嫌ですけどとやかく言う積りは在りませんから」
「うーん、嫌という部分が嘘であってほしかったけど、まぁいいか」
そう言いながら彼は、神ヘルメスは苦笑を浮かべた。
思わぬ処で思わぬ人物たちと再会した彼らは、さっさと目的のものを集めて気球艇へと戻った。
そして、今。
「良い、実に良い!! あぁ、風が本当に気持ちいい。噂程度には聞いていたがまさか本当に気球が完成していたとは驚きだ!!」
身を乗り出す勢いで燥ぐヘルメス。戻る道中付いてきていたヘルメスは気球艇を見るや否やその瞳を輝かせて乗せてくれと頼んできたのだ。それに対してローウェンは一言口にしたのだ。
「金払うなら良いぞ」
そして一瞬も迷うことなく頷いたヘルメスはこうして気球艇の上に居るのだ。ベルも同じようにだ。まぁ彼に関しては特別料金で乗せてあげているのだが。無料では無いというのが重要だ。
其の内落ちるのではと思いながら、さてと視線を横に向けて。今現在、ハインリヒに見守られながら操縦しているリリルカを見る。
「それで、どうですか空を飛ぶ気分は?」
「……まだ、なんとも」
「そうですか」
その割には真剣だなと、思いつつも言葉にはしない。だって操縦はとても集中しなければいけないものだから。
「でも、そうですね。今までとは比べようも無い位……気分は良いです」
「…そうですか」
「はい、今までが悪すぎたっていうのもあるんだと思いますけど」
と、可笑し気に笑う。今まで見せなかった笑顔を。
「…レフィーヤ様」
「なんですか?」
「リリは変われるでしょうか?」
「貴女次第でしょうね」
「そうですか」
視線を前から逸らす事無く、時々ハインリヒに助けられながら空を進む気球艇。暫く、黙っていたリリルカが言葉を口にする。
「リリの事を雇いたいって言って居ましたよね」
「えぇ」
「その話を改めてしてもらっていいですか?」
「改めてですか? 今のまま頷くだけで即採用でもいいと思いますけど」
「リリは、ちゃんと話を聞いて、ちゃんと自分で選びたいって思ったんです・・・・・駄目でしょうか?」
「成程、それは良い事ですね。流されて頷くよりはずっと」
自分で選ぶ、それが一つの自由で在るとは口にしない。それが、そうであると認識した時点で初めて自由となるのだから。自分自身で気が付くべきことなのだ。
だが、それはそれとしてだ。
「もし、ですけど。そうなった時はよろしくお願いします」
「えぇ、こちらこそ」
なんとも気分が良いものだと、レフィーヤは思うのだった。
そして気球艇の一角にて。
「あ、そうだゴザルニさん!!」
「ぬん? どうしたでござるかベル殿」
「僕、遂に背骨が綺麗に引っこ抜けるようになったんですよ!!」
「なんと、真でござるか!?」
「はい!……でも、まだゴザルニさんがやって居たように心臓までは抜きとれなくて」
「なに、気にする事は無いでござる。何事も精進在るのみでござるが、出来るようになったことは素直に喜ぶべきでござる。そうでなければ長続きしないでござるしな」
「そう、ですか」
「に、ござる。だから、拙者が褒めるでござるよ。良く出来るようになったでござるな」
「――――――ッ!! はい、はい!! 頑張りました!!」
「まことによいでござるな。でも先ほど言ったように精進在るのみ。足を止めればそれまででござるよ」
「分かりました!!」
「うんうん。素直でとても良いでござるな!! はっはっはっはっは!!」
なんて高笑いが響く。
「成程、お前か」
「ござ?」
「帰ったら吊るしましょう」
「ござ?!」