断末魔が響き渡る。その巨体に見合ったと言える音と振動を撒き散らしながらそれは崩れ落ちる。しっかりと事切れているかを確認して、レフィーヤはふっと息を吐き、視線をローウェンへと向けて言葉にする。
「確か、探しに訪れた兵士が襲われたのは熊だって話でしたよね」
「だな」
「これ熊ですよね」
「そうだな」
横たわる息をしていない巨大な熊。これに捜索に訪れた兵士を襲ったなのかも知れない。断言は絶対に出来ないが。それがなぜかと言えば。
「……で、この熊と同種これで何体目でしたっけ?」
「八体だな」
「多いですよね」
「そうだな。だがそれ以上に殺意がやばい」
そう、殺意だ。敵意とかでなく殺意が森に満ちている。本当にただ殺すために襲い掛かってきている。普通、とは言えない。
「……なにか在ったんですかね?」
「そうだな、こっち側が何かしたのか、あっちの方で何かあったのか」
「あったと言えばそうですね」
主に、変態の所為で大量に木材が必要に成ったとか。
「もしかしてその所為で生息域とぶつかったとか?」
「だとしても殺すために襲い掛かってくるのは少しおかしくないかしら?」
「あぁ、そうですね」
今まで被害は愚か目撃情報まで殆どなかったのがこの熊だ。相当奥にテリトリーが在るのだろう。そしてテリトリーを犯されたからと言ってそこから出てきて森の浅い場所で殺しまわる意味が分からない。というか無い。
確かに、最近結構な量の木を伐採しているが。それでも気にしながらだ。無秩序に伐採を行っても結果的に悪い方向にしか行かないことを人はしっかりと理解しているのだから。それを無視して色々と言ってきそうな神も今は酒浸りである。
「全く関係ない可能性もあるよね」
「生存競争に負けてテリトリーから追い出されたとかでござるか」
「いやまぁ、だとしても殺し目的で熊が人を襲うのは可笑しいか」
「で、ござるかぁ」
では結局、熊たちの殺意が高い理由は何なのか。断言できることは無いが。
「……煽ってるやつがいるな」
「やっぱりですか」
「それ以外ないだろう。あんな意味の分からない殺意の抱き方は」
「そうですけど」
面倒な事に成ったと思うレフィーヤ。仮に、もしその煽っているのが人間であったなら、其れこそ国関係の問題になりかねない。
「まぁ、まだ分からんけどな。単純に虫の居所が悪くて八つ当たりで襲ってるのかもしれないし」
「…そうだったとして、その場合どうしたら依頼達成に成るんですか?」
「害に成らない程度に数を減らすしかないだろう」
「一番面倒な奴じゃないですか」
「だなぁ、栗鼠でも無ければそうそう絶滅まで殺してやるぜって気分にはならないしな」
と、言葉にしながら木々の陰から飛び出してきた熊に向かって銃弾を叩き込むローウェン。関節を撃ち抜かれ血を流す、けれど熊は殺意を押さえる事無く逆に漲らせて。
倒木を破壊して逃走を始めた。
「……逃げたな」
「逃げましたね」
「殺意振りまきながら逃げたね」
「自然では無いわね」
「と言うか自分はここだぞって叫びながら逃げてる様にしか思えないでござるな」
視線を交らわせて、そして予測を口にする。
「罠だな」
「罠ですね」
「どう考えても罠だね」
「まぁ、罠よねぇ」
「それ以外だったら逆に驚きでござる」
そう、考えるまでも無く罠なのだ。そうでなければそんなここに居ると主張する様に殺気をばら撒き乍ら逃げる訳がない。というかあんなに殺意に満ちているのに逃げるとか可笑しい。
だが、お陰で分かったことが在る。
「やっぱり煽ってるやつがいたな。それも熊に命令できるやつ」
「長というか主というかですね」
「そうでなければ、あんな行動するとは思えないしな」
そうローウェンは言って、軽く息を吐いてから。
「一番楽に終わりそうなやつで良かった」
「運が良ければその長を潰せばそれで終わりだしね」
「次の奴が同じ様な奴でもない限りはな」
「そこはもう、祈るしかないでしょ」
「まぁ、そうだな。駄目だったら駄目だったでその時はその時だな」
依頼されたら達成するだけだと言ってから、さてとローウェンは軽く見渡してから問いかける。
「じゃあ、罠に飛び込む事に賛成の人、挙手」
全員、勢いよく手を挙げた。下手な事をして逃げられたらそれこそ事だ。ならばあえて真正面から行き。そして叩き潰してしまう方が良いだろう。うまくいけば次の長、若しくは主に喧嘩を売るのは得策では無いと判断させられるだろう、という意図もある。
彼は再び視線を巡らせてからゴザルニを見て。そして彼女は頷き言葉にする。
「ではそう言う事で、でござるな」
「良し、じゃあ突っ込むぞ」
その言葉と共に彼らは、見失わない様になのか立ち止まり殺気を零す熊に向かって態と音を響かせながら駆ける。それに反応した熊は再び逃げ始める。さて、どのような罠が在るか。これこそ何処かの神が言って居た鬼が出るか蛇が出るかというやつかと思いながら、駆け抜けて。
熊が立ち止まった場所に、殺意に満ちた広場に四人は飛び込んだ。