世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百六十三話

広場に佇むのは三体。うち二体は先ほどここまで彼らを誘導した熊とそこまでの差異は無い。普通の熊よりも巨大な体と、血を思わせる赤い体毛、木々を容易に破壊する事の出来る剛腕と鋭利な爪。脅威である断言できるだろう。

 

だが、需要なのは中央に陣取るその二体よりも一回り大きな熊だ。より濃い赤の毛を持つその熊の表情は、酷く歪んでいる様に見えて。

 

だからレフィーヤは理解した。あの個体には人を襲う理由など無いのだと。

 

人の味ではなく、人殺しを憶えてしまったのだ。生きるために殺すのではなく、殺すために生きているのだ。故に、あの熊は絶対逃がしてはいけない。もしそうなればどれだけの被害が出るのか分からないから。或いは、若しかしてでしかないが、その対象が人以外に向けられる可能性もあるから。

 

だから油断も無く慢心も無く、本気で殺す事だけを考えている目の前の獣を確実に屠らなければいけない。

 

音が響く。此処に居ると主張するようにそれを響かせながら。彼等の居る場所から少しだけズレた位置から少しだけ遅れて殺気を隠す事無くゴザルニは広場に飛び込んでくる。

 

それに素早く反応する三体。二体は警戒を露にし、獣は獲物が増えたとでも言いたげに歪な笑みを浮かべ。

 

 

眼球を銃弾が貫く。

 

 

絶叫が広場を揺るがす。突然の激痛を失われる光。そして、続けざまに放たれた四発の銃弾が従僕の如く控えていた二体の内の一体に四発の弾丸が頭部と胸部に叩き込まれ、崩れ落ちる様に倒れる。

 

弾かれるように視線を向ける害獣。釣られるて残った一体も視線を向けて、氷塊に叩き潰される。

 

一瞬、そう瞬く間もなく一瞬で三体から一体に。それを理解したのか害獣は咆哮を響かせて。その剛腕でローウェンによって撃ち抜かれた熊の死体を掴み、投げつける。

 

凄まじい勢いで向かってくるそれをコバックが防ぎ流して、地面を揺らしながら迫りくるの獣を見る。想像よりも速い。

 

が、すでに駆け出しているゴザルニの方が速い。接近してる彼女を目にした獣は止まることなくその剛腕を振るう。その直前に放たれた銃弾が関節を撃ち抜く。けれどそれがどうしたと咆哮しながらそのまま振り下ろし。

 

「ござ、ると」

 

僅かに速度が落ちたからこそ、一気に加速したゴザルニはまたの下を潜り抜けて躱し、ついでの様に足に向かって刃を振るう。

 

だが、浅い。飽くまで序ででしかなく、躱すことが目的だったからこそだろう。故に、その獣は痛みを感じながらも止まることなく突き進む。背後にゴザルニが居る事など関係なしに。

 

何をする積りなのか、それを考えながらレフィーヤは印術を放つ。

しかし、止まらない。

 

銃声が響き、直後に残っていた眼球が弾ける。

なのに、止まらない

 

止まらず、止まらず、目も見えないのにそれでも真っすぐ突き進む。このままでは危ないと判断した彼らは冷静に、それでも急いでその場から動き、さて誰を狙うのかと視線を向け。

 

 

獣は、そのまま通り過ぎた。

 

 

何故通り過ぎるのか、まさか逃げる積りなのかと思い獣の向かう方を見ると。

 

「――――…あっ」

 

そこには、先程獣が投げた死体が転がっていた。そして獣は、それをまた掴み取り。一気に持ち上げて獣に向かって走っていたゴザルニへと叩きつける様に振り下ろした。

 

「ちょ!?」

 

流石に驚いたのか、これを零しながら急いで後退するゴザルニ。地面に叩きつけられたそれを見つつ、態勢を整えてから呟く。

 

「それ、武器にするでござるかぁ」

「殺意やばくない?」

 

確かにレフィーヤも頷く。絶対に殺してやるという意思が伝わってくる。死体を振り回しながら迫る獣と風圧と一緒に。

 

だが、拙い事に成ったと言えるだろう。既に相当傷ついて後少しと言った処だが、乱雑に振り回されるそれはかなり危険だ。軌道が分かり辛く避けにくいからだ。

 

ならば大印術で一気に決めるかと思い、それは駄目かと首を振る。それは森への被害が大きい問いのもあるが、単純に近すぎて巻き込まれてしまうから。地面を凍らせて転ばせるのもまた同じ。

 

向かってきている間に仕留められなかったのが悪かったかと思いながら、牽制代わりに印術を放つ。やはり、直撃しても止まることなく荒れ狂う。

 

目も見えないのに、いや見えないからこそ脅威と成っている。適当というのはとても危ないのだ。

 

さて如何するべきかと考えながら一瞬だけローウェンを見る。と、何故か彼は攻撃をしていなかった。弾が切れたのか、それとも惜しんでいるのか。何方にせよ手助けが必要だろうかと思い、彼が避ける事に集中していることに気が付いた。

 

何故なのかを考える。攻撃せずに避ける事だけをしていてはただ危険なだけなのではと思いつつ、視線を未だに死体を振り回しながらどうやってか彼らに向かってくる・・・・・血を撒き散らす獣を見る。

 

あぁそう言う事かと理解してレフィーヤもまた避ける事に集中する。

 

何の事は無い、獣は確かに暴れまわっているがもうすでに瀕死なのだ。其れこそこのまま暴れさせていればそれだけで息絶えるほどに。故に、何もしない、振り回される死体によって木々がなぎ倒されていくのを横目に、ただ躱してその時を待つ。

 

 

訳がない。

 

 

僅かに動きが鈍る。それを見逃す事無く素早くローウェンは銃弾を撃ち放ち、その鋭い爪と指を吹き飛ばす。それにより、振り回されていた死体は勢いよく獣の腕から離れ何処かへと飛んでいく。急に持っていた物が失われたことに気が付いのか、獣は一瞬だけその動きを止めて。

 

「では、首切りでござるな」

 

隙が作られると確信していた故に踏み込んだゴザルニによって、首を切り落とされた。

 

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