世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百六十五話

「だから捨てようとなんてしてないわよ」

「じゃあ何で投げようとしたんだよ」

「それはあれよ。瓦礫が凄い事に成ってたからそれをどかしてたのよ。でも、近くに置いておいたら邪魔になるじゃない? だから遠くにと思って」

「これを?」

「それを」

「……その時、これが石板だと気づいていたから?」

「其れは勿論」

「勿論?」

「……ごめんなさい気付いてなかったわ」

「だろうな」

 

短く口にするとローウェンは軽く視線をレフィーヤ達に向けてくる。それに対して頷いてみぜると、彼は口を開く。

 

「帰ったら覚悟しておけよ」

「また吊るされるのね」

「いや引きずる」

「引きずる?!」

「だって二度目だし」

 

これが大した事でないならまだしも、明らかに重要な事だったからだ。というか前も思ったが何でこんなあからさまな物を見てそうだと判断しないのか。普段は大丈夫なのにこういう時だけ節穴に成るコバックの目が不思議でならない。

 

「と、もう少しで」

「なんて言ってる間にも見えましたよ。樹海磁軸」

「やっぱりアリアドネの糸が使えないと不便だよな」

 

なんて愚痴を零すローウェン。といっても使えないの意味が違う。効果を発揮しないのではなく、貴重に成ってしまってそう気軽に使えなくなってしまったという意味だ。ラキアでは糸が売っていないし。もしもの時無くて使えないでは話にならないので、普通に戻って来たのだ。

 

なお樹海磁軸に関しては気球艇で行き来している為、利用する機会は糸以上に減るだろう。そもそもラキアにちゃんと帰れるかも分からないし。まぁ何にせよもうすぐ森の外かとレフィーヤは軽く息を吐いて。

 

奇襲を仕掛けてきたモンスターに視線を向ける事無く火球で焼き払った。

 

燃え盛り灰となっていくモンスターを一瞥し、再び息を吐く。出来れば面倒だからこれ以上出て来ないで欲しいと願いながら。

 

そしてそれが神か何かに通じたのか、気球艇まで襲われる事無く辿り着くことができた。だから心の中で神を思い浮かべながら感謝する。第二の母であるロキに。後序でに浮かんできたラキアの主神には腹パンを叩き込んでおいた。これといって意味は無いが。

 

「あ、おーい!!」

 

なんて下らないことを考えていると気球艇から声が響く。視線を向けると気球艇の上から手を振っている人影が見える。今回の為に雇ったベル・クラネルだ。リリルカの護衛を如何するかという話をした時にまだ街に居る事を思い出して話を持ち掛けた結果、快く引き受けてくれたのだ。

 

正直、討伐や探索の方をやりたがるのではと思ったが、そう言うのは自力でと断ったのだ。なんという冒険者精神か。立派に成ったものだと……何故かまたも血まみれなベルを見ながら思うレフィーヤだった。

 

「ふむ、ここも襲われたみたいだね」

 

小さく呟くハインリヒ。その言葉を聞いて視線をベルから外して辺りを見渡すと、確かになん体かの熊が見える。全部、背骨を引っこ抜かれて死んでいるが。どうやら複数同時に襲われたわけではない様だ。仮にそうだとしたら、今のベルでは気球艇を傷一つ付ける事無く守る、などと言う事は出来なかっただろうし。

 

運も良いのだなと、冒険者としては羨ましい限りな素養を持っているだろう彼を再び見て、いい加減返り血を気球艇に撒き散らすのをやめて欲しい思うのだった。

 

「ぱっと見は大丈夫だな」

「はい! 頑張りました!!」

「成程、報酬は色を付けるべきかな?」

「ローウェンがそんなことを言うとは」

「槍でも振るのかしら?」

「氷の槍でも降らしますか? 或いはメテオ」

「おい、お前らおい」

 

なんておふざけを挟みつつ、軽く確認した後に気球艇に乗り込む一行。そして目に映ったのは。

 

「……なんでリリルカさんがあんな縮こまってるんですか?」

「さぁ?」

「なんかやたらと顔が青褪めてるけど」

「そういえばそうですね」

「何時からだ?」

「何時からと言われても、そうですね……あ、背骨が綺麗に抜けたからそれを見せてからですかね」

 

それだよ、とは口にしない。思ったが口にしない。何故かって、勿論今言っても仕方ないからだ。というかそれなりに疲れているからというのもある。こういったことに関してはちゃんと丁寧に時間を掛けて教えなければいけないからだ。詰まり街に帰ってからと言う事だ。早く気球艇を洗いたいし。

 

兎も角、今はリリルカだ。

 

「あぁっと、大丈夫ですか?」

「………レフィーヤさま」

「なんですか?」

「オラリオの冒険者は酷い人ばかりでした」

「まぁ、否定はしません」

 

実際、上位だろうと酷いのは酷いのがファミリアであり冒険者だ。ロキファミリアは当然そのような事は無いが、多分。

 

「でも……ここまで頭は可笑しくなかったと思います」

「でしょうね」

 

寧ろオラリオの冒険者の大半がキチガイだったなら、と一瞬考えて。取り合えずバベルは吹き飛ぶだろうなと思うのだった。

 

「まぁ取り合えず訊きますけど、操縦は出来ますか? 無理ならハインリヒさんに言いますけど」

「いえ、大丈夫です。リリは、ちゃんと出来ます」

「ふむ」

 

未だに顔の青いリリルカを見る。

 

「本当に大丈夫ですか?」

「だから大丈夫です、変わる必要だって」

「因みにリリルカさんは自分から休むのと、簀巻きにされて吊るされた状態で休むのとどちらが良いですか? あ、吊るされてもちゃんと休めますよ。すぐに気絶できると思うので」

「やっぱり無理はいけませんよね。リリはちゃんと休めます」

 

リリは賢いと言い聞かせる様に立ち上がると休むために歩いて行く、と不意に彼女は立ち止まりそう言えばと問い掛けた。

 

「確か依頼の中に兵士の捜索も含まれていた筈でしたが」

「残念ながら見つかりませんでしたよ」

「そうでしたか」

 

短く呟くとリリルカは歩いて行った。そう兵士は見つからなかったのだ。

 

レフィーヤはしまっておいた折れ潰された装備品と思われる血濡れたそれを何気なく取り出しす。微かに見て取れるラキア王国の兵士である事を証明する印の刻まれた其れを、静かに眺めてから再びしまった。

 

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