世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百六十七話

勢いよく声を響かせながら現れたその人物を見ると、レフィーヤは目を丸くした。何でという疑問が頭に浮かび、自然とその人物の、いや神物の名前を口にした。顔を顰め乍ら。

 

「神ヘルメスじゃないですか」

「うん、さっきの驚いた顔は良かったけどすぐに顰められて凄いショックを受けてしまったな!!」

 

とてもそうには見えないのだが、とは口にしない。面倒ごとにしかならないし。それ以上に気に成る事が在ったから。

 

「オラリオに向かったんじゃないんですか?」

 

その筈だったのだがと確かめる様に思い出しながら口にすると。彼は笑みを浮かべながら答えた。

 

「あぁ、勿論向かい。そしてすぐにここに戻って来たのさ。文字通りとんぼ返りってやつだ」

「どうやってですか?」

 

そんな簡単に行き来が出来る距離では無かった筈なのだが。気球艇でも無ければ。

 

「彼女に背負われてきた!!」

 

と、良い笑顔でゴミの様な発言をするヘルメス。彼女という言葉に、視線を彼の後ろ。正確にはそこに立っている人物を見る。マントを羽織り、眼鏡をかけた……表情の死に絶えている女性を。

 

どんな事させたらあんな事に成るのか。まさか走らせてきたのか、オラリオからラキアまで。苦行どころではない。眼鏡が割れた時のハインリヒや金が無くなった時のローウェンみたいな顔をしてるじゃないかとレフィーヤは思った。

 

「……まぁ、取り合えずそれは良いとして何の用だ?」

「何となくでもわかってるんだろう?」

「そうだな。まるで待ってたかのような登場の仕方したしな」

「実際待ってたからね」

「待ってたのかよ」

「ばっちりね。二日ほど待ったよ」

 

待ちすぎでは無いだろうかそれは。神というのは暇なのだろうか、いや割と暇そうだったなとレフィーヤは思う。団員にちょっかい掛けたり酒飲んだりちょっかい掛けたりだったし。まぁ、仕事はしてるのだろうが、多分。

 

「それじゃああんまり引っ張っても仕方ないからね。要件を言うとしよう」

「早くしろよ」

「話の遅い神ですね。神から髪を奪いますよ」

「面倒くさいお人なのですね」

「それ、お前が言えたことじゃないよな」

 

全くだとエヴィーを見ながら頷く。ぶっちゃけヘルメス以上に面倒くさいというのに。と、そんな事を思って居ると音が聞こえる。何事かと視線を向けると、膝から崩れ落ちているヘルメスが見えた。どうやら先ほどの言葉の刃が結構深く心を抉ったようだ。

 

これには女性もニッコリ。とても暗く歪んだ笑みだが。

 

でも落ち込まれてると話が進まないから面倒くさい。かといって無視するとそれは其れで面倒だ。ならばどうするかと思い、レフィーヤは立ち上がり。

 

「よいしょと」

「うぉ?!」

 

流れる様にヘルメスの上に座った。とても豪華な椅子だなと思いながら。

 

「……え?」

 

女性が呆けたような声を零す。だがそんなこと知った事では無いと言わんばかりにローウェンが問いかける。

 

「座り心地は?」

「あぁー……微妙ですかね」

「良いでも悪いでも微妙ときたか」

「ぐぉおお!」

 

そうかぁ、なんて呟きながら当然の様にレフィーヤと同じように腰かけるローウェン。女性がえぇ、と声を零した気がするがヘルメスの呻き声の所為で聞こえなかった事にして、視線をエヴィーに向ける。すると彼は満面の笑みを浮かべながらサムズアップして。

 

「飛べばいいのですよね!!」

「何故そうなった」

 

本当に何故だ。余りに意味の分からないその発言と思考に思わずといった様に言葉を零す。だがすでに遅いと言った処か、エヴィーは何時の間にか距離を取っており、勢いよく走りだした。

 

あ、これは駄目だなと思いながら立ち上がる。ローウェンも同じように立ち上がって少し歩き。

 

「ほぉおおおぼぉふぁ?!」

「ぐわぁああ?!」

 

足を引っかけた。飛び込まれたら流石にヘルメスも無事では済まないと思ったからだ。話もちゃんと聞いてないし。まぁ、結局転がったエヴィーに巻き込まれたのだが。潰されるよりはましだろうと言う事で。

 

「だから許してくださいね」

「杖で突きながら言う事じゃないと思うけどなッ!!」

「あ、すみません。わざとです」

「だろうと思ったよ!!」

 

なんて言いながらも楽しそうに笑っている。そういう趣味なのだろうか。とう、なんて声を上げながら立ち上がったヘルメスを見ながらレフィーヤは思った。

 

「それじゃいい加減話をするとしよう!!」

「どうぞ」

「先ほど、リリルカ君の護衛がどうのと言っていたね」

「まぁ、確かに」

「そして今、ベル君は居ないと」

「ですね」

「そしてこんな所に丁度良く高レベル冒険者が居る」

「………は?」

 

女性がまたも呆けた様な顔をしながら言葉を零す。が、ヘルメスは止まらない。

 

「とても重要な事を教えてくれた礼だ。彼女の事は好きに使ってくれて結構だ!!……あ、そう言う意味では無いから」

「え、ちょ、え?」

「ではさらばだ!!」

「は?……はぁぁああああ?!」

「はっはっはっはっは!!」

「ちょっとってはっや!?」

 

叫び声を響かせながら走り去っていくヘルメスに向かって手を伸ばす女性。しかしとある冒険者から走り方を教わっていたらしいヘルメスの無駄のない異様に速い疾走は、すぐにその姿を見えなくした。

 

そして手を伸ばしたまま固まる女性だけが彼らの前に残されたのだった。

 

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