「色々と思うところは在りましたけど別に、嫌いだった訳じゃないんですよ」
「はい」
「なんだかんだ言っても、神様ですし。まぁ仕方ないかって思ってたんですよ」
「はい」
「今回もまた気まぐれか程度にしか思ってませんでした」
「はい」
「そりゃあ、背中に引っ付かれて何日も走らされた事には憤りを感じていましたよ」
「はい」
「でも、でもですよ」
「はい」
「これは、あんまりじゃないですかねぇ?」
思うだけでも駄目なのか、なんて気球艇の上で愚痴を垂れ流すのはアスフィ・アル・アンドロメダと名乗った女性。哀れにも神というよりはゴミで在るヘルメスに生贄として差し出された人物である。
どうして気球艇に彼女が乗っているかといえば、単純にギルド・フロンティアがリリルカの護衛を頼んだからだ、正確にはレフィーヤが、だが。されでは、何故彼女に頼むことになったのか。其れも単純。ヘルメスがどうしようもなくゴミだったというだけだ。
ヘルメスが走り去った後、暫く唖然としていたアスフィは、ハッとしてから追いかけ始めた。それを見て取り合えず追いかける事にした三人。決して面白そうだからなどと思ったわけでは無い。そして、彼らが見る事に成ったのはは恐らく部屋を借りていたのだろう宿の中で膝から崩れ落ちていたアスフィの姿。
持ってきていた物の大半をヘルメスが持ち去っていった後だったとの事。そして悲しい事に今のアスフィどういう訳かお金をヘルメスに渡していたそうで、無一文に成ってしまったと言う事。一応、他の団員もラキアに向かっているそうだが、それでも数日はかかるとの事。
ならばどうすればいいのかと、怒りとか憎しみとか通り越して只管に虚無へと意識を放り出していたアスフィに先ほど言った通り護衛を頼んだのだ。
因みに宿代と食事代、そして装備を整えるのも必要経費として払っている、コバックが。
「結構、懐が寂しくなっちゃたわねぇ」
「俺よりか?」
「ちょっとガンナーと比べられるのは嫌かしらねぇ」
なんて会話を耳にしながら只管、愚痴に相槌を打つ。必要ないかもしれないが、、彼女の状態的にやった方が良いだろうと思ったからだ。
「……冒険者もそうだけど、神様の方がクソなんですね。リリはまた一つ賢くなれました。今度会ったら気球艇で押しつぶしましょう」
とても物騒な呟きが聞こえたが無視。全くもってその通りだと言えてしまうから無視だ。勿論、ロキは違うと思って居る、少しだけ。あと、勝手に気球艇を殺神の為に使わないで欲しい。
というかそんな事が出来るのかとハインリヒに視線を向けると、笑顔で頷かれたレフィーヤ。そうか、もうそんな細かい操縦が出来るの様になったのかと、褒める様にリリルカに向かってサムズアップをする、と彼女もまたサムズアップし。
ひっくり返した。
まさかの返しに驚くレフィーヤ。そこまで逞しくなっていたのかと喜ばしくて笑顔が浮かんでしまう。良かったね、リリルカ・アーデ。
「なんでしょうか。今凄く嫌な事を考えられたの様な」
「気にしなくてもいいんじゃない? 大体の事は分かるけど、逃れられない事だし」
「嫌なんですが? 凄く嫌なんですが!?」
「それはそうとして、操縦すると時は?」
「慣れてないなら集中する」
と、指摘されるとすぐに向き直る。本当にまじめだなとレフィーヤは思う。
「そう、まるで私の様に」
「何がでござるか?」
「私って真面目だなぁって話ですよ。冒険関係に関しては」
「そうでござるなぁ、ローウェン殿ほどではないでござるが」
「いや、ローウェンさんと比べられても」
困るというか、まぁ困るとレフィーヤは思う。自分も冒険に全てを捧げている様なものだが、その。ローウェンはそこからさらにおかしな所までかっとんでいる人物なのだから比べられても困るとしか言いようがないのだ。
「まぁ、其れは置いておくとしてでござるな。あとどの位でござるか?」
「あぁ、そうですね。ちょっと確認します」
「後ですね、それでですね。聞いてますか?」
「はい」
アスフィの未だに繰り返されている同じ内容の愚痴に対して相槌を打ちながら地図を取り出して目を通し、立ち上がって見渡す。さらにそこから調べた情報や聞いた話などと照らし合わせて。
「・・・・あそこを超えたら見えてくると思いますよ」
「思うでござるか」
「えぇ、断言できる程に情報が集まったじゃないですし。そもそも地上からの景色と上からの景色は違いすぎますから」
「まぁ、間違った方向では無いのは確かでしょうね。ローウェンさんが何も言いませんし」
「で、ござるか」
なんにせよそろそろ準備、または確認し始めるべきかと立ち上がる。アスフィに服を掴まれたが無言で笑顔を向けたら反してくれたので大丈夫。しかし、何故震えているのだろう。
ただ、冒険の邪魔するならぶちのめすぞという意思を視線に乗せただけなのだから震える意味が分からない。と言う事にレフィーヤはしておくのだった。
「見えたぞ」
そんなローウェンの言葉が、確認を終えたレフィーヤの耳に届く。それではと、レフィーヤもそれを見るために歩き、風で帽子が飛ばされない様にしながら眼下に広がる、深い霧に覆われた森を見る。