その森に足を踏み入れたギルド・フロンティア。彼等が思うのは、想定していた以上に霧が深いという事だった。
「前が凄い見辛いですね」
「で、ござるなぁ」
「離れたらすぐはぐれちゃいそうだね」
「こんな状態なら調査に来た人たちが無理だったのも仕方ない気がしますね」
「強さ云々でどうにかなる事でもないしな」
その通りだなと頷くレフィーヤ。レベルが高くても霧はどうにもできないだろうし。いや、若しかしたら魔法で吹き飛ばす事も出来なくはないかもしれない、風とかで。まぁそんな事していたら魔力が尽きて死に掛ける事に成るだろうけど。
「そもそも魔法でも出来るかは微妙ですしね」
「そうなの?」
「あ、声出てました? えぇ、はい。この霧、微妙にではありますけど魔力含んでますし」
「成程、霧から感じる違和感は其れか」
さらりと呟くローウェン。ガンナーなのに何故そこそこの技術や知識が無ければ感知できないだろうそれに気が付いているのかと。人外だからといったらそれで終わるのだが。いや、そもそも技術にしろ知識にしろかなりのものだから当たり前と言えるのかもしれないが。
「詰まりレフィーヤ殿が霧を吹き飛ばすというのは」
「やらない方が良いと私は思いますよ」
見辛いというだけで見えないという訳でも無いし。この環境に適応したモンスター達の音はかなり分かり難いがそれだけだ。平然とローウェンは急所撃ち抜いているから問題ないだろう。まぁ、彼に関しては元から見ずに当てられるのだから例外みたいなものだが。
いや、そもそも全員同じような事出来るのだったと思い出すレフィーヤ。本当に霧を取り除く意味がなくなったかもしれない。一つだけ問題はあるが。
さて、その問題はと言うと。
「……この森のエルフは何処に居るんですかね?」
「知らん。寧ろお前の方が詳しいだろう」
「まぁ、レフィーヤ殿はエルフでござるからな」
「いや知りませんよ」
確かに種族は同じかもしれないがエルフの事なら何でも知っている訳では当然だが無い。一度も訪れていない処か存在するら知らなかったのだから尚の事だ。
「地道に探すしか無いって事ね」
「まぁ、こんな場所ですから何かしらの目印は在ると思いますけど」
「その目印がどの様な物か分からないからどうしようもないと」
「ですね。術関係ならある程度判断できなくも無いんですけど」
魔力を含んだ霧の所為でそう言った視点で見るのがとても大変なのだが。霧自体が何かしらの術で生み出されているという可能性を考えると、かなり見つけるのは困難だろうが。いや、普通にというのはどうかと思うが目印は術とは関係ないものを使うかもしれない。なんて考えながら視線を巡らせてそれらしいものは無いか探す。
が、これといったものは見当たらない。
「そもそも、完全に通り道を憶えているから目印は必要ないとかだったら面倒処の話では無いよね」
「そうなったらもう足跡探すしかないだろう」
「木の上を移動してたら?」
「だとしても何かしら残るだろ」
言いながら現れた敵意を持つ気配に向かって淀みなく発砲。容赦なく穿たれたモンスターが崩れ落ちる音がする。
「じゃあ、探しますか」
「探してもらいながらな」
自分たちだけでというには森は広すぎる。ならばどうするかといえば先ほどローウェンが言った通りだ。慣れてないなら慣れてるやつらにみつけて貰えばいいという単純な事だ。相手がどうしようもない類のものでもない限りはこれに限る。楽できるしとレフィーヤは頷きながら思うのだ。
「木でも切り倒すでござるか?」
「其れ完全に敵対行為ですから」
「怒られるでござるか?」
「というか即攻撃されると思いますよ」
必要だからというならまだしも、唯見つけてほしいからなんて理由でそんなことすれば敵対するに決まっている。エルフとか関係なしにだ。
「で、ござるか。いやござるな」
「というかそれを気にして火球を使わない様にしてるんですからね私は」
「その割に氷がちょくちょく木を貫いてるけどな」
「霧が悪いの無罪です」
まぁ無罪かどうかは置いておくとしても、実際霧が濃い所為でモンスターが避けたと思ったらその真後ろに木があって止める前にぶつかってしまう、なんて事が在るので霧が悪いというのは間違いではない、筈だ。命中率もかなり悪いし。
「で、なにか在った?」
「あたしはこれといって見てないわね」
「本当ですか?」
「また大したものじゃないとか判断して無いだろうね?」
「流石にそれは無いわよ。ついこの間の失敗をそんな直ぐ繰り返すほどあたしは愚かでは無いわよ」
「すぐでなければ繰り返すんですか」
「否定できることではないでしょう」
まぁ、其れはそうかとレフィーヤは頷いて。
全員が一斉に同じ方向へと視線を走らせる。
気配、そこに何かいる。これまでとは違い敵意を持っていない、けれど見定める様に視線を向けている何かが。エルフだろうかと、視線をローウェンへと向ける。すると彼は静かに頷いてから。
「敵意がないなら出てきてくれないかね?」
そう、語り掛ける。はっきり言って友好的とは言い難い言葉ではあるが、しかし以外にも此処に居ると伝える様に音を響かせながら姿を現した。
ごく一般的なエルフよりも青白いと言える肌をした人物が。敵意は無いと言いたげに武器を持たずにその身をさらす。
「……俺たちに何か用か?」
「その前に聞かせてくれ旅人よ」
「旅人、どちらかといえば冒険者なんだが」
「では冒険者よ。汝らの中に傷の手当てができる者はいるか?」
ふむと、考える仕草をしてから軽く視線を交らわせて、ハインリヒが手をあげる。すると安堵したような、或いは救われたとでも言いたげに表情を和らげ、それをすぐに引き締めて言葉にする。
「礼を失するのを承知で頼みたいことが在る」
「……なんだ?」
「我らを助けてほしい」