世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百七十話

現れたエルフ、後にコーロと名乗った女性に案内された辿り着いたその場所には何処かアスラーガに在るかすみ屋を思わせる造りをした建物があった。けれど、其れよりも先に瞳に映り込んできたのは多くの怪我人だった。

 

「これは酷いね」

 

そう小さく呟くと同時にハインリヒは走りだし怪我人に近づいていく。そしてさっと状態を診ると治療が必要な物とそうでないものとを分けて手早く治療を施していく。途中、自分は大丈夫だと叫ぶ人を脅しつつ。

 

相変わらず手際が良いものだと思いながら、改めて視線を巡らせる。人たちに目がいったが建物もかなり傷ついている。間違いなく、戦闘行為が在ったのだろう。

 

だが、と思いつつよく観察するために建物に近づく。そして軽く撫でながら刻まれた傷を見ると。どうにも可笑しい、それはモンスターに付けられたものとは少し違う様に見えるのだ。

 

「……これは」

「どうかしたのか?」

「あぁ、コーロさん。怪我人は」

「問題ない、ハインリヒ殿の腕がとても良いのでな。もう暫くはここを守れるだろう」

「そうですか……それで」

「何が在ったのか、訊きたいのだろう?」

「えぇ、はい」

「今、ローウェン殿が長より詳しい話を聞いている処だが」

「貴女からも私は訊きたいですね。色々な人から集めてこそ正しい情報というのは見えてくるので」

「そういうものなのか?」

「えぇ、といってもかなり面倒な事ではありますが」

「そうか、では我でよければ語ろう」

 

と、少し思い出そうとするような仕草をしてから、彼女は口を開く。

 

「あれは一月ほど前の事だったな。我らが聖地にて儀式を執り行っていた時、それは唐突に地面から湧き出てきたのだ」

「湧き出て、ですか」

「そうだ」

 

と言う事は魔石の方のモンスターと言う事だろうかと考えながら話の続きを求める。

 

「それは影の如く揺らぎ、不確かなもので在ったが鋭く強い敵意を我らに向けてきたのだ。見るにそれは邪悪なもの。故に我らは聖地より追い出さんとしたのだが」

「駄目だった、と?」

「恥ずべき事だがな。我らの剣も、矢も奴には効かずすり抜けたのだ」

「すり抜けた、ですか」

 

それは、面倒だなと思いつつ耳を傾ける。

 

「唯一、術理のみが奴を傷つけたのだが。もともと術師は儀式を執り行っていた故に疲労していたのが災いした。奴を倒しきる事ができなかったのだ」

「それで仕方なくここまで逃げてきたと」

「あぁ、今度こそ聖地より追い出す為にな。しかし……しかし」

「何が在ったんですか?」

「増えたのだ」

「新しく現れたと言う事ですか」

「いや、増えたのだ」

 

いやではなく、そう言う事では無いのか。魔石の方のモンスターはどんどん生えてくるのだから。いや、しかしそうだったなら最初からそういうかと思い、視線を向けてもっと詳しくと言葉にする。

 

「奴はその身を震わせたかと思うと、影から新たな影が現れたのだ」

「それは……生まれたではなく」

 

何かしらの特性の因る増殖、と言う事なのだろうか。

 

「その新しく出てきた影は倒せましたか?」

「あぁ、奴に比べれば容易く術理に因って溶け落ちた。尤も、変わらず剣も矢もすり抜けてしまったがな」

「成程」

「しかし」

「何度も、何度も現れた……でしょう?」

「そうだ。幾ら倒そうとも際限なく影より奴らは姿を現したのだ」

 

そうだとしたら、確かにここがこうもボロボロになる訳だ。下手すれば自分たちよりも圧倒的に数が多いモンスターが何度も攻めて来るのだから。自分たちに頼まなければ治療が間に合わなくなっても可笑しくはないとレフィーヤはそこで納得したように頷く。

 

「どうしてそんな事が出来るのか……なんて、分かってたら倒してますよね」

「その通りだ。何一つ、分かりはしなかった。何故、剣も矢もすり抜けるのか。何故、奴が増えるのか。その一切な」

「そうですか。話を聞かせてくれてありがとうございます」

「いや、礼を言われる事では無い」

 

なんて言葉を聞きながら、情報を頭の中で纏める。地面から湧き出た恐らく魔石の方のモンスター。それは剣も矢もすり抜けるのに、何故かエルフたちに傷を負わせることが出来る。有効な攻撃手段が今の所、魔法等といった唯のものしか確認できておらず。どうやってか増殖までする。恐らく、まだまだ知らないことが在るだろうからもっと凶悪なのだろうと想定する。

 

レフィーヤは思う。これオラリオで出てきたら壊滅するのではないだろうかと。其れほど凶悪なのだ。まぁ、魔法使いがここと比べようもない程多いからそんな事は無いかもしれないが。

 

「レフィーヤ」

「あ、ローウェンさん。話は終わりましたか?」

「あぁ、そっちは?」

「こっちもですよ」

 

と、軽く手を振りながら近づいてくるローウェンに対してそう返す。解す様に肩を回す彼に、レフィーヤは問いかける。

 

「で、どう思いますか?」

「大体、如何いう奴かは分かった」

「早くないですか?」

「其れらしいのがそこら中に落ちてたからな」

「落ちてた?」

「あぁ、ここに攻めてきてたなら何かしら残ってるのではと思ってな。軽く探したらすぐ見つかったぞ。まぁ、見つけづらいのは確かだが」

「何がですか?」

「これ」

 

と、ローウェンは手を開いた状態で出して見せる。しかし、これといったものは無いように見えて。あっ、とそれに気が付いた。

 

彼の手の中に、割れている極小の魔石がある事に。

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