世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百七十二話

ふっと、吐いた息が白く染まる。聖地と呼ばれて居た場所が氷と雪に覆われる。それの光景を見て、そう言えばこの術を元の形で行使するのは初めてだなと思いながら、軽やかに手の中の杖を回し、振るう。

 

振るわれた杖に呼応するように、ピシりとひび割れる音が響く。それは氷像と化した影達から響き音。それは徐々に、徐々に。大きく、多くなっていき。やがて、全て崩れ落ちた。

 

「……気配は無いな」

「これで全滅でござるか」

「どこか別の場所に居る個体は居るでしょうけどね」

 

分かる範囲では、聖地内にはもうモンスターは居ない様だ。しかし一撃で終わるとは。楽できたと喜ぶべきか、或いは呆気なさすぎると思うべきなのか。まぁ、楽できたならそれに越したことは無いかとレフィーヤは思う事にして。

 

口を開けたまま固まっているコーロを見る。彼女はまだ何か起こったのか理解する事が出来ていないのか、ゆっくりと首を傾げると。

 

「…は?」

 

ローウェンが言った通りの言葉を零す。

 

「おわ…り? え? なんで?」

「別に可笑しな事では無いですよ。寧ろとても単純」

 

と、落ちている魔石を探し、丁寧に踏み砕きながらそうレフィーヤが言葉にすると。コーロどういう事なのかと視線を向ける。だから、彼女は答える。

 

「私の得意な事があのモンスター達の弱点だった。それだけの事です」

「……それだけ?」

「それだけです」

「…それ、だけ」

「というか、聖地だか祭壇だかの状態見なくていいのか?」

「は! そうだった!!」

 

漸く正気に戻ったのか、急いで駆け出すコーロ。向かうのは先程まで大量に影存在したせいでよく見えなかった祭壇。パッと見ただけでもかなり壊れている事が分かるのだが。

 

「…そもそも、何でここに現れたのでござろうか?」

「さぁ、俺は知らん。レフィーヤはどう思う?」

「あぁ、そうですね。単純に人が居たからとかでは無いですかね?」

 

現れた時にはこの場所で儀式をしていたと言っていたし。

 

「より人が多く居る村でなくでござるか」

「えぇ。魔石のモンスターって案外馬鹿というか、取り合えず近い方に向かう事が多いですからね。まぁ多いというだけで確実では無いですけど」

「そんな事確かに本にも書かれてたでござるが。少ない方が確実だからという理由……では無いのでござるか?」

「どうなんでしょうね? ただ近ければ多い少ない関係なく襲ってきますね」

 

改めて考えると本当に謎の生態だなとレフィーヤは思う。ハイ・ラガードの世界樹に居たF.O.Eなみに意味が分からない。いや、そう考えるともしかして魔石のモンスターもあれらと同じで何かに造られた存在なのかもしれない、なんて思いながら魔石が在るかどうかを確認するように見渡す。

 

「もう、在りませんかね」

「取り合えずこれで最後だな」

 

と、言いながらローウェンが軽く放り投げてきたそれをつかみ取る。何なのかと見てみると、先程まで踏み砕いていた魔石よりも一回り程大きく、標準的な魔石よりも小さい魔石。恐らく、あの女王の様な姿をした大きめの影の魔石なのだろう。

 

「こう見ると普通のと変わり在りませんね」

「そうだな」

「……どうやって増えたんですかね?」

 

やはり、スキル的な何かなのだろうか。それをモンスターが保有しているかどうかは知らないが。

 

「詳しい所は分からんが、取り合えず分かったのは」

「分かったのは?」

「あの大きめの個体は体の中に複数の魔石を持っていたと言う事だな。転がってたし」

「……つまりそれって、モンスターが増えたというより」

「まぁ、生んだ、或いは造ったっていう方が正しいと言えば正しいかもな」

「モンスターを生むモンスターですか」

 

面倒や厄介という領域の話では無いなと思いながら、上に向かって魔石を投げて火球で燃やす。

 

「……あ、研究の為に持ち帰った方が良かったですかね?」

「いや、間違った判断では無いだろう」

「そうですか」

 

其れなら良いかと思い、さてと視線を霧の所為でよく見えない空から祭壇へと向ける。

 

「あそこ、見ても良いんですかね?」

「さぁ? 拙者には判断しかねるでござる」

「何言ってるんだお前らは」

「と言いますと?」

「良いも悪いは取り合えずおいておくとしても、確認しに行ってるコーロの様子を見に行くべきだろう」

「……あぁ、成程。其れもそうですね。そしてその時色々と見てしまっても仕方ない事ですよね」

「でござるな。ついでに手伝いをするならば触れてしまうのも必然でござるからな」

「という訳で行くぞぉー」

 

さぁ、張り切って手伝おうかと祭壇に向かった三人は、すぐにその足を止める事に成った。それは祭壇に描かれていたものを見たからだ。

 

「…またこれか」

「ですね」

「黒い……なんでござろうかこれは」

「太陽かタコ」

「多分ですけどね」

 

それは、以前森の中に見つけた遺跡にも描かれていた黒いなにか。これが在ると言う事はここのものもあの場所と近しいものなのだろうかと考えていると、声が届く。

 

「何をしているのだ?」

 

そう問いかけてきたのはコーロ。どうやら確認を終えてしまったらしい。祭壇を調べる機会が失われてしまったかもしれないが、其れはそれで仕方ないと素早く切り替える。丁度良く、目の前の絵に関して知っていそうな人物が居るのだから、訊かないでおく理由が無い。

 

「これは何だ?」

「これ?……あぁ昏き禍の神の事か」

「昏き禍の……神?」

 

これが神なのかと、改めて見てみる。が、どうにもそうであるように見えない、絵である事を含めてもだ。

 

「曰く、それは大地に降り立ちて世界に禍を齎したもの。との事だ」

「へぇー、禍を世界にねぇ」

「……またですか」

「これで四度目だな」

「拙者はニ回目でござる」

「なんの事だ?」

「こっちの話だ」

 

言った処で意味の無い事だしと思いながら軽く手を振る。それを見ながらそうかと言葉にして。

 

「それで、その話。というか伝承には続きは在るのか?」

「続きか? あぁ、在るとも。といっても完全な形で残っているわけでは無いがな」

「そうか。まぁ、それでも良いから聞かせてくれ」

「分かった。では村に戻ってから語るとしよう」

 

 

 

「昏き禍の神と楽園の守護者たる巨人の伝承を」

 

 

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