世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百七十四話

飛んでいく、飛んでいく。

 

くるくると回りながら飛んでいく。

 

綺麗に弧を描いて落ちていく。

 

人が、いいや神が。神ヘルメスが頭から落ちていく。

 

何故、そのような事に成ったのか。彼に恩恵を得ている筈のアスフィに殴られたからだ。ではなぜ殴られたのか。それは正気に戻った彼女が笑顔で出迎えた彼を問い詰めたからだ。何故道具を持って行ったのかを、何故金を置いていかなかったのかと。それに対して彼は言ったのだ、道具に関しては自分が必要だったからと。そして金に関しては一言。

 

「俺が持ってるって事忘れてた」

 

なんて、てへッと舌を出しながら言葉にした直後にアスフィの拳が唸りをあげた。そして芸術的な神の飛翔と降臨を目にしたレフィーヤは少し得した気分で、歩いていくのだった。勿論、ヘルメスと殺意を漲らせているアスフィを放置してだ。

 

関わりたくないのもあるが、やる事が在るからだ。石板を調べている人物の元まで持っていくという。正直な所、とても行きたくはないが仕方ない事なのだ。ローウェンはエヴィーの元に報告に、ハインリヒは薬の材料を調達しに行っており、コバックはその荷物持ちとしてついていってしまった。

 

そしてゴザルニは逃げた。

 

確かに変態と会うのは遠慮したのは分かるがその健脚っぷりを見せつけなくても良かったのではとレフィーヤは思わなくもない。だがまぁ、逃げられてしまったものはしょうがないと、仕方なく変態の元へと石板を届けに向かうのだ。

 

「じゃあ行きましょうか」

「……え?」

 

リリルカと一緒に。一瞬なんの事なのか分からなかったのか唖然とし、そしてすぐに全力で抵抗を始めるも、そんなものは関係ないと言わんばかりにレフィーヤは引きずる様にして変態の元へと向かうのだった。

 

 

そして。

 

 

「けぇえ―――ッ!! クエッケケケケッケケェェエエエエエエイイィイイエエエアァッ!! ほ……ひゃあ――――ははははははははははははッ!!」

 

眼前で狂気がばら撒かれている。

 

パルゥムの女性が頭を柱に叩きつけながら流れ出る血を撒き散らしている。器用な事に手にしている石板を一切汚す事無くだ。どうやったらそんな事が出来るのだろうかと思いつつ。何時に成ったら終わるのだろうかと凄い勢いで振るえるリリルカにしがみつかれながら遠くを見つめる。

 

「――――――――………はぁ」

 

暫くすると、落ち着いたのかは分からないが勢いよく石板を掲げた後に深くゆっくりと息を吐いて、動きを止める。そして掲げていたそれを降ろし、石板を奇跡的に壊れていなかった机の上に置き、二人に向き直る。

 

「失礼、少々興奮しすぎたね。申し訳ない」

「そう思うんだったら次からは気を付けてくださいね」

「無理」

「あ、そうですか」

 

断言されて思わずそう返すレフィーヤ。いや、断言するところじゃないだろうと思ったりもしたが、まぁそれはそれだ。変態に求める事では無い。だから、さっさと本題に入る。

 

「まぁ、何にせよ。今回のもお願いしますよ」

「任された。いやぁ、これで漸く壊しても大丈夫になった訳か。腕が成るね」

「駄目ですからね」

「えぇー」

「えぇーじゃなくてですね」

「中に何か在るかも知れないにぃ??」

「だとしてもですよ」

 

やっぱり、壊そうといったかと思いつつ、それでも思いとどまってくれた事にホッと息を吐く。

 

「……あの」

「おや、リリルカさん。復帰しましたか」

「この人はもしかして、コットン様ですか?」

「良く知ってましたね」

「…あのコットン様ですか?」

「えぇ、あの変態の巣窟と名高い大工房所属の人間の中でも一番頭可笑しいと言われているあのコットンさんです」

「色々と酷い言われよう」

「言われても仕方ないような事してるからしょうがないでしょう?」

「と言っても、思い当たる事は無いのだが」

「逆立ちして髪の毛で床掃除するのは明らかに頭可笑しいでしょう」

「気分転換も兼ねていて中々良いと思うのだが」

 

何処がだよ、とは言わない。そんなこと言ったら基本的に説明が大好きな変態どもは其れはもう事細かに話してくれることだろうから、其れこそ日が暮れるまで。

 

流石にそこまで暇ではないので、本題に入る。まぁ、其の本題もかなり時間を奪われるだろうが。

 

「で、其れに関して何か分かりましたか?」

「あぁ、それ聞く? 聞いちゃう? 衝撃的事実知っちゃう?」

「と言う事は何か分かったんですか?」

「うん、本当に衝撃的な事がね」

 

と、視線を石板から離して彼女は、コットンは改めて二人を見て。

 

「ぶっちゃけ分からないんだよね」

「分からないんですか」

「うん、全然」

「そうですか。それは確かに衝撃的ですね」

「いえ、分からないことが何で衝撃的なんですか?」

 

と、恐る恐ると言った様子で首を傾げながらリリルカが問いかける。確かにそう思うだろうが。

 

「よく考えてください。これだけ道具や人が集まってるのに何も分からないのはどう考えても可笑しいでしょう?」

「そう言う、ものですかね?」

「まぁ、しっくりこないかもしれませんけどね」

「調べたり試したりってする立場の人間からすればこれ以上ないんだけどね」

「どっちの意味でですか?」

「両方」

「そうですか」

「ま、壊しちゃ駄目っていうのは正直、本当に、心底残念だけど。この形をしている事に意味が在る物だろうからね。このままゆっくり調べていくとするよ」

「そう言う事でよろしくお願いします」

「任された」

 

と、コットンは頷きながら笑顔でサムズアップして。

 

 

勢いよく倒れた。

 

 

そして二人は、笑顔を浮かべた白目をむいている血濡れの彼女の事を見て呟いた。

 

「まぁ、あれだけ血を流してれば倒れもしますよね」

「もしかしてですけど、途中から落ち着いたのって」

「かも知れませんね。まぁ、と取りあえず」

 

治療をしましょうかと。そう呟くとリリルカは静かに、頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「流石に怪我人を放置はしないんですね」

「其れをしたらキチガイでなく外道の人でなしですからね」

「そうです、ね……そうでなくて良かったですよ、本当に」

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