世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百七十七話

幾つもの柱が立ち並ぶ広場で、頬を伝う様に落ちていく汗を拭いながらレフィーヤは目の前の壁画を見る。一目見ただけでそれが古きもので在り、また計り知れない価値が在るだろう事が伺えるそれは。

 

「……今までのとは違いますね」

「あの昏き禍の神とか言われてるのは描かれてないしな」

「欠けた部分に在ったとかじゃない?」

「それにしても雰囲気というかが違いすぎる様な」

 

そう、そうなのだ。今までの遺跡に在ったものとは明らかに違う。今までのそれが伝承を伝え残そうとするためのものならば、目の前の壁画は。多くの人々と何か渦の様なものが描かれている。昏き禍の神を示すだろう、黒い太陽の如きそれは描かれていない。

 

「昏き禍の神とか、巨人とかとは関係ない感じですかね」

「こっちの方が平和そうだしな」

「あ、ほら。あっちの方のは手を取り合ってる」

「本当ですね。これは、あれですかね。嘗ては様々な種族が手を取り合って暮らして居たって事なんでしょうかね?」

「そこまでは分からんが、まぁ見た感じはそうだろうな」

 

さっと、壁画全体に目を通す。巨大であるゆえにそこまで詳しく見ることが出来ず、またレフィーヤは専門家では無いから分からないことだらけだが。

 

「なんか、表情が分かるのは全部笑ってますね」

「幸せそうだな」

 

まるで楽園に住んでいるかの様だ。そうでなければ皆が皆幸せなどと言う事が在るとは思えない。と、そこで不意に引っかかる。はて何がだと思いだそうと呟く。

 

「笑って、違う。幸せ? これでもない。じゃあ……楽園? 楽園、どこかで」

「如何したいきなり」

「あ、いえ楽園っていうのがどうも引っかかって」

「なんで楽園とかいうのが出てきたんだよ」

「その、なんかみんな笑ってるから楽園にでも住んでいるのかって思って」

「成程、しかし確かに言い得て妙というか。そこで楽園を出すとはお前は凄いな」

「言われましてもね、まだ何が引っかかるのか思い出せずですよ」

「なら言ってやろうか?」

「お願いします」

「楽園の守護者」

「……あぁ、そう言えば巨人はそんな風に言われてましたね!!」

 

成程そうかと思わず手を叩くレフィーヤ。通りで引っかかる訳だと。

 

「しかし、もしもですけどそうだとしたら」

「案外これも関係してるのか。或いは、其れよりも前のものなのかもしれないな」

「前……それって」

「昏き禍の神が世界に現れるよりも前」

「それって、とんでもないのでは?」

「まぁ、そうだな」

「……大発見?」

「間違いなく」

 

しばしの沈黙、他の場所から見る為に離れた他の三人の声が酷く遠くに在る様に思えて。しかし一気に何処かに行って居た意識が戻ってくる。気に成る事が在るからだ。

 

「いえ、おかしいですよね」

「こんな浅い場所に在ったのに、他の奴らが見つけられてなかった事が、か?」

「えぇ、はい。割と処でなく分かり易い場所に在りましたし。これが神々が降り立つより前に在ったという其れよりもさらに前のものだとしたら。ここはドワーフたちに利用されていたんですから見つけられない方が可笑しいでしょう」

「まぁそうだな。だが案外簡単にそれに関しては説明が付くかも知れんぞ?」

「そうでしょうか」

「あぁ、単純にこの洞窟が長い事放置されたからここに繋がったとか。或いはモンスターが何かしらしたとか」

「あぁ。そう、ですよね。もともとここは繋がっていなかった可能性が在りましたね。うわぁ、そんな事も思いつかなかったのか私」

「大発見という事実に目がくらんだなレフィーヤ。まだまだだな」

「言い返せない! 凄く悔しい!!」

 

何時もならすぐ思い至るだろう事だっただけに、それはかなり強いものだった。だからこそ次こそはと思うのだが。

 

「……なんか、こう。あれですね」

「なんだ?」

「大発見出来た殊に叫び声をあげて喜びたいけど、流石に洞窟内でそんな事をするわけには行かないから。こう、何とも言えない気持ちにさせられるというか」

「そういう時はな、冒険が終わってから爆発させればいいんだよ」

「成程」

 

まぁ、其れに関しても考えれば分かる事なのだが。どうにも思って居る以上に自分は興奮しているようだとレフィーヤは思う。だから、一度落ち着く為に深く息を吸ってから、吐いた。

 

幾分、落ち着くことが出来たなとレフィーヤは思いながら改めて壁画を見て。最初に目にした時から思って居た疑問を口にする。

 

「あの渦みたいなのって何なんでしょうね?」

「さっきも言ったがそこまでは分からん。他のと違ってこれかも知れないというのもこれと言ってないしな」

「そうですか」

「光じゃないかしら?」

「あ、コバックさん」

 

と、そこに横から言葉を響かせるコバック。見れば、ゴザルニとハインリヒもこちらに向かってきている。見終わったのだろうかと思いつつ、先程彼の言った言葉を繰り返す。

 

「光、ですか」

「あぁ、確かにそう見えなくも無いな」

「でしょう? こう、あたしたち幸せでキラキラ!! みたいなのを表現してるとか、無いかしら?」

「流石にそれは無いだろう。というかそうだったら嫌なんだが。どんな表現の仕方だよそれ」

「嫌かしらね? 結構、こう可愛いと思うのだけれど」

「可愛い?……駄目だ分からん」

「酷くないからし? ねぇ、ハインリヒちゃんは」

「ごめん」

「即答?!」

「腹切りでござる?」

「なんでよ!?!」

 

そんなおふざけを聞きながら、レフィーヤは考える。光、光。そう光だ。確かにそう見える。だが、それは決して幸福であることを示すためのものでは無いと彼女には思えた。

 

そして、レフィーヤは知っている。命を持つ光を。

 

「いえ、でも」

「また何か引っかかるのか?」

「えぇ。でも、もう少し纏めたいというか……すみません、話すのはそのあとで良いですか?」

「あぁ、構わんよ。焦らず納得できるまで考えると言い。帰ってからな!!」

「あぁ、其れもそうですね」

 

まだ、洞窟内をここまで暑くしている元凶であると思われるモンスターを見つけていなかったし、それ以前に奥の奥まで行っていないのだった。思わぬ大発見にそこまで抜け落ちていたかと恥じる。

 

「じゃあ行きますか?」

「そうだな。丁度いい休憩にもなったし、そろそろ行くか。余り時間を掛けるとリリルカとアスフィがやばい事に成りそうだし」

「あぁ……外、寒いですもんね」

 

一応、其れに関しての対策はしてあるがそこまで長持ちするものでは無いのだ。早めに戻った方が良い事に変わりはない。

 

取り合えず忘れない様にと気に成った事などを軽く書き留めてから。奥へ向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

何気なく触れた、まるで抉られたように欠けているそこには、何が描かれていたのだろうかと思いながら。

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