空を見上げる、天井が崩れ落ちていた故に見える青い空を。降り注ぐ日の光を浴びながら、何気なく深く息を吸う。感じるのは埃っぽさと、濃い植物の香り。少し咽そうになりながらも、笑みを浮かべる。
「あぁー……良い」
「そうだな、最高だな」
「やっぱり世界には冒険以上の事なんてないんでしょうね」
「なに当然な事言ってるんだよ」
「其れもそうでしたね」
と、笑い声を響かせる二人。それに驚いたのか、ネズミの様なそうでない様な生き物が小さく震えてから何処かへと逃げ去っていく。やっぱり小さいと色んな所に入り込めるんだなと思いながら、見渡す。
所々に植物が生え、壁が崩れているのか道、いや廊下と言うべきだろう場所を塞いでいたり。やはりというか長い事人が訪れていなかったのだろうなと分かる。それにしては状態が良いが。
しかし、とレフィーヤは見渡してから思う。そう、思って居たよりも。
「モンスターが居ませんね」
「そうだな。遺跡に入ってから出くわしたのは……確か三回位だったか?」
「どうでしたっけハインリヒさん」
「ん、三回で在ってるよ」
「そうですか、で貴方は何で蔦を取ってるんですか?」
「あぁ、これね。これ薬に成るんだよ。傷薬にね」
「へぇ、知りませんでしたよ」
普通の蔦にしか見えないが特別な物なのだろうか。或いは蔦全般にはそう言った効果が在るのか。やはり、知らない事というのは沢山ある。だからこその冒険なのだが。
「それで、ハインリヒさんは如何思いますか?」
「モンスターの少なさに関してかな?」
「えぇ」
「そうだねぇ。確かに、そんなに住みにくいような場所では無いし、餌が少ないという訳では無い。魔石のモンスターなんて場所を選ばないしね」
「そう言えばこれまで出くわした三回全部魔石持ちでしたね」
「あぁ、そう言えばそうだったね」
普通の、というのは一般的には少し違うかもしれないが生物のモンスターとは一度も出くわしていないと言う事に成るのかと気が付き、レフィーヤは思う。それはおかしいのでは。
「まぁ、奥の方には居るのかもしれないし、ただ単に出くわしてないだけで居るかもしれないけどね」
「其れにしては気配があれですけどね」
「少ないね、それも僅かに感じるのもかなり小型で襲ってくる様子の無いものばかりだったし」
「……なんででしょうね」
「何でだろうね」
「そう不思議な事では無いというか、そもそも悩むような事でもないぞ」
「え?」
そうなのかと、言葉にしたローウェンを見るレフィーヤ。すると、彼は肩を竦めながら答えた。
「手紙」
「手紙って、フィンさんが書いたかもしれない手紙ですか?」
「そう、其れに書いてあっただろう? 古代人の造った何かの所為でって」
「書いてありましたね……あぁ、若しかして」
「其れの所為でモンスターも住み着いてないのかもしれないな」
「私、壁かなんかだと思ってましたよ」
「まぁ、オーバーロードの所の奴、とまではいわないがそれに似た何かが居る可能性は十分あり得るよな、断言はしないが」
「確かにそうですね」
頷きながら、他に何か忘れているものは無かっただろうかと思い出そうとして。ふと思う。
「本当にあの人が書いたものかも知れませんねあれ」
「何で今そう思った」
「いや、だって単純に此処もの凄く遠いじゃないですか」
「まぁ、気球艇で四日掛かるしな。途中に谷とか森とかが在った事を考えると徒歩の場合は結構な時間が掛かるだろうな」
「でしょう?」
まぁ、だからと言って確定するわけでは無いが。
「お話し中悪いのだけどちょっと良いかしら?」
「如何した」
「何か見つけでもしましたか?」
「えぇ、そうなのよ。少し気に成るのが在ってね」
「気に成るのねぇ」
「まぁ、コバックさんが見つけてそう判断するって事は小物系では無いのは確かですね」
「そうだね」
「何故そう力強く言われちゃうなのかしらね」
「今までの行いですよ」
と、言うとコバックは肩を落としながら指差す。その先を見るとゴザルニが居て、其の近くに何か石像の様な物が見える。あれは何だろうかと近づいて確認するように触れると。
「…これ、は」
「鋼鉄で出来てるなこれ」
「それだけじゃないでござるよ。ここ、なにか動いたような跡が在るでござろう?」
「やけに埃も少ないですね。と言う事は」
「これがあれか。手紙に書いてあった奴、かも知れないな」
古代人が造り出した何か、確かにそう書かれても可笑しくはない代物だった。鋼鉄で出来た犬、若しくは狼の様なそれが動くのだとすれば、そう表現する他ないだろう。彼等の様に似たようなものを見たことが在ったりしなければ。
「って、ゴザルニさんは見たことありましたっけ?」
「似たような物なら在るでござるよ。アスラーガ近くの迷宮に現れたでござるからな、鋼鉄なのに動き回るモンスター。いや、D.O.Eでござったか」
「あぁ、そう言えば居たなこんなような奴」
「なんだっけ。冷徹な監視者だっけ?」
「居たわねそんなの、確かあの鉄球をぶら下げてたやつよね」
「そうそう」
「で、ござるな……あぁ、丁度あんな感じ、の」
と、言いかけて止まり、武器に手を掛けるゴザルニ。その様子を見てそれぞれが戦闘態勢に入りながら如何したのかと視線の先を見ると、植物が在る所為か分かり難いが先程言った冷徹の監視者によく似たものが転がっていた。
一見、壊れ切っている様にしか見えないそれは、しかし突然頭部がくるりと回る。それを見た瞬間にゴザルニは地面を勢いよく蹴り加速して抜刀。何かをされる前に容赦なくそれを両断した。
直後、甲高い悲鳴の如き音が遺跡に響き渡った。