耳障りな音が響く。其れはゴザルニが両断したはずのそれから、ではなく其の脇に在る道の先から。弾かれる様にゴザルニが視線を向けるのとほぼ同時、道の先から冷徹な監視者の如きそれ鉄球を振り回しながら彼女に迫る。
それを見たゴザルニは回避、ではなく前進。避けようという意志すら感じないそれは。
「ほっと」
コバックがすでに駆け寄っていたからこそだ。凄まじい勢いで振るわれた鉄球を真横から盾で殴りつける様にして弾き。そんなコバックの脇をするりと抜け、さらに踏み込みもう一つの鉄球を放とうとする監視者に向かって刃を振るい両断。すると瞳を思わせる光が消え、同時に悲鳴の様な音が止み崩れ落ちる音が響く。
動かなくなったことを確認しているゴザルニを見ながら、さて先ほどの音は何か意味が在るのだろうかと考える。ただの威嚇なのか、それとも。
「あぁ、そう言う感じか」
不意に、ローウェンがそう呟く。如何いう意味なのかと問い掛けようとして、何かが動く音。それにレフィーヤが反応するよりも早くローウェンは銃をくるりと回してから、発砲。銃弾は真っすぐ狂いなく突き進み。
今まさに動き出そうとしていた鋼鉄の狼に直撃する。勢いよく頭部が跳ね上がるが、しかし致命傷とはならなかったようですぐに態勢を立て直し睨みつける様に視線を向けて、氷塊に叩き潰された。
「…さっきの音って、あれを動かすためのものですかね」
「感じからしてそうだな」
「成程、確かにこれは挟み撃ちされかねませんね。ちゃんと探しておかないと」
「或いは、あの音を鳴らされる前に潰すかだが、絶対に出来るとは言い難いしな、それが妥当だろう」
ローウェンの言葉に頷きながら杖を握りなおす。それは気合を入れなおす為、ではなく単純に。
まだ戦闘が終わっていないからだ。
「問題は、あの音が何処まで響いたのかだな」
「かなりの数聞こえますからね」
それは走る音、鋼鉄の何かが走る音。それが何を示すのかを単純に考えれば、先程の鋼鉄の狼だろう。
「一、ニ、三……いや四、四体か」
「聞こえてないだけでまだいるかもしれないね」
「モンスターが居なかった理由が良く分かりましたね」
奥にいけないと書かれる訳だ。高位冒険者ならば無理では無いだろうが、態々此処までくるとも思えないし。というか来れると思えない、オラリオの高位冒険者は何かと面倒ごとが多いから。
さてと、思考を切り替える。何処から来るのかと視線を走らせながら音を聞き分ける。
「前からは二体ですかね」
「後ろからは一体かな」
「で、もう一体は」
言いながらローウェンがその場で跳ぶ、直後床を吹き飛ばしながら姿を現す鋼鉄の狼。それは彼の足を噛みちぎろうと激しく刃の如き歯を向く、がしかし跳んだ彼には届かず。鋼鉄の狼もまた跳んでいた故にローウェンの放った銃弾を避ける事も防ぐ事も出来ずに直撃、激しい音を立てながら瓦礫と共に下の階へと落ちて行った。
「ほいっと」
無事だった床にローウェンが着地したのを見ながら、一応はと氷塊を下の階へと叩き落してから後ろへと視線を向ける。そこには少し離れているが走りながら向かってくる鋼鉄の狼の姿が見えた。
前から来ていたのが見えた二体に関してはゴザルニとコバックが対応するだろう。だからレフィーヤはもしもを考えて出来る限り早く背後から近づいてくる鋼鉄の狼を排除するために印術を行使する。
一瞬、思考を巡らせる。放つべき術は何かを。そうして放つのは氷槍。放たれた二本の氷の槍は真っすぐ鋼鉄の狼に向かって突き進み、力強く跳ばれた故に当たることなく床を砕くのみで終わる。
が、予定通りなので焦りはしない。再び放たれる氷の槍。先程、空中での回避が出来ないことを理解した故に放たれたその一撃は鋼鉄の狼を容赦なく貫き。おまけとばかりに放たれた雷撃が走り直撃する。貫かれた際の衝撃からか、先程砕かれた床から下へと落ちていく。
倒したか否かを確認すべきだが、その前に前から来た二体はどうなったかと視線を向けると、丁度二体目をローウェンが撃ち抜いた処だった。
それを見て、崩れ落ちた際の音が収まってから耳を澄ませる。まだ他に向かってきているものは居ないかと探る様に。
「…取り合えず、居ないみたいですね」
「音だけで判断するならだがな」
「でもそれ以外に判断する手段今の所無いですよね。さっきのこれと言って気配らしいの感じませんでしたし」
「そうだな。一応、殺意や敵意は在るみたいだが凄い分かり難いしな」
「あ、あったんですか。殺意と敵意」
自分は気が付かなかったなとレフィーヤは思いながらローウェンを見る。しかし彼が分かり難いというと言う事はそうとう希薄と言う事なのだろう。そこら辺は殺意も敵意もこれでもかとばら撒いていたオーバーロードの居城にいたものとは違うのだろう。あそこと比べるのは間違っているだろうが。
「さて、と」
ローウェンに因って四肢を撃ち抜かれ頭部を貫かれた鋼鉄の狼へと近づき、撫でる様に触れる。それから鋼鉄の冷たさを感じて、先程まで動いていたとは思えない。
「…これ、どれだけ居るんですかね?」
「分からん」
「まぁ、ですよね」
「だが分かる事は在るぞ」
「なんですか?」
「こいつはとても面倒だと言う事だ」
「…そうですね」
どれだけいるのか分からず、下手すれば囲まれた状態に一気に陥りかねないのだから。壊れているのかそうでないのかを見分けるのが難しいという意味でも、その通りだと頷くほかない。
「冷徹な監視者みたいなのが音を鳴らしたら動きだしましたよね」
「そうだな。それが条件だとするなら回避することは出来るな。という訳で出来る限り気が付かれない様に進むぞ。このままじゃ弾丸が足りなくなるかもしれないしな」
「そうだね。どれだけいるのか分からない状態じゃ喧嘩を売っても疲れるだけだしね」
「ですね」
頷きながらレフィーヤは前を見ながら思う。相変わらず冒険とは一筋縄ではいかなものだと。まぁ、それもまた醍醐味と言えるのだが。
何事もなく済んでしまう冒険というのは、少し味気ないものなのだから。