炎が躍り、大工房が衝撃を撒き散らしながら崩れていく。もはや一つの厄災となっているその崩壊から逃れる様に、燃え盛り崩れていく天井を突き破りながら空へと昇りを何処かへ向かって駆けて行った姿の見えない何かに気が付いた者はごく僅かでしか無かった。
大半の者は大工房が燃えながら崩れ落ち、そして一瞬にして全てが凍りつく瞬間を目にした。
誰かが唖然とした様子で、声を零したりしている間にも動きが在る。先ほどまで音を立てて燃えていた筈の天井の一部が吹き飛び。
「ヘェェルゥメェェスゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ――――――ッ!!」
空に向かって伸びる氷の柱の上でレフィーヤは咆哮を轟かせる。全裸で。
所々に焼けたような跡がある事など気にも留めず視線を走らせ探すレフィーヤ。しかしそれらしい影が見えない。それでもと暫くは探し続け、やがて大きく息を吸って吐き。乱暴に頭を掻きむしってから柱から降りた。
レビテーションを用いて何事もなく着地したレフィーヤが見たのは多くのもう動く事の無い人だったもの。
「こ、壊れて、壊されてる、こ、こわここおここここここここここおおおこここっこッ!!」
「ああぁ、作りかけが、食いかけが、全部全部無くなってしまったぁ・・・ッ!!」
「ニャヤアアァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ではなく、発狂している変態たちだった。全裸の。
彼らは皆、慌ただしく動き回り被害のほどを調べて回っていた。詳しい所は分からないレフィーヤだが、それでも相当なのだと言う事はよく分かった。多くの物が爆発の衝撃で吹き飛び、そうでなくても炎に飲まれて燃えてしまったのだろうから。
「と、私も確認しないと」
そう呟きながら、急ぎ足でそこへと向かうレフィーヤ。もはや壁としての役割を為していない邪魔なだけのそれを迷く事無く破壊して、気球艇の在るはずの場所に踏み込み。
半壊している気球艇とその近くで膝を付いているエヴィーを見つけた。
「エヴィーさん、無事でしたか」
「ぶ、じ?」
レフィーヤが声を掛けると、エヴィーは小さく呟きながら揺らめく様に振り返り、感情がただ一つを残して抜け落ちてしまっている瞳を向けた。
「いえ、いいえ。無事では在りませんレフィーヤ氏。どう見ても重症です。致命傷です。気球艇が、心血注いで作り上げたものが、このような状態に成ったというのに無事などと言えるはずが在りません」
一つだけ残った感情が煮詰められていくのがレフィーヤには分かった。恐らくエヴィー自身も感じているだろう。
「…レフィーヤ氏、これをやったのは誰なのですか?」
「ヘルメスです」
「そうですか、神がこのような事を」
半壊している気球艇を眺めて。
「レフィーヤ氏、あぁレフィーヤ氏。その邪神は今どこに?」
「天井を突き破って何処かに行きましたよ。恐らくですが、巨人が眠る場所に向かったのだと思います」
「そう、ですか……そうですか」
そう、呟いて。彼は笑った。笑いでもしなければ、怒りでどうにかなってしまいそうだと分かっているから笑い続けて。それは伝染し、大工房で在った場所全体に満たしていく。変態と呼ばれている狂人達が皆が皆笑っている。
そして、勢いよく立ち上がり。
「四日」
「はい?」
「四日ください。気球艇を直し、いえこの工房に居る同士諸君たちの手を借りて更なる強化改良を加えて進化させてみせますので」
「そうですか」
「ですから、どうか。気球艇を、いえこの楽園を壊した邪神をボコボコにしてください!!」
そう宣言すると高々と手を掲げて、叫ぶ。
「という訳でやるぞおらぁああああああああああああああああああああっ!!」
『ヒャッハァァあああア―――――――――――ッ!!』
壁だったものを突き破りながら無事だったのだろう道具や材料を抱えて気球艇に突撃していく変態たち。今までにない程の勢いで足場を組んでいく彼らを見て、もうどうあっても止まらないだろうなと思いながら、エヴィーの言葉、依頼と言えるそれをローウェン達に伝えるために、宿に向かう事にしたレフィーヤは歩き出し。
あ、と呟きながら。方向を変えてそこそこ大きな氷に近づいて、杖で叩き割って手を突っ込み。中に居たアスフィを引きずり出した。
「え、え?」
「ほら、行きますよ」
「は、え?」
混乱しているアスフィ。しかしだからどうしたと言わんばかりに引きずりながら今度こそ宿に向かうレフィーヤ。そんな彼女に向かって、アスフィは声を震わせながら言葉にする。
「ど、どうしてですか?」
「守った事に関してですか? 言っておきますけど、私は仲間を放置して自分だけ助かろうなんて思う程人でなしでは在りませんから」
「仲間? いえでも、私は」
「仲間でないとか言わせませんからね。あと盗もうとした事を別に気にしなくても良いですよ。なんだかんだで、神の言う事に逆らえる人なんて殆ど居ませんから。いやまぁ、此処はその割に居ますけどね。今回の事に関してもそうです。あれはあの神が勝手にやった事で貴女は関係在りませんから」
そう言って、あぁでもと言葉を零す。
「確かに、そうしようとしたことに変わり在りませんからね。暫くはただ働き同然に成る事は覚悟する事ですね」
「…良いのですか?」
「まぁ、そこら辺はちゃんと話し合って決める事ですけどね」
先程まで爆発に飲まれ、炎に焼かれていたとは思えない程に、堂々と道をアスフィを引きずりながら歩くレフィーヤは言う。それを聞いたアスフィは少し迷う様に視線を揺らし、静かに頷いた。