世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第十九話

「ミッション達成達成したので」

「したので?」

 

レフィーヤの問い掛け、それにローウェン頷いて……手にした其れを、酒を掲げた。

 

「酒を飲みます!!」

「ひゃっはぁああああああああああああぁぁ―――――――――!!!!」

「冒険の後のお酒って格別よね」

「今日も飲むんですか…そうですか」

 

げんなりとしたレフィーヤなど知らぬと言わんばかりにはしゃぐ三人。いや、それだけでは無い。何時の間にか人が集まってお祭り騒ぎに発展していた。いや人多いな。

 

今居るのはかすみ屋の一室……では無く。琥珀亭と言う食堂だ。ミッションの達成を報告した後、どうせだからと其の儘やってきたのだ。 

 

「いやぁしかし……あいつ予測よりも強くなかったな」

「まぁ、強いとは言い難かったわね」

「え?」

 

今何と言ったのか、レフィーヤには一瞬だけ理解できなかった。

 

強くなかった。あれが?

あの巨人の如き体を誇る石灰の魔人が?

 

いや、それは無いだろうと思ってしまう。今思い出してもその恐ろしさ。…。恐ろしさは、その。

 

「あれ? ボコボコにやられてる姿しか思い出せない?!」

「あっはっはっは!! まぁ、対処できない様な行動は一つも無かったしな! そもそも俺の初撃が当たった時点でもう勝ち負けは決まってた様なものだったしな」

「そうね。完全にパターンに組み込むことが出来てたしね」

 

それ、自分が印術を叩き込む必要が無かったという事なのかと一瞬思って、其れを察したのか、否定する様に手を振りながら口にした。

 

「今自分のやった事が意味無いとか思っただろう?それ、完全に間違いだから」

「でも」

「まぁ、ぶっちゃけると別にレフィーヤが印術を叩き込まなくても如何にか出来る状態にはなってたな」

「えぇ」

「けど、そんな物は何が切っ掛けで崩れるのかも分からんものだ。だからさっさと止めを刺せるなら、そうした方が良いだろう?」

「そうだね。今回のがあんなに上手くいったのは相手が余裕ぶっこいて威嚇行動……だったのかな?そんな事をやってたからだしね。あと、考えれば分かる事だけど上から落ちて来る時に誰かを踏み潰す積りだったら……まぁ、死なないまでも確実に体制が崩れてただろうしね。もっと消耗してたのだろうね、其れこそ酒盛りなんてしないで速攻で宿に帰って寝る位には」

 

一瞬、背筋に冷たいものがはしる。そうだ、その通りだ。若しもあの魔人が潰す積りだったなら、若しもレフィーヤが狙われたなら、避けられていたかは分からない。その場合は他の誰かが助けてくれていただろうが、あとはハインリヒが言っていた通りだ。

 

「そうだな、強くなかったというよりも……馬鹿だった。ていうのが正しいか」

「自分最強とでも思ってたんじゃないかな?まぁ、おかげで楽だったから良いけど」

「そうだな。弾丸がかなり節約できた」

「第二迷宮のモンスターと見れば…強い方なんだけどね」

 

そう言って頷く彼等にふと、レフィーヤは思った事が一つ。普通、と言う訳では無いがオラリオでならよく聞く其れは、彼等は思っていないのだろうかと。だから、問い掛けた。

 

「自分たちの方が強かったからとか……そういう風には思わないんですか?」

 

彼等は一瞬、ポカンとした表情を浮かべてから……酷く懐かしいものを見る様な視線をレフィーヤに向けた。

 

「あぁ……すごくよく聞くやつだな」

「そうねぇ、誰でも一度は通る道よね。強いから勝てるって思うのは。まぁ、レフィーヤちゃんはちょっと早い気がするけど」

「いやいや、此れに早い遅いは無いからね。それに今回ので思ったけど、レフィーヤはちゃんとした実力を持っている様に見えたしね。まぁ、初心者にしてはだけど」

「思ってた反応と違う」

 

こう、当たり前だろうと返されるか。若しくは大笑いされるかのどちらかだと思っていたレフィーヤは、唯困惑した。

 

なんだその視線は。

 

「いやぁ、な?本当に誰でも通る道だからな、それって言うのは」

「そして自分よりも弱いと思った敵に殺されかけるまでがセットだね」

「まぁ其の儘、更におまけでご臨終…ていうのも良く在るけどねー」

「あぁー……敵が毒を持ってたらそうなる事が多いな」

「毒はねぇ。ちゃんと対処しないと其れこそ何も出来ずだからね。自分強いと思ってる状態だと、其の前に倒せばいいとか考えるのも居るから、ご臨終が多い事多い事」

 

そう、ぞっとする様な事をよくある事だと彼等は言う。オラリオでは聞かなかった類の話で、それ以上に在り得ないと笑われかねない事だ。

 

けれど、冒険者ならば絶対に否定してはいけない事だ。何故ならば、彼らが言っている事を単純にしてしまえば……強くても死ぬ時は死ぬ。唯それだけなのだから。

 

「と言うか、強いから勝っただと自分よりも強いの出てきたら負けるって事だよな」

「そうねぇ。其れに強くなったからと言って敵が弱くなる訳でも無いしねぇ」

「そもそもが、強い弱いで測れない奴も居るからね。さっき言った、毒を持ってる奴とか」

「いや、強いから勝つ理論なら強いんじゃないか?」

「あぁー、そっかぁ」

 

ぼろくそ言っている。だが、全て事実だ。だがオラリオでは在り得ないと切り捨てられかねない事だった。強ければ勝って生き残り、弱ければ負けて死ぬ。だから、冒険者の大半は強く成る為に鍛え、迷宮に挑む。それが常識だ。それだけでは、無い筈なのに。

 

ローウェンと視線が重なる。すると彼は、少しだけ笑ってから言った。

 

「あぁ……別に自分が強いと思うのは良いんだよ。自信、まぁそう言った類いだと言えなくもないからな」

 

ただ、と呟く様に口にしてから手の中のガラスを揺らし。

 

「相手を自分よりも弱い、何て事は絶対に考えるなよ?」

 

一気に、グラスの中の酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

「無駄に、死が近づくからな」

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