ヘルメスが石板を持ち去ってから三日程経過した。レフィーヤはこれと言って意味が在る訳でも無く、すでに直っているのではと思える気球艇が頭が可笑しくなりそうなほど数が居る変態たちに因って改造されていく様子を手摺を椅子代わりにしながら眺めていた。
「言っていたのより早く終わりそうだなぁ」
「だろうな」
「あ、ローウェンさん」
何気なく零れた言葉にそう返すローウェン。振り返り、ゆっくりと近づいてくる彼を見て。
「で、どうしてそうも断言出来たんですか?」
「単純に人が多いからだな。しかもこれと言った無駄が出てないし」
「無駄に関しては分かりますけど、人が多いのは前からですよね」
ヘルメスの起こした爆発の被害者は居なかったはずだと思い起こしながら言葉にすると、彼はそう言う事では無いと軽く首を振る。
「あの基本的に一緒に居るだけで共同作業なんぞ知らんと言わんばかりに好き勝手しまくる変態たちが一つの事に全力で周りと助け助けられなんてしてればそりゃ・・・・な?」
「あぁ、そうですね確かに」
そう言われればその通りだと頷き。
「…あの、じゃあそのとんでもない事に巻き込まれてる気球艇は一体どうなってしまうのでしょうか」
「さぁ? あぁ、だが一つだけ言える事が在るな」
「なんですか?」
「形が変わらなかったら奇跡だ」
「ですよね」
一応、そこら辺言っておいた方が良いだろうかと考える。余り形などを変えられると使い勝手的な意味で困るのだが。
まぁ、考えても仕方ない事。変態がそこら辺を考えていてくれる事を願うしかない現状、出来ることなどないのだから。故に、視線を気球艇とそれに纏わりついている変態たちからローウェンへと向ける。
「それで、アスフィは如何したんですか?」
「今日も元気に吊るされてるぞ」
「それって元気だと言えるんですかね」
「間違いなくな。ここに宿を出た時だってリリルカに突かれながら声を張り上げてたしな」
「アスフィさんの事以上にリリルカさんが遂にそれをやる様に成った訳ですか」
しがみつくと言っていた筈なのだが。自分から谷底に向かってダイブしている様にしか思えない。
「まぁでも思っていたよりは引きずってないみたいですね」
ヘルメスに殺されそうに成ったというのに。
「…そこら辺どう思いますか?」
「せめてちゃんと言え」
「ヘルメスがアスフィさんを巻き込んだ事に関してですよ」
「邪魔される可能性を出来る限り無くしたかったと思えば分かるだろ?」
「……あぁ、空を飛ぶ靴ですか」
確かに、それがあれば間違いなく追いかけていただろう。それを考えれば、可笑しな事では無い。ないが。もしもそうだとすれば最初から。
「…あぁ、気が滅入りますね」
「キチガイとか変態とはまた違った類の奴だったみたいだしな。ある意味、一番何をしでかすか分からんからなぁ。何をしてでもって感じで」
「その結果、変態とキチガイを敵に回したわけですけどね」
「ヘルメス的には、巨人を起こせれば勝ちなのかもしれないからな。別にそうなっても構わないと判断したんだろ。ほんの数日、俺達よりも早く辿り着く為の時間が稼げれば、それで」
「と言う事はもう私たちは負けている様なものだという訳ですか」
それは、とても気に入らないとレフィーヤは目を細めると。ローウェンは否定するように言葉にする。
「いや、負けてはいないだろ。そもそも勝ち負けの基準と言うかが違うし」
「基準?」
「ヘルメスの目的が巨人を起こす事だったとしても。俺たちの目的はそれを阻止する事では無いだろ」
「あぁ、成程。其れなら確かに負けてませんね。いやそもそも勝ち負けの話になりませんね」
「だろう? 結局は、巨人が目覚めても依頼された通りにヘルメスをボコボコにすれば其れで俺たちにとっては勝ちに成る訳だからな」
「そうですね」
と、頷いてから。まぁそれはそれとしてもだと、彼は小さく呟いた。
「なんか、あいつの思い通りっていうのは……ムカつくな」
「えぇ、本当に。気に入りませんね」
気球艇を壊された、石板を持って行った。それらは結局の処は同じ。彼等の冒険を邪魔したという意味では全く同じだ。許される事では無い。
「時にレフィーヤ」
「なんですか?」
「もしもヘルメスをボコボコにしようとした際に間違って巨人に被害が出ても仕方ない事だとは思わないか?」
「其れは勿論、仕方ない事ですよ。戦えば被害が出るのは当然ですからね。それも巨人なんていわれるほど巨大なら、其れこそ巻き込まない方が難しいかと」
「だよな」
「ですね」
笑みを浮かべ、声を響かせる二人。
「まぁ、もしも巨人が起きて動き出してたらそれどころじゃないだろうけどな」
「どの位大きいんですかね、巨人って」
「世界樹位だったらもう、手出しが出来んぞ。いや本当に」
「流石にそれは……その、無いと願いたいですね」
せめてフォレストセル位の大きさで頼みますとレフィーヤ誰に向かってという訳でも無く祈る。せめてうちに、と何か聞こえた気がするが無視。幻聴は良くないなと思い手摺からよいしょと降りて。
「そろそろ私は帰りますけど、ローウェンさんは?」
「あれを確かめてからだな」
「あれ?」
それは何なのか、いや訊くまでも無い。今の状況で在れと言ったら一つしかない。そう思ったのと同時に、大音量の歓声が響き揺るがす。それを聞いて思わず耳を塞ぎながら。
「終わったんですか」
そう呟いたレフィーヤは新たな姿を手に入れた気球艇を見た。