世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百九十三話

隠されていたのかもしれない階段を下りた先に在ったのはもう一つの朽ちた都だった場所。先程まで歩いていた都よりも更に古く、だというのに残っている建造物はしっかりと形を保っている。しかしそれらは彼らの見ていなかった。

 

余りに巨大な人の顔に目を奪われていたから。

 

「…え? でかくない?」

「いやまぁ巨人ていう位だし、可笑しくはない。いややっぱりでかいな」

「完全に想像以上だったんですけど」

「顔しかみえてないのに世界樹を思わせる大きさでござるな」

「というか、これが動き回るの?」

 

そんなコバックの言葉に、想像してみる。目の前に存在する顔しか見えない巨人が、それに見合った大きさの体を持っていたとして、それが動き回る光景を。

 

「……なんか、オーバーロードとは違った意味でどうしようもないですね」

「大砲なら、いや豆鉄砲である事に変わりないか」

「レフィーヤの印術なら若しかしたらッて感じかな?」

 

そう言われても自信はないレフィーヤ。思って居た以上に事態が深刻で在ると理解した彼らはそれでも焦らず周囲への警戒を怠ることなく、しかし巨人に向かって駆ける。

 

 

「やぁ、待ってたよ」

 

 

その直前に、声が響いた。反射的に放たれる術と弾丸。それらはゆっくりと物陰現れた人影に直撃し、何事も無かったかのように、非難するように言葉にする。

 

「酷いな。これと言って敵意の無い俺に対して容赦なく攻撃してくるなんて」

「ヘルメス……ですよね?」

「もう神とは呼んでくれないのか。まぁ、そうなっても仕方ない事をしたし……今の状態を思えばそれも当然の事だな」

 

と、軽く左目を覆う、いやそこから生えている植物をヘルメスは撫でる。

 

「何がどうしたらそうなるんだよ」

「はっはは、いや別に大したことは起きていないよ。巨人を起こした際に影響を進んで受けたからにすぎないよ」

「進んで?」

 

如何いう事なのか、何故そのような事を。

 

「あぁ、また疑問に思って居る様だ。何それも単純な事だ。必要だったからに過ぎないんだよ」

 

大地が揺れる。それが意味することは、分かり切っている。

 

「良くある話だろう。大いなるものを動かす為にその身を捧げる、なんて事は」

「その捧げられる立場の奴が良く言う」

「そうだね、あぁそうだった。俺は、そう呼ばれていたんだったな」

 

揺れが激しくなっていく一方で、眼前の神と呼ばれた男に、ヘルメスに変化が現れる。攻撃を受けた故に、流れ出ていた血が、光となって宙を揺蕩い、巨人に向かっていった。

 

「さて、こうして楽しい会話をしていられるのも後どれ位かな?」

「時間稼ぎか」

「そうだ。そしてそうじゃない。何方でも良いんだ。もう、済んでいるのだから」

 

揺れが続く。それでも揺らぐことなくヘルメスは笑みを浮かべ、その体から生えている植物が蠢き、侵食していく。

 

「すでに繋がりは出来ているからね。このままでも俺と言う存在は巨人に取り込まれ…仮に君たちに殺されたとしても、天に帰る事無く巨人へと注がれる」

「……あぁ、確かにそれならもうどうしようもないな」

 

巨人の目覚めを止める事が出来ない。彼の言葉が正しければだが、そうでは無いだろうとレフィーヤには確信が出来た。そう思った事を察したのかヘルメスは深く笑みを浮かべながら頷いて。

 

「さて、それじゃあ最後の目的を果たすとしようか」

「最後の、目的?」

「あぁ、その為に今もこうして消えてしまわない様にしながら君たちの、いや君の前に立っているのだから」

 

まだ何か、する積りなのかと杖を握りなおす。そして、意識を彼に向けると。

 

「ありがとうレフィーヤ・ウィリディス」

 

と、感謝の言葉を口にした。それは、どういう事なのかとレフィーヤが思うよりも先に彼は続けた。

 

「君だ、君のお陰で俺は今こうしてここに立って、そして巨人を目覚めさせることが出来た」

「…私、貴方に何かしましたっけ?」

「憶えていないかい? だが仕方ない事だ。何せ君からすればちょっとしたミス、或いは世間話程度でしかなかっただろうからね」

 

だが、と彼はすでに動かぬ体の代わりに残った右目を動かし、語る。

 

「君のお陰で俺は思い出すことが出来たんだ。忘れていた、憎むべき相手。俺が俺としてこの世界に人の形を取った理由を。滅ぼすべき相手を思い出す事が出来たのだから。感謝しない方が可笑しい!!」

 

笑みが深まる。そして、彼が何を言って居るのかをレフィーヤは理解し、自分がやらかしたことを思い出した。

 

「ありがとう、ありがとうレフィーヤ・ウィリディス!! 君があの時、オラリオの存在する意味を思い出させてくれていなければ俺は未だに自分でも意味の分からない放浪を続けていた事だろう!!」

 

笑う、笑う、笑う。

 

ヘルメスが笑い、崩れ落ちていく音すら呑み込んで高らかに響かせる。

 

「あぁそうだ!! その為に俺は人の形を持ったのだ! この世界に、星に一つの生命として在ったのだ! ただ只管にあれを滅ぼし、終わらせる為に俺は生きてきた!! おぉ、おぉ!! 故にこそ巨人よ!! 生み出された意味、本懐を遂げる時が来た!!」

 

 

――――――さぁ、巨人よ 昏き禍を滅ぼせ

 

 

その言葉と共に、彼は植物に飲み込まれた。残ったのは一つの人を思わせる植物と、壁を破壊しながら腕を振り上げ大地を突き破り這い上がらんとする巨人。

 

天井が崩壊し光が差し込んできたのを見ながらレフィーヤは思わずと言った様に手で顔を覆った。

 

「…まさかあのやらかしがここまで影響してくるとは思ってませんでしたよ、私」

「そうだな。流石に俺も思ってなかった」

「と言うか、此処までのを完全に予測出来てたら未来予知よね」

「まぁ、だね。凄く面白くなさそう」

「でござるな。冒険のし甲斐が無くなりそうでござる」

 

なんて、どんどん崩れ落ちてくる瓦礫に目を向けらながら言葉にし。

 

「……取り合えず、如何しますか?」

「巻き込まれない様に動きながら祈れ」

「ですよね」

 

咆哮が響き渡り、巨人が解き放たれた。

 

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