世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百九十五話

走る、走る、気球艇が空を走り進む。巨人に向かって、突き進む。

 

だが、しかし。

 

一日、一日だ。巨人が目覚め歩みだし、其の後追い気球艇が空を進んだ時間。しかし、だというのに彼らは未だに何も出来ていなかった。

 

「追いつけませんね」

 

そう、砲弾に術を刻みながら呟き。距離が縮まらない巨人を見る。巨人の動きは速い訳では無い、だが追いつけない。それは単純な規模の違い。幾ら気球艇が速かろうと、巨人はただ一歩、足を踏み出すだけで山を越えてしまう。

 

「正直離されていないだけまだいい方なのかもしれないな」

「だとしてもこれじゃあ本当に何も出来ずに終わりますけど」

「オラリオがな。まぁ、流石にオラリオに居る奴らが何もせずにただ吹き飛ばされるなんて事は無いだろうが…無いよな?」

「無いですよ。こんな分かり易い脅威に対して何もしない様な人たちじゃないですよ」

 

何かができるとは言わないけど。まぁ、それは良いとして、レフィーヤは考える。これは本当に出来る事が無いのではないかと。或いは一か八か術を放つか、それとも壊れる事前提で大砲を術で強化するか。やるとしたら前者だろう。当たらなければ環境破壊だが、そんな事気にしている処では無い、と言うか今まさに巨人に因って破壊されてるし。

 

まぁ、何故か巨人が通った後は緑が生い茂っているが、とてもでは無いが自然な物とは思えない。だから気にしなくても良いかとレフィーヤは杖を構えようとして。

 

「レフィーヤさん」

 

声が届く。杖を持つ手から軽く力を抜き、意味も無く揺らしながら振り返り声を掛けてきた彼女を、アスフィを見る。

 

「なんですか?」

「今訊く事では無いというのは分かっているのですが。でも」

「いえ別に良いですよ。決心が付いのたのが今で、今を逃すともう訊けないかもしれないから声を掛けたんでしょう?」

「そこまで分かっていましたか」

「分かり易かったので」

「…そんなにですか」

「だから誰も貴女に何も言わなかったですよ」

「そう、でしたか。いえ、すみません。気を遣わせてしまって」

「お気になさらず。面倒そうだったから無視してただけっていうのもあるので」

「そ、そうですか」

 

少し困ったように苦笑を浮かべて。

 

「…ヘルメス様は」

「死にましたよ」

「……はっきり言いますね」

「何となくでも分かっていたんでしょう?」

「それは、えぇその通りです。何か、繋がりの様なものが失われたように感じましたから。それでも若しかしたらって思って、今の今まで訊けませんでしたけど」

 

言いながら、アスフィは静かに息を吐いて。巨人を見る。

 

「ヘルメス様は、あれを目覚めさせるために死んだのですか?」

「はい」

「……それを、貴方たちは止めようとしているのですよね」

「はい」

「…そうですか」

「それで、どうしますか?」

「どう、と言われても困ります」

「邪魔しますか? ヘルメスの願いを叶える為に目覚めさせた巨人を止めようとしている私たちを。それとも手伝いますか?」

「それ、は」

「悩みますか。まぁ、仕方ない事ではあるんでしょうけど」

 

レフィーヤはアスフィを見る。鋭く、射貫く様に。

 

「冒険者なら決断してください。神の願いの為に世界を滅ぼすか、或いは裏切ってでも救うかを」

「……なんですか、可笑しいでしょう。冒険者関係ないですよ」

「関係在るなし、其れこそ関係ないですよ。冒険者は危険を冒す者ですよ。結果的に世界の危機に出くわすなんて日常茶飯事ですよ」

「そんな日常嫌なんですけど」

「そんな事はどうでもいいですから、それで如何するんですか?」

「いやどうでも良くはないと思いますけど」

「如何でもいいんですよ……あ、そう言えば言い忘れてましたけど」

「何ですか?」

「別に巨人を止めてもヘルメスの願いを叶える事は出来ますよ」

「…はい?」

 

何を言っているのかと目を丸くしながら声を零すアスフィ。まぁそんな反応しても仕方ない事かと思いながら。

 

「確かにあの巨人を使った方が可能性と言う意味では高いとは私も思いますけどね」

「……あの、ちょっと意味が」

「そのままの意味ですけど」

「そのままだとしても意味が分からないんですよ!!」

「ヘルメスはオラリオの下に居る奴を倒す、いえ滅ぼす為に伝承に於いて迷宮にそれを封じ込めたという巨人を起こしたんですよ。だからオラリオのある方向に向かって歩いているでしょう?」

「初めて知りましたよそんな事!!」

「あ、ヘルメスは言ってなかったんですね」

 

それは大工房を爆破する際に巻き込む積りだったからなのか、それとも逆に。いや考えても仕方ない事かと思い。

 

「まぁ、それも巨人を止めようとしている理由の一つなんですけどね」

「…それは、どういう事なんですか?」

「あのですね、私たちはオラリオの下に何か居るって知っていた訳ですよ」

「そう言えば、そんな事言って居ましたね」

「其れでですね。それを絶対に倒してやるって誓ったわけですよ」

「…あの、それで?」

「まぁ、詰まりですね」

 

ふっと、笑みを浮かべて。

 

「得物の横取りは、駄目ですよね」

「そんな理由?!」

「そんなとは失礼ですね」

 

まぁ、狙っていたという意味ではヘルメスの方がはるか昔からなのだろうがそんな事は関係ない。

 

「で、改めて訊きますけど如何しますか? 邪魔しますか、それとも私たちを手伝って序でにヘルメスの願いも叶えますか?」

「…その言い方は、卑怯だと思います」

「そうですかね? まぁ、実は貴女に拒否権は在りませんけど」

「え? そ、それは何故?!」

「だって言ってたじゃないですか。好きなように使ってくれって」

「…あ」

「忘れてましたね? まぁ、そう言う事ですよ」

「もう、あぁもう!!」

 

頭を掻きむしるアスフィ。しかし暫くするとやけくそ気味に叫んだ。

 

「分かりました、分かりましたよ!! 手伝いますよ!!」

「其れは良かった」

「その代わりと言っては何ですかちゃんとヘルメス様の願いを叶えてくださいよ!?」

「元から其の積りですよ。まぁ、序でにって感じでは在りますけど」

「もう其れでも良いですよ!!」

 

地団駄でもしそうな勢いだが、何とか堪えた様子のアスフィ。それを見ていたローウェンが小さく呟いた。

 

「……これがツンデレってやつか」

「なんか違うような気がしますけどね」

「うるさい!!」

 

怒られてしまったと、お互いに肩を竦める。と言うかなんでツンデレなんて言葉をローウェンが知っているのかと気に成るレフィーヤだが、取り合えずそれを置いておき、言葉にする。

 

「じゃあ最初に訊いておきますけど、あの空を飛べる靴…えっと名前は」

「タラリアの事ですか?」

「あぁそう其れです。それを持って、と言うか履いてますか?」

「えぇ、はい。履いてますが」

「なら良かった。これで考えていたことが出来そうです」

「考えてたこと?」

「はい。ローウェンさん!」

「なんだ」

「一気に近づく事が出来そうですよ」

「と言うと?」

 

そう言いながらも、すでに検討が付いているのか動き出していた。他の三人も同じで、それでも分かっていない二人の為に、レフィーヤは声を響かせる。

 

 

 

「巨人に向かって気球艇を吹っ飛ばします」

 

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