世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百九十六話

気球艇を吹っ飛ばす為に必要な事。それはレビテーションである。ただし唯のレビテーションでは無く、それを印術で再現しようと試行錯誤していた際の失敗の内の一つである。成功したら少し浮くことが出来る其れの失敗とは何が起きるのかと言えば。言った通り、気球艇は吹っ飛んだ。いや違う、より正確に言うならば。

 

巨人に向かって落ちる。

 

「あぁあぁああぁああああああああああああああああああああああ―――――ッ!!」

 

悲鳴をあげていた、泣いていた、文字通り巨人に向かって落ちていく気球艇に必死にしがみつきながら。アスフィは叫んでいた。

 

「落ちる! 死ぬ! 落ちて死ぬ! レフィーヤさんに殺されて死ぬ!!」

「殺しませんし落ちませんよ。ちゃんと縄で体と気球艇を繋いであるんですから」

「死なないとは言ってくれないんですね!!」

「お隣さんですし」

「引っ越したいのですが!!」

「無理です」

「知ってますよぉおおおおおおおおッ!!」

 

と、叫ぶアスフィから視線を外し、凄い勢いで接近している巨人を見る。

 

「思ったより速度が出てますね」

「だなこれならもう少しで攻撃範囲内だ」

「其れは良かった。という訳でアスフィさんも準備お願いしますね」

「お願いされても無理が在るのですが?! と言うか何で平然と立ってられるんですかこの状況で!?」

「技術」

「吹っ飛ばす前に足の裏を凍らせて床にくっつけただけですよ」

「どっちも普通じゃない!!」

「そんな事無いと思いますけど」

 

ローウェンが普通じゃないというのは分かるが、レフィーヤがやって居る事はそう変な事では無いのだから。まぁ、出来る人がどれくらい居るかとで言えば、少ないとだけ。

 

「はい、無駄話はここまでにして。合図したらお願いしますねアスフィさん。出来る限り負担を減らせるように頑張りますから」

「本当にやらなくてはいけないんですか?!」

「えぇはい。何せ今使っている術は止まる事は出来ても減速は出来ないものでして」

「止まればいいじゃないですか!」

「止まったら離されてしまうでしょう」

「其れはそうですけど!?」

「あ、今ですね。お願いします」

「――――――――――ッ?!?!! あぁもう!!」

 

そう叫ぶように言葉にしながら勢いよく気球艇から飛び出すアスフィ。そして気球艇と自分とを繋いでいる縄を掴み、一気に引っ張った。合わせる様にレフィーヤも術を行使する。

 

ギシリッと軋む音を響かせながら速度が落ちる。少し上に向かって気球艇が跳ねるが、其れも想定の範囲内。だからこそ、気球艇は今、巨人の頭部の真横に在る。

 

「寝覚めの挨拶がまだだったな、という訳でおはよう!!」

 

放たれた砲弾が直撃する。衝撃は走り気球艇を微かに揺らし、巨人もまた揺らぐ。効いている、訳では無くただ片足を上げていた処の砲撃だったからそうなっただけだろう。

 

それを理解しているからこそローウェンは止まらず動く。軽やかに気球艇が斜めになっている事など関係ないと言わんばかりに走り、大砲を放っていく。

 

連続する音と衝撃、それは僅かに揺らいでいた巨人を一歩後ろに下がらせ、視線を気球艇へと向けさせた。

 

「リリルカぁぁああああああっ!!」

「もう動かしてますよ!!」

 

巨人の腕が動き、振り上げられる。ただ一つ、攻撃とも言えない様なその動きはしかし直撃すれば間違いなく気球艇は耐えられずに砕け散る事だろう。その上に乗っている彼ら諸共に。

 

だからこそリリルカは取り舵か或いは面舵かも分からなくなりながら全力で廻し気球艇を動かす。後ろの方から聞こえる悲鳴を無視して。

 

振り上げられた腕が掠める様に横を過ぎる。ただそれだけで発生した暴風が気球艇を揺るがしあらぬ方向へと吹き飛ばす。

 

「いやぁああああああああああ?! しぬぅ、本当にしぬぅ?!」

「叫べてる内は大丈夫でござるよ!」

 

悲鳴をあげるアスフィに対してそう言いながら砲弾を装填するゴザルニには、しかし冷や汗を流していた。それは先程の巨人の行動に対して脅威を憶えたからではない。もっと致命的な事を見たからだ。

 

 

巨人が走り出した瞬間を。

 

 

「あいつ走れるのかよ!?」

「予想してた中では最悪に近い其れでござるな!」

「僕たちを排除するのではなく無視することにしたって事か、いや本当に最悪だね!? 出来る事が一気に無くなった!!」

「ちょっと如何するのよ?!」

「もう一回気球艇を吹っ飛ばしますか!?」

「そうするしかないというかさっさとしろ追いつけない処じゃないぞ! ハインリヒはリリルカと変われ! ゴザルニはリリルカが落ちない様にそこら辺に縄で繋いどけ! コバックはアスフィを回収!!」

 

言葉にされるのと同時に行動しすぐさま完了。そして先程よりも速い、気球艇の事や乗っている者たちの事を一切考えていない加速をして一気に巨人へと向かう。

 

だが、追いつけない。いや離されていく。

 

「はっや!? 全然追いつけないんですけど!」

「もっと加速できないのでごるか?!」

「流石にこれ以上は無理ですよ!!」

「け、けけけけしけしきがががすごすすすごいいいいぃいいきおいでながががが?!」

「無理に喋るなリリルカ、死ぬぞ!」

「なんなんなでしゃべえべべべっべ?!」

「だから喋るなって言ってるだろ! あと喋れてるのはただの技術だ気にするな!」

「ぼんばぁあぁああああ?!」

「なんで今ボンバーなのよ?!」

 

いや、きっとどんな技術だと言いたかったのではないかとレフィーヤは思いながらも視線を巨人から外す事無く睨むように見る。

 

 

直後に気球艇は巨人の真横を通り過ぎて行った。

 

 

「はぁ?!」

「おいレフィーヤ止めろ!!」

「分かってますよ!!」

 

気球艇が停止する。勢いよく揺さぶられ、荷物が酷い事に成っているがそんなことを気にしている余裕はない。そんな事よりも今は。

 

何故、巨人が止まったのかという事の方が重要だ。

 

いや何故等と考えるまでも無い。巨人が止まる理由など一つしか思いつかないのだから。故にレフィーヤが見るのは巨人ではなく、その視線が向けられている方向。酷くぎこちないと自覚できる動きで視線を向けて見る。

 

 

 

遠く、しかし確かに瞳に映り込むオラリオを。

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