「ちょっと、いくら何でも見えるの早くないですか?!」
「いや可笑しな事では無いだろ。何せ気球艇を吹っ飛ばしたりしたしな。あと単純に何時もよりも飛んでる場所が高いし、見えても可笑しくはないだろ」
「そうでした」
「其れよりも何で巨人が止まったかだ。オラリオが見えたなら速くなるなら兎も角何で止まったのかが分からん」
「ここから攻撃する積りだからとかじゃないの?」
「この距離から攻撃する手段が在るなら流石にどうしようもないでござるな」
「そうよね、あとはあれに反応したとか?」
「あれってなんだよ」
「あれよ」
と、軽く指差すコバック。その方向を見ると。
「なんかすごい量の人だな。若しかしてあれ全部オラリオに居る冒険者か?」
「多分、いえきっとそうです」
人、人、人。遠く分かり難いが、レフィーヤには彼らが皆、冒険者であると分かった。何故、彼らが在の様に集って居るのかは、考えるまでも無い。巨人と言う脅威に立ち向かう為だろう。
「うわぁ、なんか本当に凄い人ですね。オラリオにあんなに居たんですね」
「いや量に関してはもう良いから。巨人はあれに反応して止まったって事で良いのかな?」
「いや、多分というか違ったみたいだぞ」
そうローウェンは巨人を見ながら言葉にする。如何したのかと言葉に釣られてレフィーヤもまた視線を戻すと、巨人は近くに在った山に向かって手を伸ばしていた。
「え、ちょっとまさかですけど」
まさかと想像してしまいレフィーヤの顔が引き攣る。酷く珍しい事にローウェンもまた顔を引き攣らせていた、と言うか全員そうなっていた。きっと遠くに集って居る冒険者たちも同じだろう。
そんな彼ら等気にも留めず巨人は其のまま山の麓部分に腕を突き刺し、引っこ抜いた。そして、そうしてそのまま巨人はそれを持ったまま。
「動かないとは余裕だな、おい」
砲撃が直撃する。
「よく考えるまでも無く動かないなら的でしかないぞ、おい」
「はいどんどん叩き込んでいきましょうねぇ」
「これ撃てるでござるよ」
「もう少し近づくかい?」
「じゃあ術の届く所までお願いします」
音と衝撃が連続する。絶え間ない砲撃は的確に山を掴んでいる巨人の指に叩き込まれていく。だがしかし、それでも巨人は止まらない。山落とさぬようにか指を食い込ませ勢いよく振り上げて…投げた。
飛んでいく、山が飛んでいく。オラリオに向かって飛んでいく。情け容赦なく無慈悲にオラリオを、迷宮を押しつぶさんと飛んでいき。
真横から巨大な氷塊が叩き込まれる。
軌道がズレる。オラリオへと向かっていたそれは掠める様に城壁を吹き飛ばしながら転がり、大地を揺るがして停止する。それを見て、氷塊を叩き込んだレフィーヤは力強く腕を振り上げた。
「しゃあっ!!」
「あの大きさだと飛んでても当たるか」
「何と言いますか凄いですね。あ、変わりますハインリヒ様」
「あれリリルカ。変わるのは良いけど落ちない様に縄で縛られてなかったっけ?」
「縄抜けしただけのなのでお気になさらず」
「そっか、じゃあよろしくね」
「はい」
「いや色々と可笑しくないですか?!」
『いや全然』
声が重なる。どうやら本格的にリリルカも仲間入りした様だ。心の中で拍手しながら思う。ようこそキチガイの世界へと。
何て事をしている間にも巨人は動く。大きく腕を振り上げ足を踏みだす。オラリオへと接近する積りなのだろう。それを見て、何もしない訳が無いと砲撃と術を叩き込む。
が、しかし。いや、やはりと言うべきか巨人は止まらない。僅かに揺らぐことはあれど、歩みを阻むには至らない。
近づいていく。
近づいていく。
オラリオへと近づいていく。
遠くで在ったはずの冒険者が間近である場所まで足が伸びる。それと同時に激しく光が瞬き、無数の術が放たれて巨人へと向かう。
だが、止まらない。直撃しようとお構いなしに突き進み、これらを跨いで先へと向かう。
潰すのではなく、巨人だからこそ出来るそれに思わず声が零れそうになる。だがそんな事をしている暇はない。何せ巨人はすでにオラリオの目前だ。今からでは幾ら気球艇を吹き飛ばそうとも間に合わない。
巨人は辿り着く。オラリオに辿り着いてしまう。故に巨人は動く、進むのではなく壊す為に。腕を振り上げてオラリオに向かって、いやその下に在る迷宮に、そこに居る禍に向かって…振り下ろす。
音、音、音。
壊れていく音。
吹き飛んでいく音。
崩れていく音。
街が、多くの人々が日々を過ごしていただろう街が。多くの冒険者が挑んでいただろう迷宮が。壊れて、吹き飛んで、崩れていく。象徴の如く聳えていたバベルが、崩壊していく。
それを彼らは、人々は、冒険者たちは見ていた。見ている事しかできなかった。今まで自分たちが居た場所が失われていく光景を、止まらないとさらに腕を振り上げる巨人を。
そして、地面を突き破り這い出てきた何かを。
「――――――――――――――え?」
それは、誰の声だったのか。きっとリリルカだろう。アスフィはそれを見た瞬間に膝から崩れ落ちてしまったから。
あぁ、空気が死に絶えていくのをレフィーヤは感じていた。
這い出てくる、蠢いている。あれだけどうしようもないと思って居た巨人が、捕食されているかの様に絡めとられていく。世界樹の如き巨体を持つ巨人よりも、なお巨大なそれに。
「な、に……あれ」
声を震わせながら酷く青ざめたアスフィが、絞り出す様に言葉にする。あれが何なのか。それを彼らは知っている。
「……あれが、ヘルメスが巨人を叩き起こしてまで倒そうとした存在」
震えてはいなくても自分の声が硬く、緊張している事を自覚しながらその語られる名を告げる。
―――――『昏き禍の神』と。