世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百九十八話

終末を思わせる光景だった。

 

巨人が咆哮を轟かせながら自らを締め上げる昏き禍の無数にある触手を掴み取り引きちぎり、昏き禍はそれを気にも留めずさらに強く蠢き纏わりつく。大地を揺るがし、削り、崩しながら。

 

悲鳴を上げ逃げ惑う人達が居る。

その場に崩れ落ちる人達を居る。

抗う様に剣を構える人達が居る。

 

そして皆一様に、目の前の終末に何も出来ずにいた。そんな多くの人々をレフィーヤは気球艇の上から見て。

 

「なんか思っていたよりかなり大きいですね」

 

いなかった。その視線はそらされる事無く、巨人と昏き禍へと向けられていた。

 

 

「世界樹位大きい巨人よりも大きいとは流石に思っていませんでしたよ」

「感覚が可笑しく成るな」

「しかし、あれが昏き禍の神か……雰囲気的にはフォレストセルと似ている、かな?」

「そう、ね。確かにそう言われればそうね」

「そのフォレストセルは聞いただけでござるから分からないでござるが。あれと似ているというだけで聞いただけよりもやばさが良く分かるでござるな」

「と言うかあれと似ているのが存在しているという事にリリは戦慄を隠すことが出来ません」

「あれ? リリルカさん大丈夫なんですか? さっきまであんな青ざめてたのに」

「ちょっと吐いて来たのでもう大丈夫です。何時でも動かせますよ」

「いやぁ、強くなったねぇリリルカも」

 

そんな会話をしている彼らをアスフィは見る。そして何か言葉にしようとしているのか口を動かしているが、ただ歯と歯がぶつかり合う音だけが響く。酷く震えている故に、言葉を口にすることも出来ないのだろう。だが、何を言いたいのかは何となくレフィーヤは理解した。だから言葉にする。

 

「言ったでしょう? 日常茶飯事だって。あの程度、は流石に言い過ぎですが狼狽えていては今ここに私たちは居ませんよ」

 

彼女が震えたまま、首を振った。普通じゃないとでも言いたげに。

 

「…あぁ、リリルカさん。そんなに可笑しな事ですかね?」

「まぁ普通では無いでしょうね。あれを見て正気で居られるのは」

「瘴気の中で戦った事が在りますからね」

「は?」

「すみません、忘れてください」

 

血迷った事を口にしてしまったとレフィーヤは深く後悔した。具体的にローウェンやハインリヒが嬉しそうに笑みを浮かべているのを見たから。絶対に弄られる。

 

まぁ、今は関係ないから置いておくとする。

 

「で、如何しますか? 今から近づきますか?」

「いや流石に今は無理だな。確実に巻き込まれるし」

「でも、だからと言って何もしないという訳にもいかないでござるな」

「いえ、今は何もしない方が良いと思いますよ」

「それは何故?」

「なんかこう、囁いたというか」

「誰が?」

 

『わたしが、ですね』

 

あっ、と言う声が零れた。視線が巨人と昏き禍から外れて、目の前に現れた物に注がれる。ふわりと宙を舞う、光に。

 

「貴方は」

『えぇ、はい。お久しぶりです。と言っても、ずっと見てはいましたが』

 

そう、言葉にしながら光は確かな形を作り、そして笑みを浮かべた。栗鼠の姿で。

 

 

そして殺意の乗った攻撃が殺到した。

 

 

『死ぬかと思いました』

「まぁ、前に私に殺されかけたのにまたその姿に成ったのが悪いですから」

『それは、そうですね。確かにわたしが注意すべき事でした』

「次が在れば気を付けてくださいね」

 

そうします、なんて頷く栗鼠を見ながら、ローウェンは言葉にする。

 

「っで、このとても憎たらしい姿をしてるこいつ、こいつ? と言うかこれ? が、レフィーヤの言ってたやつか」

「えぇ、この人…では無いですけど。が私を貴方たちの所に返してくれた恩人です。人じゃないけど」

 

色んな意味で人ではない彼、いや彼女かも知れないが。

 

「で、今の状況で何もするなと言うのはどういう事なんですか?」

『それは単純な事です。ただ待つ。それだけの事なのですから』

「待てば今の状況が良いものに変わると?」

『えぇ、はい。あと少しで集まりますので』

「集まるって」

 

如何いう事なのかと、そう問いかけようとした。だがそれは空をも揺るがす絶叫、悲鳴に因ってかき消される。弾かれる様に、視線を向ける。

 

そして見たのは、腕を引きちぎられ様としている巨人の姿だった。もはや力など入らないだろうに、それでもと千切れかけているその腕を使って少しでも多くと触手を掴み取ろうとする。だが、駄目だ。既にもうどうしようもない程に終わっている。その腕にはもはや、昏き禍を掴む力など残っていない。

 

腕が千切れ落ちた。血の様な何かが滴り落ち、大地に緑を齎すと同時に腐り落ちていく。あぁ巨人が崩れ落ちていく。その瞳から血の如きそれを流しながら。

 

腐っていく、腐っていく。星が腐っていく。終わっていく。人々の恐怖をと共に、巨人を昏き禍は呑み込んでいく。不快な、笑い声の様な音を響かせながら。

 

それを、彼らは見ていた。栗鼠の姿をした意思を持つ光の言葉の通りに。見ていた、いいや見たのだ。言葉の意味を示すその光景を。

 

 

『あぁ良かった。ちゃんと皆…間に合った』

 

 

無数の光が、空から降り注ぐ光景を。

 

 

 

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