世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百九十九話

揺れる、揺れる。光が降り注ぐ。栗鼠の形が崩れ光に戻りながら揺蕩う。酷く淡く瞬く。次の瞬間には消えてしまうのではないかと思う程弱く。

 

『遥か昔、わたし達は何もできなかった。空より訪れた災厄を前に、唯震える祈る事しかできなかった』

 

悲し気に揺れる。恐れる様に瞬く。懺悔する様に言葉を響かせる。

 

『昏き禍が降り立った時、わたし達は過ちを犯した。恐れながら、狂ってしまった。多くの同胞が争ってしまった。あなたを歪な姿へと変えさせてしまった』

 

光が集い、廻り、消える。崩れて消える。

 

『それでも諦める事が出来なかった。過ちを積み重ねたとしても、それでもわたし達は取り戻したかった』

 

消える、消える、消える。光たちが崩れて消えていく。それでも巨人へと集う。其れはまるで空を覆う大樹の枝葉の如く。

 

『争いが在った、悲しい事も在った。それでも笑う事の出来た、縛られることの無かった自由な世界を』

 

あぁ崩れていく、光が。意思が光から薄れてくのを彼女は感じていた。とても近く、そして繋がっていたから彼女には分かった。

 

『奪われて、試されて、また過ちを犯して、だけど…それが今に繋がって』

 

瞳が在ったならば、きっと彼らを見ていただろう。けれどもはや崩れ消えゆくだけの光は、それでも言葉を響かせる。

 

『これ、は。わたし達からの、願い。いえ、いいえ。あなた達への、依頼』

 

悲鳴が聞こえる。巨人が軋み、ひび割れる音が響く。けれど、掠れ消えかけの言葉は、それでも彼らに届く。

 

『終わらせて、ください。神々も、人々も、禍に縛られる、事の無い世界、に、する為に。自由を』

 

光が零れ落ちていく、まるで涙の様に雫となって大地に向かって落ちて消えて。

 

『渡せるものなんて、無い。あぁ、依頼なん、て。そんな事言えないのに、でもわたし達は』

「いいや、報酬ならちゃんとあるだろう」

 

途切れ途切れ言葉を遮る様にローウェンの言葉が響く。否定するように、自分たちが得るものが無いんなんて事は、無いのだと言葉にする。あぁ、そうだ。その通りだとレフィーヤもまた、彼ら同じように頷きながら、笑う。

 

「そうですね。確かに、とても魅力的な報酬が在りますね」

「命を懸ける価値が在る位ね」

「滾るでござるな」

「本当にね」

 

体を解す様に動かす。皆やる気に満ちている。だが、消えかけの崩れていく光は、困惑しながら言葉を響かせる。

 

『い、いえ。わたし達、は。あなた達が求める様なもの、は』

「何度も言わせるな。確かに、昏き禍を超えた先に俺たちが求めるものを、お前たちは用意しているじゃないか」

『それ、は……?』

 

何なのかと、光は問いかけた。あぁ本当に分からないのだなと思いながら、ローウェンを見る。彼は、とても嬉しそうに笑いながら、わざとらしく腕を広げて…答えた。

 

「自由が、在るんだろう? 冒険者にとって喉から手が出る程欲しいものじゃないか。それが、報酬として相応しくない訳が無いだろう」

 

その言葉を聞いて、光が微かに震える。そして…笑った。忘れていたと響かせながら、あぁ光を零す。それが自らの命の欠片で在ることなど、気にすることなく響かせる。

 

『あぁ――――――あぁ、そう、でした。あなた達、は…そうなの、でしたね』

 

だから、だからこそ。

 

『あなた達は、迷う事なく進む事が出来るのかもしれませんね』

 

途切れず、光は言葉を紡ぐ。崩れていた光が確かな輝きを放つ。迷いなく、曇りなく。真っすぐ巨人へと向かう。

 

『今、この瞬間。そこに立っているのがあなた達で良かった』

 

意志ある光は、光たちは消えた。後に残るのは、ひび割れた巨人と蠢く昏き禍。そして、響く声。

 

『これが、償いになどならない事は分かっている』

『それでも、わたし達に出来る事はこれしかない』

『歪めてしまったあなたに出来る、唯一の事』

『あなたがそれを望んでいなかったとしても、わたし達はそれを望みます』

『あなたの、正しき姿を』

 

声が重なる、幾重にも幾重にも。重なり合い、響き合う。世界に届く。全ての命在る者たちへと届く。

 

続けざまに音が響く。巨人から音が響く。壊れる音で無く。変わる音が、いいや戻る音が。広がっていく、ちぎられた腕から、空を覆う様に枝葉が広がる。崩れ落ちようとしていた足を支える様に根が伸び大地を支える。

 

支え、覆う。まるで世界樹の様に。

 

昏き禍から悲鳴が響く。絡みつき、締め上げていた無数の触手を腕で在った枝葉が、足で在った根が、体で在った幹が封じる様に抑え込む。

 

ミシリッと巨人であった世界樹から軋む音が響く。逃れ出ようと昏き禍は足掻き、強く強く大地ごと世界樹を揺るがす。それでも、逃しはしないと伸び支え、広がり覆う。

 

昏き禍から瘴気の如き何かがあふれ出る。中心が開く、まるで悪魔の如き姿を晒し、力が集っていく。世界樹を破壊しようとしているのだろう。このままでは、唯抑える事しか出来ない世界樹は、砕け、壊れ、折れてしまう事だろう。

 

 

彼らが居なければ。

 

 

一発の砲撃が放たれる。それは狂いなく昏き禍の力が集う場所へと叩き込まれ。そして光を放ち炸裂する。再びの悲鳴。それは意識の外からの攻撃で在ったからこそのもの。ただの砲撃が効きはしないことなど彼らはよく分かっている。

 

だから、彼らは降り立つ。新たなる世界樹の頂きに音を響かせ気球艇から降り立つのだ。

 

「いやぁ、まさか気球艇から直接頂に降りる事が出来るとは思ってませんでしたよ」

「まぁ、今までの世界樹は直接行くには色々と問題が在ったしな」

「オーバーロードとか、原初の闇とかだね」

「そもそもアルカディアの世界樹の頂きはちょっとあれだったものね」

「そう言う意味ではとても貴重な体験でござるな」

 

封じられていたとしても、世界を滅ぼす事の出来る昏き禍を前に、彼らは変わらずいつも通り言葉を響かせる。その、緊張をした様子の無い、無謀な行いをしようとする愚か者で在る様に見える彼ら。なのに、其れなのに。怯え心折れてしまった彼女は、アスフィはそれでも自らの足で立ち禍へと挑まんとする彼らの姿に、思うのだ。

 

 

あぁ、彼らはまるで―――――――

 

 

「それじゃあ…行くぞ」

 

 

――――――まるで、英雄の様だと。

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