塔を見た。とても高い、高い摩天楼と呼ぶに相応しい威容を誇る塔を。
神を見た。崇める、という事はとてもしづらい性格だけど、自分の事を大切にしてくれている神を。
人を見た。自分よりも強くて賢くて、とにかく凄い誇りある人達を。
そして、嗚呼。憧れを見た。ゆっくりと、それでも確かな足取りで。深い深い地の底に広がる迷宮へと向かうその憧れは、ふと足を止め、自分を見る様に振り返って。そして。
「イトモッタ?」
「いやなんで糸何ですかアイズさん?」
思わず、声に出しながらレフィーヤは起き上がる。なぜ、何故糸なのだと疑問に思いながら。思い出して見れば昔、リスにも言われた事だと思いながら。しかし、しかしだ。
何故糸?
如何して糸?
糸とは一体?
それともイト違いなのだろうか?
糸では無く意図なのだろうか?
いや、意図を持つって何だ?
覚悟とかそういうあれなんですかアイズさん?
でも覚悟を決めたアイズさんはとても素敵で良いと思います!!
と、何やら悶えるレフィーヤ。自分がいる場所が何処なのか分からないと言う事実が完全に頭から抜け落ちてしまっている様だ。
「………えぇ」
だから、誰かに見られるかもしれない等と考えても居なかった訳で。人に、しかも男性に見られた事に気が付いたレフィーヤ。走馬灯のように、先程の行動が脳裏を駆け抜けて。
―――――あ、変人だこれ。
と、自分の客観的な視点から見えてしまった。どれ程あれな行動をしていたのかを。だから、目の前に居る男性がドン引きしたような表情も仕方ないと思い。
「……ごゆっくり」
「すみませんちょっと待ってもらえませんか?!」
まぁ、それとこれとは別なので、出来れば変人認定されたくないレフィーヤは、出て行こうとする男性を留めようと言葉を荒げた。
「……あぁ、えっと、うん。取りあえず、元気そう…だな。うん」
「えぇ…はい」
言葉に詰りながらも、しかし安堵した様に語りかけるのは、先程のレフィーヤの痴態と言ってもよいだろうそれを見てしまった男性。対応に困っているのかも知れない。けれど仕方ない事だろう。レフィーヤ自身、若しも同じような光景を見たら困るのだから、というか呼び止められようと無視してしまうかもしれない。関わりたくないと言う意味で。まぁ、言い訳の際に更にあれな姿をさらしてしまった気がしなくも無いレフィーヤは、考え無い事にした。
「うん、取り敢えず名乗っておこうか。俺はローウェンと言う。よろしく」
「あ、レフィーヤ・ウィリディスです。よろしくお願いします」
じゃなくてと、内心で思わず名乗ってしまった自身にツッコミをいれる。そしてレフィーヤは考える。
今に思えば、幾らなんでも女性の寝ている場所に何も言わずに入ろうとしたうえで覗き見るような行為を目の前の男性、ローウェンはしていたのではないか?
そう思い至り、指摘しようとして……止めた。更に考えれば彼女自身が妄想にふけっていた故に、ノックなり声掛けなりを聞き逃していた可能性が無い訳では無いのだから。寧ろ、大いに在り得る、というか其れなのだろう。
賢いレフィーヤはそっと心の奥底にしまった。
「しかし、レフィーヤ・ウィリディス…か」
思った事をしまったレフィーヤ。ふとローウェンを見ると何か考え事をして居る様だった。彼女の名前を呟いている事から、レフィーヤの事を考えて、いや、思い出そうとしているのだろう。
と、急に顔を上げてレフィーヤの事を見るローウェン。何事かと身構えそうになる彼女に、一つ確認したい事が在るのだが良いだろうか?
それは一体と、見返せば。それを肯定と受け取ったのか、彼は小さくうなずいて。
「レフィーヤなのか、レフィーアなのか。何方なのか教えて欲しい」
「ヤです、レフィーヤ!!」
「そうか、ありがとう……あぁ、流石に行き成り名前を呼ぶのはあれか、取り敢えずウィリディスと呼ばせてもらうぞ」
良いかな?
と、確認する様に言葉をレフィーヤに投げかける。彼女は頷く。別に、という事でも無いが名前で呼ばれても構わないと少しだけ思わなくも無いが、気にしてもらえる事に越した事は無いからだ。
「さ、自己紹介も済んだ所で本題を訊こうか。なんでなんの準備もしていない様な状態であそこに居たんだ? 幾ら不思議ノ迷宮が訓練用に使われる場所とは言え・・・流石にな」
そんなのはこちらが知りたいとレフィーヤは思う。そしてそれを口に出そうともした。したのだが、一つ気に成る言葉が在った。
不思議の迷宮って……何?、と。
その言葉を、彼女は知らなかった。いや、或は彼女の知るダンジョンと言うものの別の呼び方なのだろうかと考え直して。
けれど、いやな予感が付きまとっていると理解した。
だから、そうだから。幾つか聞かなければいけない事が在る。少し、怖いと思いながらも。 それでも、確かめなければいけない事が・・・ある。だから、レフィーヤは口を開いて問い掛ける。
「此処は……何処なんですか」
「此処か? アスラーガに在る旅籠かすみ屋って言う宿の一室だが。因みに、借りたの俺だから」
知らない。彼女は知らない。アスラーガ等と言う場所は、知らない。いや、いいや。知らない街、場所が在るのは当然だ。何故ならレフィーヤと言う少女は神では無いのだから。だから、仕方ない事だ。そして、彼女にとって真に重要と言えるのは、彼女が本当に聞きたい事は此れから口にする事。
「じゃあ、一応。一応ですよ? 確認なんですけど……いいですか?」
「いや、其処まで念を押されなくても構わんのだが」
「そうですか、それじゃあ――――――――――――」
「オラリオって、知ってますか?」
「何だそれは?」